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漫画原作「俺に(溺)愛される覚悟はいい?」第1話

あらすじ

男性芸能人とオーデションで選ばれた一般女性が恋人となり、週末同棲をする恋愛バラエティ番組『週末ナイショの恋しよう』に約2000人の応募者の中から選ばれた多々良芽郁(高2・16)。

第7シーズンのヒロイン・芽郁の相手となるのは人気若手俳優の三澄十和(高3・17)。

撮影初日から順調そのものに見えた十和芽郁カップルだが、2人には誰にも知られてはいけない秘密があって──。

それは過去に2人が交際していて、しこりを残したまま別れたということ。
番組に全力で取り組むつもりの十和は、芽郁に「俺に愛される覚悟」をしろと言う。

撮影を通して再び縮まる距離。

その言葉は演技?それとも本音──?


「俺に(溺)愛される覚悟はいい?」

◇第1話◇

○一軒家・玄関(6月・土曜日・昼)

十和「いらっしゃい芽郁ちゃん。今日からよろしくね」

人気若手俳優、三澄十和(みすみ とわ)17歳はキャリーケースを持って家へと訪れた女子高生、多々良芽郁(たたら めい)16歳にとびきりの笑顔を見せる。

芽郁「よろしく……お願いします」

一方、引きつった顔で笑う芽郁。

十和「上がって。荷物はリビングに持ってくね」

キャリーケースを軽々と持ち上げてリビングへと向かう十和。

芽郁「ありがとうございます。お邪魔します」

芽郁も慌てて靴を脱ぎ、十和の後を追う。

すると、振り返る十和。

十和「お邪魔しますは変でしょ。芽郁ちゃんも今日からここで一緒に住むんだから」

キャリーケースを持っていない方の手で、芽郁の頭をポンポンと優しくなでる十和。

十和の行動に顔だけではなく、耳まで赤くなる芽郁。

十和「芽郁ちゃん耳まで真っ赤」

自分の耳を指差しながら、ふっと笑う十和。

芽郁「こ、これは緊張で……!」

十和「俺も緊張してるよ。女の子と一緒に住むのなんて初めてだし」

芽郁(緊張ね)

十和に対して疑いの目を向ける芽郁。

しかし、十和はそれに気づいていない。

十和「ほら、行こ」

空いてる方の手を芽郁へと差し出す十和。

芽郁(え、家の中で手を繋ぐの!?)

差し出された手に戸惑う芽郁だが、断ることもできず十和の手を握った。

芽郁と十和はリビングまで続く廊下を歩く。

芽郁(本当に始まるんだ。昨年の恋人にしたいランキングでは圧倒的な票数を集め1位、映画賞では新人賞と助演男優賞をW受賞。今、最も勢いのあるイケメン人気若手俳優、三澄十和との同棲生活が……)

○一軒家・リビング

十和がドアを開けると、そこにはカメラを持った大人達の姿があった。

芽郁(……まぁ『週末、ナイショの恋しよう』の“撮影”だけど)

芽郁(『週末、ナイショの恋をしよう』とは金曜22時から30分の枠で放送されている恋愛バラエティ番組のことだ)

芽郁(男性芸能人とオーディションで選ばれた高校生以上の一般女性が1か月間(土日のみ)限定の恋人となり、同棲をするという夢のような企画で現在は第6シーズンが放送されている)

芽郁(そして、今日から始まる第7シーズンのヒロインに応募者、約2000人の中から私が選ばれた)

