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今日は梅田で5時 たぬきのサボタージュ

昼下がりの土曜日の梅田の人出は異常だ。

たぬきちは土日に働いていることが多いし、休みでも繁華街に来ることはない。

来るとしても平日の仕事帰りにちょっと寄ったり、通りすがりるだけなので、人が多くても、「多いな」で済んでいる。それでも人は、多いのは多い。

切れ目なく移動する老若男女の群れ。

海外からのゲストは大きなトランクを引きずっているし、小さな子ども達は不服そうにそうにとぼとぼ歩いている。

杖をついてやっとこさ歩いているご老齢の方も入り交じる中では、真っ直ぐ自分のペースで歩くのさえ困難を極める。

こんな時間でも飲食店はまだ混んでいる。並んでまでは食べたいとは思わない性格なので、なんとか空いている店を探したい。

歩き回ってホワイティのとんかつ屋にやっとこさ滑り込んだ。

床はタイル張りで古さを感じる。小さな店内は日本人外国人を問わずひしめき合っている。

ベテランのお姉さんが2人テキパキと働いている。1人は、定年ってなんですか?といった御年だろう。

注文を聞きながら、お姉さんが小さな深皿の上にお新香の小皿を重ねて出してくれた。

お新香を先に頂こうと深皿からずらすと、下の皿にはトンカツ用のソースが入っていた。案の定お新香の皿底にタレが付いており、机に丸い円を描いた。

「おー牧歌的だね」そう思った。

タイ人らしきカップルが食事を済ませて、テーブルで会計をしたいとジェスチャーしている。

お姉さんはすかさず「とゅげざー?」とルー大柴ばりに英語も使いこなしている。

本来テーブル会計はしていないようだが臨機応変に対応できるのも、こういう店の良さだろう。マニュアルガチガチの店ではこうは行くまい。

14時を回っても、次から次に昼食を求めてお客が入ってくる。

その度に、お姉さんの元気な声が店内に響き渡る。

大きな音が苦手なたぬきちは、こういう時は往々にしてノイズキャンセル機能のイヤホンをつけているが、この店では不思議と必要なかった。

せわしないはずのお姉さんの声が嫌ではなかった。

「何名様ですか?4名?外でお待ちください~」

「1名様?1名入りま~す!!」

「何名?two? twoーーー!!!」

流れで厨房への声掛けまでtwo!!!と叫んだのがおもろすぎて、笑いを咬み殺すのに苦労した。

厨房では誰もクスリともしていない。

「ご馳走様」と声かけて会計を済ませた。

今日は、母とミュージカルを観るために土曜の梅田に降り立った。

最後にミュージカルを見たのはいつだったか。オペラ座の怪人だったはずで、確か、ファントム役の俳優が当日風邪をひいており、ガッスガスの声だったのを覚えている。

大変な仕事だなと思ったが、正直ガッカリした。あれから何年経っただろうか。

映画でさえ、自分が見たいものを見なくなって久しい。こういったお楽しみは本当にいつぶりだろう。

開場と同時に入場し、座席で17時の開演を待つ。購入した席はS席だったが、座席は小さく、席の間隔も狭いのでとても窮屈だった。

隣に座った中年の夫婦も、席が狭い、金出すからもうちょっとゆったりして欲しいとブウたれていた。

強く同感した。

たぬきちの正面の席が空いており、「ラッキー」と思っていると開演ギリギリに女性が滑り込んできた。

主演の女優のファンらしく彼女は、前のめりで上演を見ており、彼女のフードばかりが目につく。

ギリギリに来た彼女は上演前のアナウンスを聞いておらず、前のめりで座らないでという注意を知らないようだった。

参ったなと思っていると、劇場のスタッフが駆けつけて注意してくれた。

良かった。ほっとした。久しぶりのミュージカルが知らない女性の後頭部を眺める時間にならずに済んだ。

前の席の女性は心底ミュージカルを楽しんでいるようで、1人で悶絶しているのが後ろからでもよくわかった。

そして20分の幕間を挟む。

座席で、おにぎりを食べたり、お手洗いに行った後、2幕の開演を待っていたが、前の座席の彼女がなかなか帰って来ない。

「あいつどこ行ったんだ?」と勝手に心配していると、例の彼女に似たフードの女性がもっと前の座席に着席するのが見えた。ほどなくして暗転し、2幕が開演した。

「あいつもしかしてS席でさえもないんじゃねーか!?」なんて悪い考えが浮かんだが、前の座席が空いて見えやすくなったことを喜ぶことにした。

しばらく、主人公とその恋人とのいざこざのシーンが続き、どこからか、ぐーぐーという音がするのに気づいた。

堂々と真横を見ることは出来ないので、そっと目の端で確認すると隣のご婦人が健やかに眠っていた。

生バンドの演奏なので結構な大音量なのに良く寝れるなもんだと妙に感心した。

カーテンコールも終了し、皆が帰り支度を初めた頃、いつの間にか起きたご婦人と旦那さんが、「音が大きすぎて何うとてるか分からんかった」と言っていた。

密かにたぬきちも同感であった。

生バンドで聞けたのも良かったし、ダンサーさん達が時折バレエも披露されており、そういった細かい演出に感嘆した。

あと実は演出のひとつで客席に向かってレーザーポインターを照射させるシーンがあり、2階席の柵下の壁面に沿ってそのポインターを動かしていたのに妙に感心した。

ちょっとでもぶれて客の目にでも万が一照射しては一大事。演じている人は緊張してるんじゃないかと勝手に感心していたのであった。

なんだか最近、気の沈むことが多かったので、いつものルーティンとは違うことをして、心のモヤモヤが少し晴れた気がする。

なんだかオモロいことがあった。
そんな土曜日。




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