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マングローブ植林ボランティアの活動記録~Pekalongan in Indonesia🇮🇩~

こんにちは、大学3年の吉川斗馬です。

このたび、2023年9月4日から14日の約10日間、インドネシアのPekalonganにてマングローブ植林によるボランティア活動に参加してきました。現地でマングローブ植林を実施している方の家族の家にステイさせていただくことができたため、食や文化をはじめとして現地の生活に浸ることができました。
温かく受け入れていただいたホストファミリーのみなさんには、改めて感謝したいです。また、ボランティア活動の手配をしていただいたNICEの方々にも感謝いたします。

実はこれが僕にとって初めてのnote投稿になりますが、なんと1万字以上も書いてしまいました。それだけ濃い体験ができたと思いますが、読んでいただくのも大変だと思うので、目次を作りました。興味があるところだけでもよいので、お付き合いください。


■参加のきっかけ

さて、今回の活動について書く前に、そもそも参加しようと思ったきっかけについて簡単に触れておきます。

理由は2つあって、1つ目は自身の夢として、「持続可能な世界の実現に、環境技術の開発や実装によって貢献する」というのがあって、環境保全活動に取り組みつつも、環境インフラの不足や水質汚染などの課題を抱える地域に実際に足を運んでみたかったからです。
そして2つ目は、日本とは全く文化も環境も異なる地域に滞在して、コンフォートゾーンを抜け出してみたかったからです。実際にはある意味で期待を裏切られることになりますが、今後に繋がる学びを得られたと思うのでよかったです。これも後に書きます。

■Pekalonganに来てまず驚いたこと

活動場所として滞在したPekalongan(発音は「プロガン」のような感じ)は、インドネシアの中部ジャワ州北部の海に面した、人口30万人程度の小さな都市。首都のジャカルタからは列車で5時間くらいかかります。ホームステイしていたのは、中心部からは少し離れた「Mulyo Rejo」という自然豊かな農村でした。

家の前の様子。毎朝目の前の湖で魚を獲っている人も🐟

初日からなんと言っても驚いたのは、みんなとっても早寝早起きであること。ホストファミリー宅は3世代10人くらいの家族でしたが、みんな夜9時頃には就寝です。次の日目覚めると早朝4時。外では何やら大きな音でスピーカーから村中に音楽が流れています。びっくりして尋ねてみると、それはイスラム教の教えに基づく「礼拝」を促す「アザーン」と呼ばれるものだそう。このアザーンとともに多くの人が近くのモスクへ向かい礼拝を行います。そして礼拝を終えると1日の活動が始まります。

インドネシアは人口の約90%がイスラム教を信仰していて、世界一のムスリム人口を有する国ですが、ここの村ではほぼ100%が厳格なムスリムであるようで、村のみんながこのような生活を送っていました。

続いて驚いたのは食文化です。

まずインドネシアの料理は辛いものが多い🌶。現地の人が「辛くないよ」と言っていても、日本人からしたら辛く感じるものも多かったですね。次に揚げ物が多い。そして飲み物は全部甘い。食事の際にはホットティーやアイスティーを飲む習慣がありますが、基本的にデフォルトで砂糖が大量に入っています笑。

ホームステイした家ではホストファミリーが毎日食事を用意してくれました。インドネシアの伝統的な食事スタイルは、プレートにご飯を盛り、その周りに様々な料理をのせて、スプーンで食べるというもの。そのため毎回たくさんの味を楽しめるのが特徴です。辛い料理が多いのでご飯もよく進みました。全部ほんとうに美味しくて、毎回食事が楽しみでした!


こんな感じで料理が並べられているので、好きなように盛っていきます笑
全部美味しい😊 ちなみに一番右の料理は「テンペ」といって発酵させた大豆を使った伝統的な健康食ですが、納豆のような匂いや粘り気はなくて食べやすいです。

インドネシアでは食事に際していくつかの習慣があります。

まず食事は全て右手でします。これはインドネシア特有というわけではなく、イスラム教の教えに基づいた決まりで、左手は「不浄の手」とされているからです。そのため、何か物を受け取ったり渡したりする時、握手する時も必ず右手で行い、左手を使ってしまうと大変失礼に当たるので、慣れるまでは意識が必要でした。

そして、基本的に家庭では床に座って食事をします。これもイスラム圏特有のようです。またチキンや魚は右手を使って直接食べるのが習慣です。
滞在初日の内にこれらの習慣にも慣れ、優しいホストファミリーに促されて何回もおかわりしていました笑。帰国した今もインドネシアの家庭の味が恋しいです。

■マングローブの話

さて、随分前置きが長くなりましたが、ここからは本題である「マングローブ植林活動」について書きたいと思います。

・そもそもマングローブって何?

