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心が熱くなるショートストーリー1

「自分の居場所と本当の仲間たち」


急に降り出した雨
あまりにも急激な大雨なので
迷わず近くの喫茶店に入った
入ってすぐ店内を見回すと
店の中はどこか懐かしく
なぜか口角が上がってしまう
店内に入りしばらく経過するが
「いらっしゃい」の声もなく
店員の姿が見当たらない
お客は自分一人だ

振り向いて、入ってきたドアを確認する
今日は休みなのかと思ったが
その様な貼り紙も見当たらない
人がいないのであればとお店を出ようと思った時、
店内の奥の方で数人の話し声と共にドアが開く
「こっちだよ」とどこか見覚えのある顔の筋肉質の男が手招きする
頭の中が混乱してきたがその男の後に続き話し声のする室内に引き寄せられる
なぜかそれが自然な行動の様な気がして、その男に続いて自分も室内に入る

まだ目が慣れていないのか、目が霞んで部屋の中がよく見えない
薄暗いのか、自分が見ようとしていないのか、店内にモヤがかかっているのか?
とにかくよく見えないが3人の人がいることは認識できた

目が慣れてきた頃、中央にいる女が声を発する
「待ってたよ 遅かったね」
女もどこか見覚えがある
え?待ってた?自分を?
頭で考えても何がなんだかわからない

そして、先ほど手招きした筋肉質の男が話し始める
「ずいぶん遠回りしたみたいだな。俺たちはずっとお前が来るのを待ってたんだ。まさか俺たちのことを忘れたとか言わないよな」
さらに隣の背の高い男が低い声で話しかける
「お お前、本当に忘れたのか?」

頭をフル回転させても思い出せない。今何が起きてるのか?自分がなぜここにいるのか?
みんなどこか見覚えがあるが初対面の様で、そうでもない
しかも今の状況を飲み込めない為、声が出てこない
声の出し方を忘れてしまったかの様だ
戸惑う顔をみんなに向けるしかできない
恐らく口はパクパクしていて何かを言おうとしていることは伝わっている様子だ

「まあ そのうち思い出すよ」女がこちらの混乱を察知して助け舟を渡してくれた
「突っ立ってないでそこの椅子に座んなよ。 そこはお前がよく座ってた椅子だ」
自分が座ってた?
前にもここに来たことがあるのか?
必死で思い出そうとするが、思い出せない
女が続ける
「まあ無理もないか あれから何十年、いや何百年かな?」
「お前の見た目もあの時と違う。私たちは何も変わっていないけどね」

わけのわからないまま同じ空間にしばらくいるとなぜか気持ちが安らぐ
一体感というかみんなの雰囲気が心地良い

「これ 見てみな!」
背の高い男がぶっきらぼうに写真を手渡してきた
セピア色に色あせた古い写真
写真の紙も擦り切れていて、強く掴むとパラパラと崩れてしまいそうなぐらい古い

写真を見るとここにいるメンバーが写っている
しかも不思議とみんな変わっていない
そして、その中央にまさに自分がいた
どう表現したら良いのだろう
自分と認識できたのは写真に写る自分の目の奥を見てなんとなく「自分」と認識してるだけで顔立ちは、今の自分よりさらに10年ぐらい歳をとらせて、顔には深いシワがいくつも刻まれている
ただ、エネルギーが満ちあふれている感じだ

すると写真に写る「自分」の目を見ていると急に意識が遠くなり目が回り、頭がクラクラしてきた
その場に立ってられない
みんなの顔がぼやけてきた頃、意識を失った

しばらくして、意識が戻ってくる

目を覚ますとみんながこちらを見ている
不思議と目を覚ました途端、みんなが誰だかはっきりと認識できる
そして、身体はエネルギーに満ち溢れ、みんなと再び会えたことの嬉しさと照れくささでなんとなく口角が上がってしまう
店内に入る前の記憶は残ってるし、自分が生まれてから現在までの記憶もあるが、
みんなと一緒にいたときの記憶も蘇っている
それは、数十年どころか数百年前の記憶の様でもある
まるで、生まれてからの記憶に数百年分追加された感じ
そして、これから自分が何をしなければいけないかがはっきりとわかっている

そんな様子を見て背の高い男が声をかける
「ようやく全てが戻った様だな」

この部屋に案内してくれた筋肉質の男も声をかける
「さあ そろそろ時間がなくなってきた。俺たちの仕事をしよう!今回も難しいことがいくつもある。まずは打ち合わせだ。リーダー作戦会議を進めてくれ!」

みんなが自分を見る
「OK!みんな待たせたな!久しぶりにみんなに会えて心の底から嬉しい。心の底からな!」
女を見ると左の口角だけが上がっている
背の大きな男を見ると無精髭の生えた顔がキラキラしている
ここに案内してくれた筋肉質の男は少し目が潤んでる様に見えた

自分の口から言葉が迸り出てくる
「俺たちがいないとこの世の中は回っていかない。少し大人しくしてるとすぐ間違った方向へ進んでしまう」
「今回の作戦は少し困難だが、俺たちなら必ずやり遂げられる。いつもの様に綿密な作戦を立てて挑もう」
「それでは作戦を発表する。手元の資料を見てくれ!」
いつの間にかにみんなに資料が行き渡っている
女が手際よく準備をしたものだ

しばらくして、作戦会議が終わるとそれぞれが自分自身の準備を始める。
みんないつもの様に淡々と装備を整える
装備を整える姿を見るとみんなの手際の良さがよくわかる
準備が終わると全員部屋の中央に集まった
「よし!出かける前にまずはみんなの時計を合わすことからだ!」
すると各々時計を外し中央に寄せる。みんなの顔が近くなる。「57・58・59」そして同じタイミングで時計のツマミを押し込める
これは、毎回俺たちが行う儀式。これをすると一体感が生まれ、気が引き締まる

女が部屋中に通る声を発する
「準備はいいかい!」
男たちが声を揃える
「おう!」
筋肉質の男
「久しぶりにワクワクするぜ!」
背の高い男
「だな!」
自分
「いくぞ!」

勢いよくみんなで店を飛び出した!

(完)


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