見出し画像

「製造業の三権分立」を知ってます?

1. はじめに

以下の記事は、2021年3月10日にホームぺージで公開した記事をnote用に書き直したものです。
(ホームページのリンク / 独立を考える開発エンジニアへのアドバイス)

その独立は必要ですか? (2021年3月)

再び、新型感染症の国内流行が始まったころに書いた記事になります。
記事を書いてから4か月経過し、読まれるようになってきました。

リモートワークが進み、考える時間が増え、勤務先の将来展望や事業計画に魅力を感じなくなってくると、転職や独立などを考えるようになり注目されるようです。

学校では教えないつまらない情報です。
転職や独立などの行動を起こす前に、企業に対する税制や補助金政策などから、開発に関わるエンジニアの位置づけを考えてみましょう。

意外なことを知ることになります。

2. 製造業における三権分立

『製造業における三権分立』をご存知でしょうか?
製造業は3つの領域に分割され、関連する省庁によって管掌されています。

(開発・設計領域)

新技術、新商品の開発領域は文部科学省が管掌しています。
そのため経済産業省が政策誘導する『ものづくり補助金』には、設計や開発仕様書などの作成や検討に関連する費用は補助対象になっていません。

この領域で行うことは、大学や公的研究機関などが行う基礎研究の成果を新技術として企業に移転したり、新商品として活用してもらうことです。

想定されている成果物は設計図面あるいは製品仕様書となります。

この領域を利用する場合、文部科学省のサポイン(助成金)が利用できます。
また製造現場に成果を落とし込むため、NEDOなどの研究・開発事業などに採択されることで事業費が助成されます(科研費)。

開発に関係するエンジニアの立ち位置は、この領域になると思います。

税法上では、この領域で発生する費用は経費扱いとなり、資産として見なされません。

開発に関係するエンジニアの皆さんからすれば、成果物の図面や仕様書は価値を生み出す資産のように思われるかもしれません。
しかし税法上では経費(開発費用や開発に必要な人件費など)の対価として得られたものです。

残念ながら、その成果物だけでは価値を生み出せないので、資産として見なされていません。
資産であれば、金型と同様に課税対象となります。


税制や補助金・助成金から分類する『製造業の三権分立』

(生産・製造領域)

生産・製造領域は、経済産業省が管掌しています。
事業経営のマネジメントが重要視される部分です。

開発・設計領域の成果物、設計図面、あるいは製品仕様書から生産装置が開発されます。
この生産装置には資材を投入すれば商品が生み出されるため固定資産としてみなされます。
また生産装置を微調整し対価が得られる商品が生産されます。

微調整で、設計図面や製品仕様書は変更されることになります。

言い方がキツくなりますが、設計図面や商品仕様書は装置完成後にメモされた記録図書。
そんな位置づけになるので、税法上では資産としては見なされません。

テレビ・メディアでは、開発したエンジニアやチームの努力や成果を特集し報じています。

しかし現実には、以下の点の方が価値があると思われているようです。

  • 図面指示に従って部品を製作すること、

  • 図面には欠けている微調整を行って一つの装置や製品にすること。

図面や仕様書があるので、装置が製造され商品が生産できるわけですが、
資産としては見られないため、社内の扱いが軽くなってしまいます。

開発に関係するエンジニアは『難しいことを知っている頭がいい人。』というイメージに近く、なかなか高い評価には結び就きません。

(技能教育・人材育成)

技能教育・人材育成については、厚生労働所が管掌です。
技能検定は厚生労働省が行っていることを考えると理解できると思います。

本来ですと、社会人のリカレント教育やリスキリングは厚生労働省の担当領域となります。
しかも、管掌する省庁の違いにより言葉も変わります。

大学をはじめとする文科省が管掌する機関での「人材の再教育」はリカレント教育と言われています。

一方、経済産業省が「人材の再教育」を取り上げる場合、リスキリングと呼び、言葉を定着させようとしています。

開発・設計領域を管掌する文部科学省と、生産・製造領域を管掌する経済産業省の両省庁が共通認識を以て、日本の再生に向けた共通政策を打ち出せない状況を見ると、この先の新産業創生などは厳しいと言わざる負えません。

正直なところ、「人材の再教育」に関して「利権争い」や「主導権争い」が始まったと思えてしまいます。

新産業創生、経済再生と言いつつ、製造業における三権分立が存在するため、統一した政策が打ち出せず、各省庁に振り回されているのが現実です。

この三権分立の中で、開発に関係するエンジニアは宙に浮いた状況となっているのです。

日本における開発に関係するエンジニアの定義

日本という国で開発に関係するエンジニアは、企業の生産活動に対し課題の解決提案や参考情報を提供する仕事。

そんな定義なのかなぁ。と、開発に関係するエンジニアとして会社経営をししていると、そんなことを感じてしまいます。


開発に関係するエンジニアの独立

勤務先において、開発に関係するエンジニアは専門的な知識や知見を持った人。という位置づけでしかありません。

自分の希望や取組みたいテーマがあったとしても、現在の経済環境では経費削減などを理由に取組めないことも多いと思います。

そんな状況では、キャリアを考えると転職を考えてしまうかもしれません。

しかし、自分を見直すと専門性が強すぎる場合があります。
現在の仕事以外の分野について横断的な知識がない。

ひょっとすると、転職しても、転職先の技術課題に対して解決できないかもしれない。
先鋭化した仕事をこなしているため転職先も少なくなり、あきらめる方も多いかもしれません。

西暦2000年からの20年は成果主義による賃金体系が導入されたため、専門性を育てることに重きを置いています。
しかし勤続年数が長くなると、次第に専門性を喪失させながら、総合職のようなマネジメント能力が要求されています。

このようなキャリア育成では、結果的に転職は難しくなってしまいます。
企業としては、育てた人材に転職されるのも困るので、転職しづらくする目的もあります。

そこで独立を考えてしまう。

高度化してしまった専門性で何をしますか?
その専門性に業界のニーズはありますか?

独立するためには、開業資金も必要になります。
そのための資金はありますか?

機械だけでなく、電気や情報など、横断的な専門知識は持っていますか?
4年制大学の工学部で学ぶ、横断的な科目の知識は思い出せますか?

2022年の9月から9年目を迎えます。
開発に関係するエンジニアとして独立し、9年かけて、いろいろな投資をしてきましたので、ある意味充実した環境を整えることができました。

しかし利益は乏しく、自分に対する報酬は高くありません。
かなり生活を犠牲にしています。

それでも法人化して9年です。
個人事業として独立した時点から見ると10年かかりました。

イメージ図(記事の内容には関係ありません)

独立は慎重に

このような苦労と経験を踏まえると、独立することは楽しいと思います。
キャリア・コンサルタントなども、独立を勧める発言を多く聞きます。

ただ現実的なことを考えると、独立を経費面で支えてくれる企業(取引先)は必要です。
取引先が必要とする製品やサービスを提供できるでしょうか?

その製品やサービスの提供には、ご自分の専門性以外の知見も必要になると思います。
準備はできていますか?

開発規模、製品・サービスの製造規模が大きくなれば、組織も必要になります。目標とする年商と必要な組織の体制などは構想できていますか?

現実を知ることで、転職や独立について冷静に考えられるようになると思います。否定的なことを並べているように感じるかもしれませんが、現実を知ってからでも遅くはないと思います。

時間はあります。
慎重に考えてみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?