「マングローブ」という言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、マングローブとは固有の植物の名称ではなく、亜熱帯や熱帯地域の海水と淡水が混ざり合う湿地帯に生育する植物群の総称です。世界には100種類以上のマングローブがあると言われています。

特徴としてわかりやすいのは、その根が特異的な形状をしていることが多いことです。次のような写真を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

舟で近くの海辺まで行った際に撮影。通称Bakau。よく見るとわかるように、マングローブの下部にはタコの足のようなものが伸びているのがわかります。これは支柱根と呼ばれる根の種類です。
ちょうどよい写真がなかったので引用。通称Pidada。画像下半分に見えるトゲトゲしたものは,実は全て通気根と呼ばれる根の種類です。(出典:SCHOOL MEDIA News

もちろん根がこのような形状をしているのには理由があります。それは、生育域の土壌は酸素が不足しやすく、さらに満潮時にはマングローブの下部は冠水してしまい酸素を供給できなくなるからです。地上に根を張り出すことで過酷な環境下でも呼吸することができます。また、汽水域に生育するマングローブはしばしば海の波の影響を受けますが、その影響から樹木自体を守る働きもあります。

・マングローブの何がすごいの?

今回のマングローブ植林ボランティアに限らず、世界全体で見てもマングローブ植林活動が盛んに行われていますが、それはマングローブには他の植生にはない以下のような固有のメリットがあるからです。
①大量の二酸化炭素を吸収・貯留し、地球温暖化防止に貢献する。
②生物多様性や漁業資源の保全に貢献し、生命のゆりかごとして機能する。
③高潮による侵食被害や津波による被害を大幅に軽減できる。

では順番に説明していきます。

①大量の二酸化炭素を吸収・貯留し、地球温暖化防止に貢献する。

やはり近年最も注目されているマングローブの有益な役割がこれになるでしょう。多くの人が熱帯雨林が二酸化炭素を吸収する役割を担っていることを知っていると思います。しかし実は、一般的な熱帯雨林が1ha当たり年間せいぜい20t程度のCO2しか吸収できないのに対し、マングローブ林は種類にも依ますが、1ha当たり年間25t~44tものCO2を吸収することができると言われています。(中西
こればかりではありません。森林は一般的にその樹木自体と、生育する土壌にも大量の炭素を貯留していますが、マングローブの炭素貯留量は他の森林のそれに比べて圧倒的に多いと言われているのです。次に示すのは、それをわかりやすく示したグラフです。

植生ごとの炭素貯留量の比較
(出典:国際マングローブ生態系協会、原典:Donato et. al.2011)

マングローブは他の森林と比べて、4倍程度の炭素をその地下に貯留できていることがわかります。そしてこのマングローブの炭素貯留量を二酸化炭素量に換算すると約3000tになり、日本人300人が1年間に排出する二酸化炭素量に匹敵するのです。(日本の年間二酸化炭素排出量を人口で割った値を10tとして計算)

なぜこれだけの量の炭素を貯留できるのか。それは次の②の内容と関わってるのでそちらで説明します。

②生物多様性や漁業資源の保全に貢献し、生命のゆりかごとして機能する。

マングローブは先ほどの写真のように、その根が非常に込み入った形状をしています。このおかげで根同士の隙間は波が穏やかになり、生物が天敵から身を潜めることができるため、たくさんの小魚とその餌となる動物プランクトン、貝類やカニとそれらを食べる野鳥など多種多様な生物が生息しています。そして、マングローブの落ち葉や種子、多様な生物の死骸が土壌に堆積し、それらを食べる生物も集まってくるのです。このように豊かな生態系が生まれることで、漁業資源は一層豊かになり、現地の人の生活を支えることに繋がります。

