1-1 PMIの論理
企業のM&Aは、買い手サイドにおいて事業展開の可能性を探り、売り手サイドにおいては自社だけでの展開可能性の限界を感じた時に生じることが一般的である。その段階で両社が出会い具体的な交渉となるが、買い手サイドは安く買える方法を、売り手サイドは高く売る方法を探るいわゆる企業の価値の交渉ゲームに入る。これはまさに投資家や資本家による資本論理の市場ゲームとなる。戦略論が互いに前提にあるものの、時に資本論理やゲーム論理が先立ち、さながらオークションのように意思決定者同士が興奮を錯綜する中で決まることも良くある。クロージングフェーズまでそのような交渉が繰り広げられた後に、無事に株式や事業の売買が決まり、一件落着となるのであるが、PMIはこの段階からスタートする。そこからは、資本の論理を前提とした交渉ゲームから、事業資産と人的資本を前提としたマネジメントゲームへと一気にゲームボードが変わる。ゲームボードのプレイヤーも証券会社やM&A仲介会社などはいなくなり、両社における統合を担当する社員にプレイヤーが一気に様変わりする。
経営者はその両方のゲームに関与しているのであるが、一般的に投機的な要素の強い資本論理のゲームには強く関与するものの、地道で慎重な行動が求められるマネジメントゲームは幹部職員に任せることも多い。このあたりの空気感は、M&A業務におけるPMIの価値を相対的に低くしている要因でもあるが、実は投機的な活動の成功を大きく左右するのはマネジメントゲームなのである。M&Aにおいて買収サイドが見えているのはあくまで財務情報や事業の実態を数値化した情報のみである。もちろんトップ会談や幹部面談などにより人や組織の要素も一定把握しているが、私の実感値からすると、M&Aが成立する前に買い手サイドが知りえている情報(数値化できない情報も含めて)は、事業実態や組織風土、人材レベルや顧客特性などビジネスにまつわる数多の要素の半分も見えていないことが多いのではないかと思う。ようはM&Aとは、限られた情報を頼りに、事業を大きく飛躍させる可能性を買う作業なのである。そして、その残りの不確定な情報をM&A後に把握し、素早く成果へとつなげていくのがまさにPMIであり、人と組織を軸としたマネジメントゲームなのである。
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