6-7 モテない買い手企業③
口先だけの会社
付き合う前は「一緒になったら毎週デートしよう」などと都合の良いことばかり言って、付き合った後に何もしない人は信用力が無い。M&Aにおいても、契約成立前は「経営ができる人材を送り込みます」「御社の文化を大事にします」「絶対にリストラしません」などと言っておきながら、いざPMIのフェーズに入るとあっさりと前言を撤回する買い手企業はモテない。
Day1においては、買い手企業が最初に売り手企業に対して挨拶する際に、「私たちのグループに入ったらもう安心です。撤退や解雇はしません。一緒に頑張っていきましょう!」などと格好良いことを言いたくなるものだ。しかし、M&Aはある意味で有事なのである。そもそも売り手企業が組織も事業も順調ならば売ろうとしない。ファンドが収益を得るために保有企業を売却するなどの例を除くと、売り手企業は何かしらの将来不安があるからこそ会社や事業を売却したのである。組織の統合というのは、望んでいなくても多くの軋轢を生むし、文化の衝突もある。まさにPMIは有事の活動なのである。
買い手企業も誠実にその有事に向き合うことである。「同じグループになりましたが、成長への道のりは簡単ではありません。痛みを伴うこともあるかもしれません。でも、私たちは既に同志です。共に乗り越えるために全力を尽くします。」など、耳の痛いことも交えて、共に戦う意思を伝えて、売り手企業に勇気を与えることが大事である。そして言ったことや約束したことは確実に実行することである。できない約束をするということはPMIにおいて最もやってはいけないことの一つだ。
また、PMIでは多くの関係者が集まり、同時進行でプロジェクトが進む。会計統合やシステム連携、共同での商品開発など、チームに分かれて展開される。分科会でどのような会話や約束がなされているかは分かりづらい。買い手企業サイドの関係者は「できない約束はしない」「不明な点は曖昧にしない」ということを事前にしっかりと共有する必要がある。また全体統括者は、逐次の情報収集に努めて、売り手企業と決め事や進捗を密度濃く共有しながら進めていくことが大切だ。
信用を高めるということは、ひとつひとつブロックを積み重ねていくような作業だが、信頼を失うということは、一瞬でそのブロックを破壊するような行動である。その場しのぎのコミュニケーションをしないことだ。
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