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アオハルVチューバー+YouTube公式動画〜第38回配信 大きければ大きいほどいいのか?

 その日、エリスの家から帰るとき、玄関でお父さんに呼び止められた。

「これで3日間、ライブ配信を休んだね。部屋でなにしてたの?」

 僕はヒヤリとしたが、お父さんの目は笑っていた。

「なーんてね。ユメオくんのことは信頼しているよ」

「ありがとうございます」

「しかし問題はエリスだ。昨日、あいつのきみを見る目は、女になっていた。ユメオくんも気がついたろ?」

 僕はこの会話が、リビングにいるお母さんとエリスに聞かれないかとハラハラした。

「正直に言ってくれたまえ。女になっていたと思うか?」

「……なってました」

「カーッ! あのエリスがなあ。ついこのあいだまで風呂に入れてやって、お尻拭きでウンチを拭いてやっていた娘が、男の前で女になるとはなあ。変身させたのはきみだぞ!」

 お父さんはやけに興奮し、自分の身体を抱いてクネクネした。

「で、昨日はあれからナニをした?」

「だから、なにもしていません。信用していただいて大丈夫です」

「だから、信用しているよ。しかし問題はエリスだ。あいつ、部屋で大胆になったか?」

 僕は、嘘はつきたくなかった。けれどもバカ正直に、

「ええ。僕に覆い被さって、1回だけキスしてと言いましたよ」

 とは言えなかった。それはエリスに対する裏切りだと思った。

 とは言え、

「いいえ。まったくそんなことはありませんでした」

 と言えば嘘になる。それは、僕を信用してくれているお父さんに対する裏切りである。例えエリスを守るための嘘でも、平気で嘘をつくようになれば、やがて信用を失う。それは、決して良いことではなかった。

「どうだ? エリスのやつ、きみに迫ったりしなかったか?」

「それはノーコメントで」

「ノーコメントってなんだ。芸能人じゃあるまいし。迫ったか迫ってないか、どっちなんだ」

「記憶にございません」

「怒るぞ! もしそれが本当だったら、若年性痴呆症じゃないか。自分より早くボケた男に、娘はやれんぞ。それでもいいのか?」

「でも政治家の方は、皆様そうおっしゃいます」

「それは我が国の政治家が、全員痴呆症だからだよ! そんなことも知らないのか。さあ、話を逸らさないで、エリスが迫ったか迫ってないか言え」

 僕は追い詰められた。天才ゲームクリエイターであるお父さんの探究心は、それほど迫力に満ちていた。

「あと3秒で言え。言わないと娘はやらん。1、2……」

「わかりました。言います。普段より、大胆になってました」

「もっと具体的に。1、2……」

「女の目になって僕を見ました」

「それはさっき聞いた。1、2……」

「手を握ってきました」

「それだけか?」

「肩を寄せてきました」

「その次は?」

 その次は、僕に覆い被さってキスを迫ったのだが、そこは省くことにした。

「次は、えーと、どうだったかな?」

「とぼけるなよ。痴呆症に認定するぞ」

「えっと、そうだ。自分の胸を揉みました」

「なんだって!?」

 お父さんの眼球が、落ちそうなほど飛び出した。

「あのいたいけなエリスが、薄汚れた商売女みたいに男の前で胸を揉んだというのか!?」

「いえ、そういう感じじゃなくて、自分の胸が小さいという話になって、無意識に触ったようです」

「というとうちの娘は、男としゃべりながら、無意識に胸をまさぐるような女だと、そう証言するんだね?」

「ゴメンなさい。僕の説明が下手だったようです。単に胸の小ささを強調していただけです」

「そうか。なら訊くが、きみはどっちが好きなんだ。大きいのと小さいのと」

「僕は、どっちでもありません」

「アホウ! そんなわけあるか! ハッキリ言わないと、きみとここで刺し違えるぞ!」

 お父さんの探求心は、もはや迫力というレベルを超えていた。

「じゃあ僕から言おう。僕はデカけりゃデカいほどいい。ユメオくんはどうだ?」

「僕は、バランス重視です」

「なんだ、バランスって。顔とのギャップか?」

「大きすぎるのは、バケモノみたいに感じます。人間じゃないみたいな」

「オウ、オウ、言ってくれるなあ。人外、最高じゃないか」

「僕は、日本人らしい体型がいいと思います」

「そりゃ日本人は最高さ。童顔だからな。でもいくら日本人らしくても、小さすぎたら幻滅だろ?」

「それはないです。そこでは評価しません」

「そうか。ではないほうが、逆にいいんだね。それはアブナイ趣味だぞ」

「ないほうがいいわけではないですが、ないことによって、ガッカリしたりはしません」

「そうか。じゃあ、もしエリスに胸があったらなあと、想像したこともないのか?」

「すみません。ノーコメントで」

「ダメだ。許さん」

「記憶にございません」

「くどいぞ。言え」

「えー、もしチッパイではなかったらなあと、思ったことはあります」

「ほれ見ろ。最初から、デカいのが好きだと言えばいいのに」

 僕はお父さんに握手を求められ、仕方なく応じた。

「で、目の前でエリスに胸を揉まれて、どうした?」

「HGのモノマネをしました」

「はあ? なんで?」

「成り行きで」

「そんなバカな話があるか! 成り行きでどうやったんだ。ここで見せてみろ」

「いや、それはちょっと」

「やっぱり嘘なんだな。なら娘はやーんない」

「嘘じゃないです。こうやりました」

 僕はスローモーションで腰を振った。

「オッケーイ! 見てくださーい! ゆっくりに見えますかー? ちがいますよー。余りにも動きが速すぎて、逆にゆっくりに見えるんですよー。どうですかー、お父さーん。ワワワッショーイ!!」

 そう全力で叫び、手を股間にあてがって、上にひょーんと伸ばしたとき、

「なにやってんの!?」

 リビングから飛び出してきたエリスとお母さんが、まるで汚いものでも見るような目で僕のブリッジを見た。

 だからHGはもうやりたくなかったのに、嗚呼……


あらすじ(第1〜3回配信のリンク有り)

第37回配信 男と女の好きなところ

第39回配信 交際0日で結婚?


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