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映画『ロスト・キング』

常識や固定観念を揺さぶる、良質の英国映画を観ました。
『ロスト・キング 500年越しの運命』です。

2012年。英国レスターでの「世紀の大発見」がニュースになりました。500年以上行方不明だったリチャード三世の遺骨が、とある駐車場で発掘されたのです。その発掘の実質的リーダーが、アマチュアの歴史家で、二人の子供を育てる主婦、フィリッパ・ラングレーでした。
この映画では一介の主婦が、長年極悪非道と貶められてきたリチャード三世の真の姿を明らかにすべく、遺骨探しに奔走する姿が描かれます。
基本的に実話に基づきつつ、ファンタジー要素も入れることで、不遇な女性の一種の「自分探し」を辿る物語映画として、厚みのある作品に仕上がっています。

エディンバラに住むフィリッパは、別居中の夫と協力し合って、働きながら二人の子どもを育てています。筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)を患っていて、職場で理不尽な仕打ちを受けますが、夫に「生活のため仕事を続けるよう」促され、不本意な日々を送っていました。
ある日、息子の付き添いで観たシェイクスピア劇『リチャード三世』の舞台でリチャードの目に魅入られ、その後しばしばリチャードの幻影を見るようになります。
「リチャード三世は、本当に、シェイクスピアが描いたような悪しき王だったのか?」
疑問を抱いたフィリッパは、リチャードの幻と会話をしながら、様々な書籍を読んだり、「リチャード三世協会」(彼の理解者の集まり)に入会して、会員たちの話を聞いたり、ゆかりの場所を歩き回ったりと、歴史研究に没頭していきました。そしていつしか、王位簒奪者、醜い容姿の冷酷非情な男とみなされてきたリチャードに対し、不当な扱いを受けている者同士の連帯感を抱き、彼の名誉回復を願うようになるのです。
川にうち捨てられたとされてきたリチャード三世の遺骨の行方を追っていく「リチャード探し(Looking for Richard)」の過程は、フィリッパが伝手も何もないアマチュアであるが故に、資金、人材、宣伝などなど何重もの困難にぶつかりますが、家族やリチャード三世協会会員などに支えられ、ついに遺骨発見に辿り着きます。
彼女の手柄を横取りして大学のために利用するレスター大学関係者達には、観ていて腹が立ちますが、最後、フィリッパが、大学の設けた華やかな業績アピールの場への出席を断って、子どもたちに依頼された講演の方を選び、真摯に語りかける表情がとても良いです。
フィリッパの功績が、故エリザベス女王によって公に認められたことなどがテロップで紹介されたこともあり、後味のよい終わり方でした。

フィリッパを演じた主演のサリー・ホーキンスは、ボーイッシュな見た目で外見は押し出しが強くないのに、その精神力突破力は迫力十分。病を抱える主婦がいわば「推し活」にはまり、壁にぶち当たっても決してあきらめず、家族や同志の応援を得て大きな成果を上げる姿が、説得力に溢れています。『パディントン』以来の彼女のファンなのですが、緩急自在なその演技力、今回もとても魅力的です。
フィリッパの別居中の夫を演じたスティーブ・クーガンは、登場シーンでの第一印象とは異なり、妻を支えるとてもいい役を、押しつけがましさ皆無の自然体で好演。ジェフ・ポープと共同で脚本も担当したそうです。

最後に、ひとつ気になったこと。
「女性が何か主張するときには、感情的にならないこと」
というアドバイスを、レスター市議会の女性がフィリッパにおくるくだりが「確かにそう。大事なことだな」
と感じ、とても印象的だったのですが、リチャード三世の遺骨を発見できた決め手は、フィリッパの「直感」だったわけですよね。
うーん…
さすがはイギリス映画。一筋縄ではいきません!
いろいろと深く考えさせられます。






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