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昼食事変

胃袋のコンディションは
朝から最悪だった
昼食はいつもの定食屋
本日のお勧めフライ定食
胃もたれしながらも何とか平らげた
名前が何だかわからない
そのサカナフライの写真を彼女に送りつけて
返事を待つでもなく待った
胃袋の重さと格闘していると
お皿の配置が芸術的ねと
彼女らしい返事がかえってきた
意外なところを褒められて
単純だとはわかっていてもニヤつく
気分が少しよくなったところで店を出て
自転車にまたがった
そのままある場所へ向かう
途中近道にしている路地裏で猫を発見した
背中の縞がくっきりとした茶トラの猫
以前もこの場所で会った事がある
カメラを構えるとさらりと逃げられた
行き場のなくなった右手をおろすと
胃袋がギュルギュルと鳴った
わかる
そうだよな
写真くらい撮らせてくれたって
いいじゃないか
いやしかし猫には猫の事情があるのだ
胃袋と脳内で1人会議が始まる
こんな事をしている場合ではない
行かなければ
空腹で話せる相手ではないと
食いたくもない飯を食った
その判断は間違っていたかも知れない
ギュルギュルとまた音がする
何の音だ、と思った
知らないふりをする
いやわかっているのだ でも
知らないふりをする
上手くいなせたはずなのだ
昨夜確かに飲み込めた
きっとさっき食べたフライと
相性が悪かったのだ
そもそもなんのサカナだ
こんなにやかましく
ギュルギュルと
おのれを主張してくる
たのむ少しの間だけ静かにしていてくれないか
急にぐるんと内臓が動いた
お腹の中身がせりあがってくる
嫌な感じ
悪寒
びたびたと音を立てて
半分蕩けた昼食が地面にひろがった
苦しい
もう一度と内臓が蠢く
苦しい
このまま内臓も全部でてしまいそうだ
気が遠くなりかけた時
やっと動きが止まる
たちこめる消化液の匂いと
口の中の違和感に
再び気分が悪くなる
最悪だ
無理して食わなきゃよかった
これで全部かな
、、、いや
まだいる
あれがまだだ
出ようとしているのはあれなのだ
息が再び荒くなる
自分の呼吸と心音がうるさくて
ほかには何も聞こえない

そうして
喉の奥から
少しずつ
せりあがる

ああ そうだ

これだ

これが

昨夜から胃に
突き刺さっていた

今すぐにでも

ここから出たがっている

あの

意識が朦朧とする中
足音がした
異常に輪郭のはっきりとした音だった
続いて
見覚えのある
先の尖った靴が視界に入ってくる
むかえにきた
聞き慣れた声が後ろ頭にずしりと響く

南無三

無意識につぶやいた

これが僕の持つ
このよでさいごの記憶だ

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