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人生の大先輩の「矜持とユーモア」に感服 ~ 天満敦子&ジュディ・デンチ

母の日を前に、人生の大先輩である女性二人の「矜持とユーモア」を見せていただきまして、凛としていながら何処か飄々とした味わいも醸しだす姿に大いに勇気づけられました。

まずお一人は、ヴァイオリニストの天満敦子さん
一昨年初冬、突然、頚椎損傷による体調不良に見舞われますが、手術、半年近い入院を経てリハビリを続け、相当厳しい状況を押して今日5月13日に紀尾井ホールの舞台に立たれました。途中20分の休憩、アンコール3曲を含め、2時間余の公演。客席で時間空間を共有した一人として、忘れがたいものになりました。

『天満敦子・岡田博美 デュオ・リサイタル』

リサイタルのパンフレット

杖を突き、岡田さんに手を引いてもらって入退場し、座って演奏と、正直、体調は万全とは程遠いご様子。しかし演奏には、聴いていて心が震える程、培ってきた技と音楽に寄せる思いが一杯込められていました。
随所で何だか楽しそうでしたし、お茶目にさえ映る様子で弾いておられて、音楽家の魂のありようが伝わってきた気がします。
特に、天満さんと言えば、の代表曲である『望郷のバラード』とアンコール一曲目の『月の沙漠』では、知らず知らず涙が頬を伝いました。
天満さんがパンフレットに寄せたメッセージや、アンコール演奏の前に挨拶された内容から、大きな支障を乗り越えての公演実施だったことが察せられ「身を削ってまでの美しい演奏、本当に本当にありがとうございました!」
と感謝するばかりです。
おそらく、今日は相当お疲れになったことと思われますが、同時に達成感やほっとした感覚もおありでしょう。
どうぞこの先、次の演奏活動に向けて、リハビリが順調に進みますように♪

それと、天満さん曰く「介護ピアニスト(!?)」の岡田さん、
とても頼もしく素敵な相棒でした。
ソロで弾かれた作品、伴奏に徹する箇所、掛け合いの美しい箇所…
きっちり弾き分けていらっしゃって、流石気心の知れた方の演奏だなあと。


続いてもうお一人。
英米仏合作で2014年に公開された映画『あなたを抱きしめる日まで』に主演された、イギリスを代表する名優、ジュディ・デンチさん

この作品は、イギリスでベストセラー本となったノンフィクションを映画化したもので、先日、NHKのBSプレミアムで放映されたのを観ました。

映画.comより作品解説を引用します。

1952年、アイルランド。18歳で未婚の母となったフィロミナは親から強制的に修道院に入れられ、3歳になった息子のアンソニーはアメリカに養子に出されてしまう。それから50年後、イギリスで娘のジェーンとともに暮らしていたフィロミナは、手離した父親違いの息子の存在をジェーンに明かす。ジェーンが偶然知り合ったジャーナリストのマーティン・シックススミスとともに息子探しの旅に出たフィロミナは、アメリカの地で思いもよらぬ事実を知ることになる。「24アワー・パーティ・ピープル」などで知られる英俳優スティーブ・クーガンが企画を立ち上げ、脚本やプロデューサーを務めたほか、原作著者でもあるシックススミス役を演じている。

主要な役の俳優たちの演技が、「シリアス」と「ユーモア」と「謎とき」を自在に行き来。細かいところまで工夫が施されている、素晴らしく巧い脚本(ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞したとか。納得です!!)に命を吹き込んでいます。

修道女が教義を盾に、身ごもった若い娘たちを搾取し、人身売買やその証拠隠蔽など、人道にもとる振る舞いを長年続けた結果、悲しい境遇に陥る役柄ですが、ジュディ・デンチが悲壮感なく、時に毅然と、時にユーモラスに、名人芸と言うべき緩急で演じています。
どんな目にあっても尚、カトリックの信仰を実直に守り続けている(これが終盤の「赦します。赦しには大きな苦しみが伴うのよ」と語る高い精神性につながる)かと思うと、車に乗れば遠足に来た子どものようにお菓子を出したり、ハーレクインロマンス風の小説に夢中になったり、飛行機のビジネスクラスや高級ホテルのサービスに感激して「100万人に一人のいい人!」認定を次々にしたり…。
実際のフィロミナがどんな人だったか我々には勿論分からないわけですが、脚本とデンチの役作りとの相乗効果で、人間力の底知れなさを感じさせる、実にチャーミングな人物になっていました。

スティーブ・クーガンも、「元エリート(BBC記者)のジャーナリスト」が一見イケ好かない男のようでいてフィロミナを誠実にサポートし、修道院の非道に対しては本気で怒りを表明するという美味しい役どころを、魅力的に見せてくれました。

学歴も社会的立場も信仰心も全く異なる彼らの、ちぐはぐな二人旅。
銀幕のこちら側からそっと同行させてもらい、とても興味深かったです。

なお原題は主人公の名前そのままの『Philomena』。感傷的過ぎる邦題より原題のほうが映画の持ち味にあっていて、ずっといいです。


というわけで、尊敬する「人生の大先輩」お二人の人品骨柄に触れられて、この数日間はとても実りあるものになりました。



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