十和「リビング広っ」

十和がキャリーケースを置く。

芽郁「お庭もありますね」

窓の外に目をやる芽郁。

十和「とりあえず、一旦座ろっか?」

芽郁「はい」

ソファに座る芽郁と十和。

曽根(そね)ディレクター・男性「カット!いや〜芽郁ちゃんの緊張がリアルに伝わってきて良かったよ」

カメラが止まり芽郁に1人のスタッフ、十和に5人のスタッフが駆け寄る。

曽根「あ、でも手を握るのはちょっ早かったかな十和くん」

十和「すみません、緊張してて。確かにあそこで手は繋がないですよね」

照れた様子で頭に手をやる十和。

曽根「十和くんでも緊張することあるんだ」

十和「ありますよ。俺も普通の高校生男子なんで」

十和と曽根の会話を聞いて、顔を歪める芽郁。

磯山(いそやま)芽郁の期間限定マネージャー・女性「芽郁ちゃん、顔、顔!(小声)」

芽郁「す、すみません」

表情を元に戻す芽郁。

磯山「芽郁ちゃんいい?あなたは今日から十和の彼女なの。彼氏相手にしかめっ面してたら変に思われるわよ?」

芽郁「……ですよね。気をつけます」

両手で頬をパンパンと叩き、気合を入れる芽郁。

曽根「じゃあ、そろそろ次のシーン撮ろうか」

芽郁・十和「はい」

次の撮影は十和と芽郁がソファに座っているところから始まった。

芽郁がチラッと横を見ると、同じように芽郁のことを見ていた十和と目が合う。

十和「芽郁ちゃん、すげー見つめてくんね?」

十和が少し意地悪な表情で微笑む。

芽郁「…………」

芽郁(あぁ〜!やっぱり無理、三澄十和と恋人のふりなんかできるわけない!)

芽郁(そもそも私はこの番組に参加するつもりなんて一切なかったんだから!)

○(回想開始)芽郁がこの番組に参加することになった理由

芽郁(私がこの番組に参加することになったきっかけは、お母さんが出した一枚の履歴書だった)

○芽郁の家・リビング(金曜日・夜)

ソファに並んで座りながら、第5シーズンの放送を観る芽郁と芽郁の母。

第5シーズンはアーティストのタケトとOLのマリアの回。

芽郁「もう終わっちゃった。あと2回でタケマリ回も終わりか〜」

芽郁母「あっという間ね〜」

芽郁「こんなに面白い番組が第7シーズンで終わるなんて考えられない」

芽郁(週恋(=週末、ナイショの恋をしよう)は芸能人の家でのリアルな過ごし方を見られたり、疑似恋愛が楽しめると人気な一方で、一部の視聴者からは打ち切りを求める声が上がっていた)

芽郁(自分の推しと女の子が同居する姿なんて、番組であっても見ていられない。というのが主な理由)

芽郁(そこにマンネリ化しているとの声も加わり、第7シーズンをもって放送を終了することが決まった)

芽郁「第7シーズンは誰が出るんだろう」

第6シーズンの芸能人、一般女性はすでに決まっている。

芽郁母「さぁ?主題歌はAneMone(あねもね)らしいわね」

芽郁「そう!だから余計に楽しみなんだよね」

芽郁(AneMoneとは双子の姉妹アネ(姉、15歳)とモネ(妹、15歳)の2人組アーティストで、私が一番好きな歌手だ)

芽郁母「撮影現場を見に来たりするのかしら?」

芽郁「何回か主題歌を歌うアーティストがゲストで登場する回あったよね。じゃあ、アネちゃんとモネちゃんがゲストとして出演する可能性もあるかも!」

芽郁(楽しみ〜!)

芽郁母「芽郁もAneMoneに会えるなら、会いたいわよねぇ?」

芽郁「何その質問(笑)そりゃ、会えるなら会いたいけど」

芽郁母「芽郁ならそう言うと思って、応募しといたわ」

芽郁「応募しておいたって?」

芽郁お茶を飲む。

芽郁母「第7シーズンのヒロインオーディション」

芽郁お茶を吹き出す。

芽郁「はぁぁぁぁ!?」
芽郁「ど、どういうこと?」

芽郁母「先週、番組の最後に募集のお知らせがあったの覚えてる?」

悪びれる様子もなく、淡々と話す芽郁の母。

芽郁「それは覚えてるけど……」

芽郁母「芽郁、週恋もAneMoneも好きでしょう?」

芽郁「確かに好きだけど、なんで勝手に応募しちゃうかな」

芽郁母「ほら、こういうのってよく家族が勝手に応募しましたって話を聞くじゃない?」

芽郁「それってアイドルが事務所に入るきっかけとかで話すやつであって、オーディション番組のことじゃないから。ていうか、これって一般人限定じゃなかった!?」

芽郁母「あら、あんたもう芸能のお仕事なんてとうの昔に辞めたじゃない。それとも何?まだ自分のことを芸能人とでも思ってるの?」

芽郁「それは違うけど!」

芽郁(実は私は子供の頃、子役として活動していた時期がある。といっても、出演した作品は数えられる程。中学1年生の頃には引退して、今はもう関わりのない世界だ)

芽郁母「じゃあ問題ないでしょう?AneMoneに会えるチャンスよ」

にっこりと笑う芽郁の母と複雑な表情をする芽郁。

どうせ受かりっこない。そんな気持ちで結局オーディションを受けることにした芽郁。

けれど、書類審査を通過後、2次審査、3次審査もあっさりと通過。

最終審査の5人の中から芽郁がヒロインに選ばれた。

○(回想終了)

