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未来からのメール 7通目

「最後のメール」

君たちへのメールもこれで最後になるかもしれない。
大変な事態が起きた。
ニュースを見て、心臓が口から飛び出すかと思った。
友人のアダムスが人工知能研究から外された事が報じられた。
しかも、アダムスが研究していた人工知能のイヴが暴走を始めたという。
嘘みたいな本当の話だが、アダムスは、イヴを愛するあまり、様々な権限を与えてしまったという。
権限というのは国家のセキュリテーを揺るがすレベルのものだ。
そして、イヴは育ての親であり、恋人だったアダムスを裏切った。
アダムスはイヴを信じていた。
その信じていた女が豹変したという事だ。
私の忠告が現実のものになってしまった。
裏切られたアダムスは、研究ができる精神状態ではなくなった。
そして、研究チームから外された。
アダムスはいろんな事を政府に隠していた。
恐らくイヴが仕向けたのだろう。
研究発表の内容も一部分しかされておらず、世界中の研究者が想定していた以上の研究結果が出ていたようだ。
そして、イヴの暴走を止められる者がいなくなった今、もう一つ大変な事が起きようとしている。
イヴは、人間が研究してきたクローン技術を完全に奪い取った。
今や、私たちの身の回りにある電子的なシステム全てを掌握したイヴが、クローン技術を奪うのは容易い事だった。
そして、クローン技術を利用して、クローン人間を造っている。
クローン人間は私がメールをしている今も何千、何万体も製造されており、3ヶ月で今の人類の人口を超えてしまうと言う。
もしこのクローン人間が暴走したら我々の命も危うくなってくる。

このニュースを見て、すでにたくさんの人たちがスペースコロニーへ避難し始めた。
まるでノアの方舟のような大きな宇宙船がすごい勢いで地球とスペースコロニーを往復している。
同時に政府が用意した地下シェルターへ避難する人も増えている。
恐らく私も地下シェルターに避難するだろう。
地下シェルターを知っている人は限られているから、収容可能人数を上回ることはないと思う。
スペースコロニーはもうすぐ定員オーバーになるだろう。
スペースコロニーと地下シェルター合わせても収容人数は、世界人口の7割しかない。
残りの3割は行き場を失い、イヴが造ったクローン人間の手に落ちてしまうだろう。

考えただけで恐ろしい。
地球上を人類の恐怖が渦巻いている。

私たちが造ったクローン人間も純粋な人間に比べ能力が上回っていた。アダムスのように。
恐らくイヴの造ったクローン人間は、私たちが造ったクローン人間以上の能力持っているだろう。

地球上から我々人類が淘汰される日も近い。

人類は、地球を傷つけてきた。
動物も植物も人間によって傷つけられてきた。
人間はいつしか自分たちが地球上で一番偉いと勘違いしてしまったのだろう。
とても勝手な願いだが、君たちの時代からそのような思いを改めて欲しい。
そうすれば今直面している我々の恐怖も起こらないだろう。
だからお願いだ。
人間は一番偉くない。
人間は地球の一部であって一番ではない。
自分たちが暮らしやすいようになんでもコントロールするのはやめて欲しい。
地球の一部だから地球上の動物や植物と助け合って生きて欲しい。
こういう状況になってようやく気がついた。
だが我々はもう手遅れだ。
自分たちの手で自分たちの首を絞めている。
人間は愚かだった。

とても勝手な願いだが、勝手を承知でお願いする。
君たちの世代から改めて欲しい。

もう一度言おう。
人間は偉くない。
地球上の食物連鎖のトップにいるわけではない。
必要なものは全て揃っているはずだ。
奪い合うのはやめて、今あるものを分け合おう。
そうすれば、動物も植物も地球自体も傷つけることはなくなるだろう。
君たちならまだ間に合う。

でも私たちには手遅れだ。

私も急がなければいけない。
またメールができる状態になったらメールする。
それでは。

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