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かがみの孤城-感想 (研究室学生にもおすすめ)

今更ながら、辻村深月さんの人気著書「かがみの孤城」を読んだので感想をまとめます。

はじめに

この作品は、様々な理由で、とある日本の中学校に通うことができない7人の学生たちの友情や成長を題材としています。しかし、大学院生である私には、この物語内に散りばめられた学生を勇気づけるメッセージは、学校にうまく馴染めない中高生だけでなく、研究室に篭り、研究に生活を支配されているような大学生にも刺さる内容だと感じました。

内容

著書の内容をざっくりまとめると、とある日本の中学校に不登校な中学生7人が、支配人であるオオカミ様によって現実世界とは離れた世界に存在する孤城に集められ、「城に隠された鍵を見つけられれば、なんでも1つ願いを叶えてやる」と告げられます。孤城での時間の進みは現実世界の時間とリンクしており、毎日午後5時までであれば、自宅の鏡を通して、現実世界と孤城とを行き来することができます。集められた7人は、もちろん鍵探しも行いますが、城での時間を共にする中で、徐々に友情が芽生え、現実世界での生活がうまくいっていない彼女らにとっては、現実よりも孤城で過ごす時間の方が充実したものになっていきます。

しかし、彼らの多くは不登校であり、現実世界では、自身を理解してくれない、大人たちや友人との「闘い」を強いられます。その「闘い」を孤城で出会った仲間たち、現実世界で出会う味方、喜多嶋先生と勇気づけ合い、乗り越えていきます。

感想

作品から読者に向けての1番のメッセージは、「学校だけが居場所じゃない」だと感じました。

中高学生にとって、学校で過ごす時間は1日の活動時間の半分以上を占めます。そのような空間において、自身の居場所を見失った際、毎日が憂鬱に満ち溢れるのは明白です。また、クラス替えは年に1度しかなく、運良く苦手な人と違うクラスになっても、隣の教室を除けばその人はいる。3年間はその集団での生活を強いられます。学校とは非常に閉鎖的な空間であり、学生の力では、環境を変えるのは困難です。そして、このような環境下では、学校だけが居場所と感じ、もし学校での居場所を失った際、強い孤独を感じるのは無理もありません。家族関係が円満でない場合は尚更でしょう。

この作品では、学校での居場所を失った学生らに対して、孤城という新たな居場所を提供し、学校だけが居場所ではないこと、ただの一つのコミュニティに過ぎないことを伝えています。
このことを象徴する印象的なセリフとして、主人公の友人である東条さんの「たかが学校のことなのにね」があります。これは、転勤族の家系である彼女だからこその視点ですが、多くの学生はこの視点に気付けないのではないでしょうか。居場所なんてほかに作れば良いのです。

さて、この作品では、中高生特有の学校に縛られた生き方で生じる悩みや葛藤に対して、救いのメッセージが綴られていることを述べてきました。しかし、この作品を読んだ際、この中高生の抱える閉鎖的環境下での孤独感というのは、大学の研究室の学生にも当てはまるのではないかと感じました。

大学生の所属する研究室という環境は、中学校や高校よりも小さなコミュニティであり、より実力主義な一面があります。また、ひとによっては実験のデータ収集のため朝から晩まで研究室に篭らなければならないことも珍しくありません。そして、大学教授は、義務教育に携わる先生方と比べて、充実した学生生活を叶えるような面倒を見てくれる存在ではありません。
よって、研究室も中高と同様に、人間関係に疲弊しやすい環境なのではないかと感じます。もしブラック研究室で孤独感、強い疲弊を感じている方々にとっても、本書は救いになるのではないかと思いました。

また、環境に馴染めない学生だけでなくとも本書は非常に読み応えのある一冊だと思います。現実世界と孤城との綿密な関係性や、怒涛の伏線回収は鳥肌モノです。

長くなってしまいましたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。



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