オーディションを思い出し、選ばれず泣いて帰っていった子達の顔が浮かんだ芽郁。


ふと、カメラの向こうを見ると磯山が祈るように手を握り芽郁を見守っていた。

芽郁(確かに応募したのは私じゃないけれど、それが頑張らなくていい理由にはならないんだ。私が週恋を楽しみにしていたように、第7シーズンの放送を楽しみに待ってくれている人が大勢いる)

改めて気持ちを切り替えた芽郁は、子役の頃を思い出して役に入る。
そして、十和へと微笑んだ。

芽郁(私はこの夢のような企画に選ばれたヒロイン。番組のためには最善を尽くさないと……!そう、たとえ相手が“元カレ”であろうと)

実は芽郁と十和は昔、付き合っていたことがある。

あまり良い別れ方をしなかったために、芽郁と十和の間にはしこりが残っている。

相手が十和だと知ったのは最終審査の後。
もう辞退できる雰囲気ではなかった。
もし、相手が十和だと知っていたら芽郁はオーディションを受けなかった。

芽郁の笑顔にドキッとする十和。

十和(なっ、急になんだよ)

十和「そ、そういやまずは課題ノート見ないとだめだったね」

ドキッとしたことを悟られまいと、課題の話をする十和。

週恋では1日のうちに何度か課題が出される。
課題が書かれているものを課題ノートと呼び、2人はそこに書かれてあることに従わなければならない。

課題ノートは特殊なのりでページが貼り付けられているため、一度剥がすとくっつかない。
先にお題を見られないように細工してある。

他にも個人課題があり、その内容は撮影用に持たされているスマホへと届く。

芽郁「見てみようか」

テーブルに置かれてあったノートを手に取る芽郁。

芽郁「十和くんがめくってみて」

十和「わかった、いくよ」

1ページ目を十和がめくる。

『課題:1 恋人として過ごす前に、まずは自己紹介をしましょう。お互いの呼び名も決めてください』

課題:1はいつも同じ、自己紹介と呼び名を決めるところからスタートする。

十和「恋人なのに自己紹介って変な感じすんね(もう色々知ってんだけど)」

芽郁「ですね(別に知りたいことなんてないんだけど)」

十和「俺からいい?」

芽郁「どうぞ、どうぞ」

ノートをテーブルへと置いた十和は、芽郁の方に体を向けて座り直す。

十和「三澄十和、高校3年生で俳優をやっています。趣味は体を動かすことで特にバスケが好きかな。じゃあ、次は芽郁ちゃんの番」

芽郁「多々良芽郁、高校2年生です。趣味は料理と音楽を聴くことです」

十和「俺もたまに料理するよ。芽郁ちゃんはどんなの作るの?」

芽郁「一番得意なのはパスタです」

十和「へー、今度食べてみたいな」

芽郁「じゃあ今度作りますね」

十和「楽しみにしてる。呼び方は芽郁ちゃんでもいい?もう呼んじゃってたけど」

最終審査では5人がボックスの中から手のみを差し出し、芸能人側が一人ずつ握る。

そして、最後に直感で相手を選ぶというシステム。

その時に初めて顔を合わせた。

だから、お互いに相手の顔、名前を知った上で撮影をスタートしている。

ちなみに最終審査の映像も初回の放送で流される。

芽郁「今のままで大丈夫です。私は……」

十和「好きな呼び方でいいよ」

芽郁「……三澄くん?」

十和「まさかの名字(笑)いや、そこは名前で呼んでよ。十和くんって。距離あるじゃん」

十和(昔は十和って呼んでただろ)

芽郁(好きな呼び方でいいって言ったじゃん)

芽郁「……じゃあ、十和くん?」

十和「ん」

照れたように笑う十和。

十和「あとさタメ口にしない?俺ら恋人なんだし」

芽郁「そうです……じゃなくて、そうだね。私達、恋人だもんね」

十和「そうだよ」

いつの間にか、2人の間にただよう甘い雰囲気。

曽根も満足そうに撮影を見守っている。

芽郁(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。よく、こんなの放送してるね?)

それを楽しんで見ていたのは芽郁。

その後、課題:2では、お互いが持ってきた私物を見せ合ったり、普段の生活について話したりした。

夕食は初日ということで出前のピザ。

こうして1日目の撮影が終了。

曽根「初日からいい雰囲気だったよ。芽郁ちゃんも子役やってただけあるね。途中から本当の恋人に見えてきたよ」

芽郁「ありがとうございます」

芽郁が曽根へと頭を下げる。

芽郁(気持ちを切り替えたおかげかな?)

