夏の旅の記憶
まだ夜も明けない時刻に目が覚め、
支度をして迎えを待つ。
やがて、聴こえてくるエンジン音。
暗闇を照らすライト。
叔父のワゴン車が家の前に停車する。
父と母、祖父母に見送られ、
妹とともにワゴン車に乗り込む。
「まだ寝ていてもいいのよ」
助手席の叔母の声にうなづくも、二人のいとこも、妹も、だれも倒された座席に横にならない。
ついにこの日が来た。
夏休みが始まる前からずっと楽しみにしていた。
子どもの頃の旅の記憶。
サービスエリアで朝日に出迎えられる。
売店を横目に見ながら、母が持たせたおにぎりを食べる。
8月半ばだというのにコスモスが風に揺れ、
赤とんぼが宙を舞う。
この3泊4日が終われば、夏休みが終わってしまう。
そんな感傷にも浸る。
宮城と山形の県境あたりのキャンプ場だったろうか。
4,5時間ほど車に揺られやっと着いた。
叔父と叔母がテントをたてている間、
まだ小さい下のいとこの面倒を見るのが僕の役目だった。
妹と、上のいとこも連れ、早速キャンプ場を探検する。
他のお客さんのサイトを覗いたり、
炊事場に行ってみたり、
川を見に行ったり、
とんぼを追いかけたり、
行けるところは全部行った。
子どもたちだけで恐る恐るつり橋を渡ったこと。
気に入った木の棒をテントまで持って帰ったこと。
夜中に雨が降り、増水した川の音で、不安で眠れなかったこと。
ようやく休みに入った父が、母とともに2日目に合流し、3日目の午後には先に帰っていったこと。
母と叔母がつくるキャンプ飯は、普段のご飯とほとんど変わらなかったこと。
3日目に泊まった民宿の家の子どもに、人見知りしたこと。
最近、実家に帰った時に、この旅の話になった。
「雨が降ったのは、山形じゃなくて新潟の時だよ」
僕は記憶を訂正され、
「あの時の帰り、道に迷って、家に着くのが0時過ぎちゃったのよ」
「そうだ。それで次の日、会社に行ったんだ」
知らなかった両親の思い出に、初めて触れた。
ぼんやりとした夏の旅の記憶は、
幸せな子ども時代を過ごした証となって、
今も胸に残っている。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?