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7-3 ボタンの掛け違い③(支配者)

支配者として振舞う

 M&Aというイベントを経た後は、資本関係上は親会社子会社という従属関係になったり、たとえ対等合併であったとしても、新しいリーダーを一人に決めなければならないので序列がはっきりと決まってくる。序列の上位に入ってくる社員は、組織文化も異なる新しい人間関係のなかでリーダーシップを発揮していかなければならない。その際に、「自分が新しいリーダーだ」ということを見せつけようと、過度に自分の立場を強調し、新しい組織を束ねようとして失敗している例がある。まさに「支配者」として自分の権威を振りかざすことで、組織の中で上滑ってしまうボタンの掛け違いである。

 奴隷制度や植民地時代ならいざ知らず、現代において組織の権威というのは、受け手側がその権威の存在を受け入れた時に初めて機能するものである。受け入れるまで、この人の指示命令に従って良いのかどうかを現場社員はリーダーの一挙手一投足やその結果を見定めていると思った方が良い。現場社員が新しいリーダーに真摯さを感じ、また結果を伴ってきたときにはじめて権威の芽が芽吹いてくる。その後も、その芽がしっかりと育つまでは気を抜いてはならない。この受け手側の権威受容度を見極める眼をしっかり持っておかないと、「なぜ自分のところに報告をあげてこない!」とか「なぜ言われたとおりにやらない!」と憤りを感じ、「以前までいた組織では、もっと多くの人数に対して自分の声がちゃんと届いたのに・・・」と途方に暮れることになるだろう。

 また、支配者としてふるまう人はいつの時代も「言葉」を乱暴に扱う人が多い。言葉は文化である。PMIにおいては「言語」をどのように紡ぎあげるかが勝負である。その組織が持つ本質的な価値を表す言葉、価値を実現するための仕組みを動かすための言葉、組織内に流通するそもそもの言葉の定義、PMIとはこれらをきちんと整備していくプロセスに他ならない。前述のとおり、権威とは受け入れる側が理解できて初めて成立するのである。したがって、PMI初期段階では、たとえ同じ日本のなかにあったとしても異文化の国に入ったかの如く、とにかくコミュニケーションを交わし、新しい組織の言語体系を見極めて、スイッチの入れどころを見つけていくことが重要である。間違っても「自分が新しいリーダーなので私の言葉に従うように」というトーンで接してはならない。現場社員からすると上層部が勝手に決めた人事であり、しかもそのリーダーがこれまでどのような活躍をしてきたのかまったく知らないのである。現場社員から一度でも「新しいリーダーはうちの文化には合わない」と思われてしまったら、その後に権威を取り返すのは何倍もの労力がかかる。その間に、主要なポジションのメンバーが去ってしまい業績も下がっていくことになるだろう。これらは「自分ならできる」という過度の自信がもたらす弊害だ。新しい環境においては新人の気持ちで向き合い、組織作りをゼロベースで考え、そこから信頼を積み上げていく忍耐力が必要だ。

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