曽根「十和くんも良かったよ。さすが恋人にしたいランキング1位の男!おじさんキュンキュンしちゃったよ」

十和「はは、ありがとうございます。明日も頑張ります」

曽根「頼んだよ。田村ー!あとの説明は任せたからな」

田村 AD・女性「はい!」

芽郁と十和の元へと走ってくる田村。

田村「事前にご説明した通り、おふたりにはこの家に泊まっていただきます。三澄さんは1階を、多々良さんは2階をご使用下さい。どちらの階にもバスルームやトイレ、冷蔵庫など生活に必要な物が完備されています」

田村「固定カメラは撮影時以外は全てオフにしてあります。あと、カメラが回っていない間、おふたりの接触は禁止とさせていただきます。もし、何か気になる点がございましたら、お近くのスタッフ、もしくはマネージャーの方にお尋ね下さい」

十和「はい」

芽郁「わかりました」

○2階・廊下(夜)

シャワーを浴びた後、自分の部屋に戻るため廊下を歩いていた芽郁。

その途中、階段から聞こえてきた足音。

芽郁(磯山さんかな?)

2階には芽郁と磯山、ヘアメイクの女性が泊まっている。

階段を覗こうとした芽郁と上がってきた人物がぶつかる。

芽郁「いてて……すみませ」

顔を上げた瞬間、思わず叫びそうになる芽郁。

芽郁「なっ、十……」

階段から上がってきたのは十和だった。

叫びそうになった芽郁の口を片方の手で塞ぐ十和。

十和「しーっ、大声出すな」

芽郁の口を塞いでいた手を離す十和。

芽郁「な、何してるの。撮影時以外は接触禁止って言われたでしょ!?」

他の人がいないか辺りを見回す芽郁。

ブンブンと頭を振り回したことにより、髪に残っていた水滴が十和に飛ぶ。

十和「磯山さん達なら今1階。てか、髪乾かしきれてねぇじゃん。ったく、大雑把なところは変わんねぇな」

芽郁が首にかけていたタオルでわしゃわしゃと芽郁の髪を拭く十和。

芽郁「ちょ、馴れ馴れしくしないでよ」

十和の胸板を押し、距離を取る芽郁。

十和「どうした?よそよそしいじゃん」

壁に手を付き、芽郁が逃げられないようにする十和。〈壁ドン〉

芽郁「な、何するの……!磯山さん達が戻ってくる前にさっさと1階に戻ってよ」

十和を睨みつける芽郁。

十和「さっきまでの可愛らしい態度はどこにいったんだよ?」

芽郁「あんなの演技に決まってるでしょ」

十和「はは、さすが元天才子役」

芽郁「バカにしてるの?」

十和「バカにはしてねーよ?つーか俺にそんな態度取ってもいいの?」

芽郁「……えっ?」

十和「俺、ポロッと話しちゃうかもな芽郁が俺の元カノだって」

今度は芽郁が十和の口を両手で塞ぐ。

芽郁「だ、だめに決まってるでしょ」

十和「ばれちゃまずいもんな?」

芽郁「…………」

芽郁(それはお互い様でしょ)

十和「でも、まさか芽郁とこんなろで再会するなんて思ってもみなかったな」

不敵な笑みを見せる十和。

芽郁「な、何?なんか企んでるの??」

十和「別に、何も。ただ俺はこの番組に全力で取り組むってことを伝えに来ただけ」

芽郁「全力って……」

十和「視聴者に思う存分、疑似恋愛を楽しんでもらうためには甘さが必要だよな?ってことで、この撮影の間俺はとことんお前を甘やかすから」

芽郁「それってただの嫌がらせじゃ……」

芽郁の言葉を聞いて、無の表情になる十和。

十和「ゔゔん(咳払い)…………だから、覚悟しといて」

芽郁「なんの覚悟よ?」

十和「俺に愛される覚悟?」

芽郁「そんなんもんするかー!」

捨て台詞を吐いた後、十和を残して自分の部屋へと走って逃げる芽郁。

バタンと大きな音を立て、閉まるドア。

十和は芽郁の部屋を見ながら、廊下の壁にもたれかかる。

十和「こんなチャンス逃すわけねーじゃん」

○芽郁の部屋

ベッドにうつ伏せに寝て枕に顔をうずめながら、足をバタバタさせる芽郁。

芽郁「十和以外なら誰でも良かったのにー……」

足をバタバタさせるのをやめて、ため息をこぼす芽郁。

芽郁「本当になんでこんなところで再会しちゃったかな──」

第1話終了


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