23年3月の米国金融市場を読み解く

シリコンバレーバンク、シグナチャーバンクが破綻し、にわかに不況入りのリスクが取りざたされてきた。2年国債の金利は急低下し、国債市場は不況入りを強く示唆するが、株式市場は未だ楽観的な水準にある。
以下のWSJの記事では債券市場は不況入りを示唆する一方、株式市場は楽観的である背景を分析している。ここでは3つの見立てを紹介しており、一つは債券市場が正しい可能性を、一方は株式市場が正しい可能性を、最後の一つは米国も日本と同様に、金融緩和によって市場システムが劣化したことを挙げている。
これから米国は、インフレ退治と米国金融システムの股裂きに見舞われるだろう。インフレを退治すると、これまで放漫経営を続けていた金融システムの破綻が連鎖する。いつか来た道である。

リスク資産も国債も、通常水準に戻っただけ
リスクの高いハイイールド債と安全資産である国債の利回り差はSVBの破綻前は4%であったが、破綻後には4.6%に拡大した。これを分解したものが以下である。

まず、ハイイールド債の金利はそれほど動いていない。もともと利上げによって安全資産である米国債の金利が引き上げられたため、2022年の初頭からよりリスクの高いハイイールド債の金利も5%から7.5%まで引きあがっていた。
SVBの破綻はハイリスク債券への投資の焦げ付きではなく、長期国債やモーゲージ債の価格低下が原因である。これは、金利が上がると債券価格は低下するためである。
さらに、米国政府がSVBの預金を全額保護したことも安心材料となったため、ハイリスク債への不安はいったん解消された状況である。

ハイイールド債はそれでも悲観的水準ではない 出所:セントルイス連銀

一方で安全資産である国債の金利は一気に低下した。これは、金融機関の破綻の連鎖が懸念されたため、投資家が安全資産である国債に買い向かったことが原因である。
ただしそれでも、前回の金融危機前と比べて10年債の金利は高いわけではない。むしろ歴史的には通常水準に戻ったくらいである。

10年債は漸く金融危機前の金利水準に戻った 出所:セントルイス連銀

結局のところ、じゃぶじゃぶのマネタリーベースが犯人か
FRBは急速に引き締めをしているとはいえ、15年間アメリカは金融緩和を続けてきた。以下の通り、マネタリーベースはコロナ前より3割も多く、米国にはまだマネーがだぶついている。これがインフレの背景にもなっている。金融危機前と比べると、15年間でマネーの総量は5倍になった。

ただし、この期間でアメリカのGDPは14兆ドルから23兆ドルへと6割超成長している。ゆえにマネタリーベース/GDP比で測ると、2008年は7.1%であったが、22年は23%へと拡大したことになる。
ここまでマネーが滞留すると、当然リスク資産にもダブついた資金が向かうことになるだろう。それを受け入れたのが株式市場と債券市場であった。
2年国債はFRBの政策の影響を受けるので、他の資産に先駆けて不況入りを示唆したが、一方で株式市場と長期国債はこのカネ余りの影響が強く、10年債金利も株式のPERも高いままという訳である。

マネタリーベースは未だに高水準 出所:セントルイス連銀


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