ところで、この落ち葉や生物の死骸などの有機物は、通常酸素に触れることによって微生物によって分解されます。しかし、マングローブ林ではその根付近が汽水に満たされて酸素が不足するため、有機物は分解されにくく土壌に堆積し続けます。

有機物は分解されると一般に二酸化炭素を排出しますが、マングローブ林の土壌では、有機物が分解されにくく堆積し続けることにより、その土壌中に通常の森林の何倍もの炭素を貯留することが可能になるのです。

③高潮による侵食被害や津波による被害を大幅に軽減できる。

2004年12月27日、スマトラ沖地震による津波によって、インドネシアにも甚大な被害が出ました。しかし、沿岸にマングローブ林が発達していた地域では、津波の被害が小さく済んだという報告があります。逆に開発等によってマングローブ林を伐採していた地域では相対的に被害が大きかったそうです。

これは、マングローブ特有の込み入った根の間を波が通過することによって、波のエネルギーを急激に減衰させることができるからです。始めに写真で示したタコの足のような根(支柱根)を持つマングローブは、特に減衰効果が大きいうえ、樹高を超える津波に襲われても倒木することなく強い抵抗力を示した、という調査結果もあります。(林 ほか 2005)

マングローブ林は、津波を減衰させることができるくらい強力なので、強風や高波の被害を大幅に軽減することができます。実は僕が滞在していたジャワ島北岸地域は、強風や高波による海岸侵食を受けて水没し、移住を余儀なくなれてしまった地域がありました。

高波等による海岸侵食により、水没してしまった家

このような被害を防ぎ、人々の生活を守るためにも、マングローブ林を保全、植林することが重要なのです。

・マングローブの現状

このようにメリットがたくさんあるマングローブ林ですが、1980年~2005年の間に世界全体の約20%のマングローブ林が失われました。
憂慮すべきは、世界一のマングローブ面積(世界の約20%)を誇るインドネシアにおいても、同期間に30%以上のマングローブが失われたことです。その多くは、集約的な養殖地の開発、薪炭材生産のための伐採、過度なリゾート地の開発によるものです。(田村 2016)

ここ10年においては、マングローブ保全・植林活動が盛んに行われ、地域によっては回復傾向が見られますが、それでも世界全体で見ると年間1%ずつ減少していると言われています。

多様な生命のゆりかごとなり、地球温暖化の抑止にも貢献するマングローブの更なる減少を食い止め、保全・植林していくことは、この地球に住む私たち全員の共通の責任であると言えます。

・マングローブ植林の一連の流れを体験

マングローブの保全・植林の意義を再確認できたところで、実際に行った植林活動の様子をお見せします。

ホストファミリーの一人で、現地の活動をリードしているTayoさんとともに、マングローブの種子採取から、生育域に植林するまでの一連の流れを体験しました。

①マングローブの種子採取

小舟で海へ出て、Bakauの種子を採取!
街中にも生えていた別の種類。Api-Apiの種子これは一部ですが、ざっと500個以上拾ってきました!

②種子を持ち帰って、ビニールポットに植える

Bakauをビニールポットに植えた様子
Api-Apiの種子も同様に植えます。(左から自分、日本人ボランティア、現地学生)

③毎日たくさん水をあげる
午前と午後の2回、じょうろでたっぷり水をあげます。

bakauの種子から芽が!
こちらApi-Apiも順調な様子

一時水を川から汲み上げるポンプが動かなくなって、自力で水を汲み上げていました笑

④いよいよ苗を植林します

これは大変だった。裸足で泥の中を進んで、一本一本植えていきます。

転けそうになりながら一枚
元気に育ちますように!

