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世界でいちばん再生された女子アナの話+YouTube公式動画(短くてすぐ読めるのでプロフィールに固定しました)

 蒼風(あおかぜ)レイカは、名家に生まれ、お嬢様学校を卒業し、ミスキャンパスに選ばれ、テレビ局のアナウンサーになりました。

 彼女はとても美人で、性格も愛らしく、先輩のアナウンサーたちはみな、レイカさんはきっと国民の人気者になるでしょうねと褒めそやしました。

 褒められると、蒼風レイカは嬉しくなって、仕事を一生懸命頑張りたいと思うのでした。

 その初仕事は、事故現場からのリポートでした。

 ビルの工事現場から、誤って、作業員の若い男の人が落下したのです。

 奇跡的に命は無事でしたが、大怪我をしましたし、現場は一時騒然となりました。

 蒼風レイカは、目撃者の女性に取材することができました。

「その作業員の男性が、落ちるところをご覧になったのですね?」

「ええ」

 女性は答えました。そして、それ以上に言う言葉が見つからなかったので、沈黙しました。

 蒼風レイカは、初めての仕事で、何を訊いたらいいのか思いつきませんでした。

 しかし、沈黙が続くので、何かを訊かねばと思い、つぶらな瞳で女性をじっと見て、

「どういう格好で落ちましたでしょうか。足が下でしょうか? それとも上でしょうか?」

 すると女性は目を大きく開いて、突然プーッと噴き出し、レイカの肩を平手でぱしっと叩いたのです。

 レイカはお嬢様でしたので、叩かれると、とても痛く感じました。

(どうして叩かれたのだろう。その前に、どうしてこの人は笑ったのだろう?)

 こういうことは、蒼風レイカには、まったく理解できないことでした。レイカを叩いた女性は、作業員が足を上にして落ちる様を思い浮かべて、その想像を滑稽に感じ、つい笑ってしまったのです。

 そして、不謹慎にも笑ってしまった自分と、そういう笑いを引き出した相手とのあいだに、言葉にしにくい距離の近づきを感じて、その表現として肩をぱしっと叩いたのでした。

 でもレイカにはわかりません。自分が面白いことを言ったとは夢にも思わないのです。

(この女性は、男性がどんな格好で落ちたかを訊いたら笑った。ということは、とても面白い格好で落ちたのに違いない)

 レイカはペンを握り締め、女性に顔を近づけました。

「差し支えなければ、落下のフォームを教えて下さい」

 女性はその場にしゃがみ込み、お腹を押さえて笑いました。

 いくらなんでも、これは笑いすぎではなかろうか? 蒼風レイカも、いささか疑問を覚えました。

 そこでふと、気づいたのです。

(自分に関係のない人の事故は、それほど悲しくなく、どちらかというと面白い話題なのかもしれない)

 それはあながち間違ってはいませんでした。ただし、ほとんどの人はそんなことは言わないし、アナウンサーなら、なおさら言わないほうがいいことでした。

 彼女は女性にもう一度質問しました。

「その落下した(と言って、面白い話題であることを示すためにニコッと笑い)男性は、足を下にして落ちたでしょうか、それとも足が上でしたでしょうか?」

「……し、下、下、下です」

 女性は腹筋が痙攣して、苦しげな息で答えます。

「足は揃って? それとも開いて?」

「そ、そろ、い、いえ、バタバタと」

「教えていただいてありがとうございます。とても面白いものをご覧になりましたね」

 取材ノートを胸に抱き、深く頭を下げたことです。

 さて、いよいよ現場からのリポート。緊張の生中継です。

「事故現場です(ニコッ)。本日午前11時20分ごろ(ニヤリ)、工事中のビルの7階部分から(クスッ)作業員の男性が落下しました(ウフフ)。男性の落下フォームは(アハッ)、足を下に(アハハハ)、バタバタさせていたということです。以上でーす!」

 かわいそうに、彼女はその日でアナウンサーを馘になりました。

 たくさんたくさん怒られて、たくさんたくさん謝って、たくさんたくさん泣きました。

(残念だけど、わたしはアナウンサーには向かなかった。夢はあきらめよう)

 今、蒼風レイカは、ひっそりと、文房具屋さんの店員をしています。

 しかし、あれから3年、あの日の中継を切り抜いた動画の再生回数は、ついに1億回を超えました。

 どのアナウンサーの動画も、その足元にも及びません。

 そして、たった1回の中継で見せた彼女の笑顔は、今も全世界の人々を癒やし、明るい気持ちにしているのです。

(これはフィクション、つまり作者の妄想小説ですが、今考えると昭和の女子アナのNG集はすごかったですね。大胆なヤラセの嵐。でもまた観てみたい気がします)




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