今回は植林の一連の流れを体験しましたが、植えた苗が立派なマングローブに成長するまでには、10年〜20年もの歳月がかかるそうです。まだまだこれからですが、次世代に思いを繋ぐためのバトンになるといいですね。

・新たに感じたマングローブの可能性

マングローブの持つメリットが大きいことは先ほども述べましたが、実際に現場に滞在し、初めて気づくことができたマングローブの魅力がありました。

それは「観光資源」としてのマングローブの潜在的な価値です。

実は私たちが活動していた拠点は、現地の人たちが協力して設立した「マングローブ公園」に隣接していました。ここには、周囲を緑に囲まれたカフェテリアと、広々とした休憩所があり、時間がゆったりと流れる本当に素敵な場所だったのです。

竹で作られたカフェテリアと、そこから見えるマングローブの子供たち
屋根の立派な休憩所と、心地良さそうな猫🐈
自然って美しい、と書かれています。

活動の休憩時や昼食の時には、このような場所でゆったり自然を眺めたり、お昼寝をしたりしていました。インドネシアは暑いと思われるかもしれませんが、風があって蒸し暑い訳ではないので、日陰だと全然東京より涼しくて過ごしやすかったです。

そしてここマングローブ公園は、地元の子供達の憩いの場にもなっていましたし、植林の手伝いに来てくれるTayoさんの友人や環境団体の方々もたくさんいました。

もちろんここで活動している人たちはみんな、環境保全という任務を負っている。

でもそれ以前にみんな、この場所、景色、人が好きだった。

それは、「何でここで活動しているのか」と質問すると、理屈じゃなくてそういう答えが返ってくるということ。

ああ、別に誰も反論できないようなロジックがそこにある必要はないんだ。

そして、ここに身を置いた自分も、この場所、景色、人が好きになった。

これに気づいた時が、環境保全のボランティアに来ているということを忘れた瞬間でした。同時により多くの人にこの魅力を知って欲しい、つまり観光資源としても大きな価値がある、と感じた瞬間でもありました。

この地域には、今回植林した数種類だけではなく、さらに多種多様なマングローブが生育しています。そういったマングローブはそれぞれが特徴的な見た目を持っているので、現地の詳しい人にマングローブ観察ツアーみたいな感じで案内してもらうのも、とても魅力的な体験になると思います。

マングローブを利用して何かを作る体験も面白いと思います。実際今回は、Pidadaの実を使ってマングローブシロップを作る体験をしました。

ここでしか飲めない手作りマングローブシロップ!

そして、負担にならないくらいにマングローブ植林をやってみて少し汗をかく。

疲れたら休憩。自然の中で現地でしか食べられないローカルフードを食べながら、現地の人と会話を楽しむ。

夕方になれば、美しい夕日に心を打たれ、足を止める。

美しい…

こういった形の体験は、最近よく「エコツーリズム」として注目を集めていると思います。実はこのボランティア活動に参加するまでは、エコツーリズムって、なんか環境に対する意識が高い人がするものだし、敷居が高そう、というイメージがありました。

しかしここに来てみて、「エコツーリズム」こそが本来あるべき観光の形だと思いました。

キラキラした写真をSNSにあげるための観光。
それは、あくまでも「自分」が中心で、「自分が特別」だと思う「ため」の観光。もちろん自分にとってのご褒美や何かのモチベーションとしては良いと思う。

でも本来あるべき観光の姿は、訪れる現地のことを本気で知ろうとして、迎えてくれる現地の人を想い、現地のことを大切にする、そんな観光だと思う。

中心なのは「自分」ではなく、あくまでも「相手」

「特別」なのは「自分」ではなく、そこにしかない自然、景色、文化、食、そして人。

その結果、気がつけば環境にとっても良い持続的な観光、つまり「エコツーリズム」が実践できているのではないだろうか。

活動を終えた今、マングローブは特にインドネシアにとって、観光資源として大きな潜在価値を持っていると改めて感じています。なぜなら、インドネシアは世界最大のマングローブ面積を持つ国であり、エコツーリズムを実践できる場所がたくさん生まれるポテンシャルがあると思ったからです。もちろん過度なリゾート開発などをすれば本末転倒ですが、現地にとって大きな経済効果を生むことができるかもしれません。

・マングローブ植林活動を通して見えてきた課題

今回のボランティア活動は非常に短い期間ではありましたが、活動を通して見えて課題をいくつかあります。

①マングローブ保全・植林のために活動する人たちの収入の増加
現地の方とお話しした時、マングローブを1本植えると150ルピア~250ルピアが環境団体から支払われると聞きました。(インドネシア語→英語の翻訳だったので精度が微妙ですが、、、)これは日本円にして1.5円~2.5円くらいに相当します。物価はもちろん違いますが、一本植えるまでにかかる労力を考えるととても安いと感じました。

これはとても大きな課題ですが、解決が難しい課題でもあります。

なぜなら、一本植えることによる価値を、誰もが納得する手法で算出することは難しいうえに、その一本植えたことによる恩恵を、今すぐ目にみえる形で、誰かが直接受け取ることは困難だからです。簡単に言えば、経済的価値として定量化することが難しいのです。

その課題に挑戦しようとしているのが、いわゆるカーボンクレジットのスキームやWeb3領域の特にReFiと言えるでしょう。また、観光資源としての価値をいかに上手に利用していくかも、長期的な目線では重要になってくると思います。

②自分も含め私たち全員が負うべき責任と課題
これは他でもなく、私たち全員が負うべき責任ですが、それを実践するのは難しいと感じた課題でもあります。

「マングローブの現状」で、インドネシアのマングローブはその多くが集約的なエビ養殖場の開発によって失われたと述べました。
しかし、それは当然、人口増加による食糧需要の増加に応えたからです。そして、エビを大量に輸入する外国企業が安い価格を求めるからであり、もっと言えば、私たちがスーパーで食材を買う時や外食をする時、より安い価格を求めるからに他なりません。

最近でこそ、トレーサビリティやサプライチェーンの透明性が重要視されてきています。しかし、遠い海外から輸入される食材が、どこで誰によって「どのように」生産されているかに関しては、ほとんど意識していないことが多いのではないでしょうか。

従って、私たち一人ひとりは、自分の日頃の消費行動が、自然環境や生態系とも密接に関わっているという意識を持つ必要があります。そして、環境に配慮された商品には、より高い対価でも払うといった、責任のある消費行動に変えていかなければならないと思います。

■現地での活動を通して気づいたこと・学んだこと

さて、ここまでひたすらマングローブについて書き続けてきました。
まとめの前に、現地での活動を通して気づいたこと・学んだことについて、せっかくなので記しておこうと思います。後少しだけお付き合いください。

・人の優しさが溢れ、笑顔の絶えない共同体~豊かさとは~

滞在していたMulyo Rejo村は、みんなが互いに顔見知りであり、すれ違う際には笑顔であいさつが飛び交うような、そんな温かい村でした。

僕は東京で一人暮らしをしていますが、近所に住んでいる人はもちろん、同じマンションに住んでいる人ですら、顔も名前も知りません笑。
少し田舎に行けば、いわゆる近所付き合いのある地域もあると思いますが、どこか面倒臭いものという意識を持った人もいるかと思います。

ここでは別に、どちらが優れているかという議論をしたいわけではありません。共同体のあり方というのは、その社会の発展に伴って変化していかざるを得ないものだと思うので、むしろある意味で最適化された結果だと思います。

ただ一つ言えることは、ここに住んでいるみんなは、笑顔が絶えず幸せそうに見えたということです。

物質的に豊かなわけではないけれど、だからこそ、困った時にはお互いに助け合いながら暮らしている。

僕が少し遠くに行く用事があってタクシーを呼んだ時、道が狭くて来れないと言われ困ったことが2回ありました。でもなんとその2回とも、近所の方がバイクや車を出して送ってくれたのです。本当に助かりました🙏

この時僕が感じたのは、まさに「実家にいるような安心感」でした。
実際には、日本と比較したら衛生状態は悪いし、インフラも整っていないし、高度な医療を受けられる病院も乏しい。
でも、それらを差し置いてでも、何かあってもすぐに頼れる人が近くにいる。逆に誰かが困っていたら、喜んで手を貸してあげたい。

こういった感情は、物質的な豊かさとは関係なく成立する、精神的な豊かさだと言えます。

両者の異なる点は、前者が定量的に比較が容易であり、際限のない欲求へと繋がるのに対し、後者は定量化も比較も難しいが、それぞれに異なる社会や家族、さらには個人の内部で定義し得るものだということです。

今世界中で、大量生産・消費・廃棄が問題になっています。物質的豊かさを求める先進国の裏では、大量生産のための資源採掘に、過酷な環境下で従事する人々(インドの事例)や、大量消費の後の大量の廃棄物を、無理やり押し付けられている発展途上国の現状(ガーナの事例)があります。

物質的な豊かさも大事ですが、そればかりを追い求めて精神的豊かさを失ってしまえば元も子もありません。自分や自分が属する共同体にとって理想的な「精神的な豊かさ」とは何なのか、これを見直して定義するとともに、これに重きを置いた生活をしていきたいと思います。

・必須ではない「チップ」の重要な役割

一般的にインドネシアではチップは必須ではありません。でも渡そうとして不思議な顔をされることや、断られることもありません。

現地で一度タクシーに乗った時、とても親切に案内していただいたのでチップを渡したことがありました。その時、ドライバーの方はとても笑顔でしたし、自分も笑顔で気持ちよく降りることができました。必須でなくともチップを渡すことは、双方にとってメリットがあると感じた瞬間です。

日本ではサービス料は料金に含まれているためチップは必要ではありません。
これはさまざまなメリットがある一方で、料金を払っているんだから良いサービスを受けられて当然だ、という「お客様は神様」思考を生んでいる一因にもなっていると思います。
また、チップが不要の国であっても、多少無理なお願いに応えてもらった場合には、チップを払うことが普通である国も多いと思いますが、日本だと無償で要望に応えるのが「良い」とされがちです。これはいわゆる「おもてなし」の精神として評価すべきですが、良い側面ばかりではなく、サービス残業の強要やそれが当たり前だというような風潮(最近は変わりつつありますが)にも関係しているように感じます。

相当のサービスに対しては相当の対価を支払う、そして相当の対価には、それに相当するサービスの提供、あるいはスキルアップを目指す。こういった努力が、「精神的な豊かさ」や賃金上昇にも貢献するのではないでしょうか。

■今後のアクション

今回のインドネシアでのボランティア活動を通して、今まで経験したことのないたくさんの有意義な経験を得ることができました。そして何より、本当に楽しかったです。

活動を振り返るとともに、今後のアクションについて記したいと思います。

「参加のきっかけ」では、その一つ目に、「持続可能な世界の実現に、環境技術の開発や実装によって貢献する」というのがあって、さまざまな側面で環境問題を抱える地域を訪問したいといったことを書きました。

活動を通して、「持続可能な世界」というぼんやりしたイメージが、少しはクリアになった気がするし、それに貢献したい思いも強くなりました。

でも、具体的にどういうフィールドで自分がそれを実現していきたいかは、まだまだ模索中ではあります。
約半年後には研究室配属を控えているので、残された期間でできるだけ多くの研究室を訪問して話を聞いたり、興味のある分野についてたくさん調べたりしていきたいと思います。

また、この機会に出会った現地の人や場所、景色、そしてマングローブがとても好きになったので、今後とも関わりを続けていけたらと思います。

そして二つ目に書いた、「コンフォートゾーンを抜け出したい」、ですが、これはもうお分かりかと思いますが、全く逆の結果になりました笑。寧ろとても心地よかったし、それはそれで良い体験となりました。

この原因の一つには、英語が通じるかがまちまちである故に言語ハードルが低く、また親日的な人が多かったことがあると思います。

これもこれで良いことですが、刺激という意味では足りなかったと感じています。英語がまともに話せないと鼻で笑われ、人種差別も平気であって、実力が全て、そんな厳しい環境に少しは飛び込む必要があると感じたのも正直なところです。

以前親戚からのアドバイスとして、海外に行くなら、「日本より発展していない国と発展している国の両極端に行け」と言われ、なるほどと思ったことがあります。

どのような形態になるかはわかりませんが、大学在学期間中に、できれば大学のプログラムや研究内容と絡むところで、日本より先進的で発展した国を訪ねることにします。

■最後に

最後にはなりましたが、このような機会を作っていただいたホストファミリーの方々をはじめ、活動を手配していただいたNICE職員の方々、一緒に活動に参加してくれたボランティアの仲間、その他関わっていただいた多くの方々に感謝いたします。

ホストファミリーのみんなと!


大変な長文にはなりましたが、ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。

これをお読みいただいた少しでも多くの方々に、何か良い影響を与えられたなら幸いです。

吉川斗馬 
2023年9月21日





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