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【創作童話】ナナフシだいさくせん!

「きたぞーっ! にげろーっ!」

きの えだに とまっていた カナブンの ブンゾウが さけびました。

ブオオオン……!

くうきが ゆれるような はねの おと。

とんできたのは、スズメバチです。なんじゅっぴきという ぐんだんです。

じゅえきを なめていた クワガタや コガネムシが、スズメバチたちに たいあたりをされました。

さらに、あしを ひっぱられ、きの したへ まっさかさま。

スズメバチたちは、たからかに わらって、じゅえきを ペロペロ。

くさむらでは、チョウや バッタ、テントウムシたちが、 スズメバチに おいかけられ、つかまったりしています。

「やめろーっ!」

「た、たすけてくれーっ!」

みんな、もう にげまどうばかり。

つぎのひ。
もりの むしたちは、あつまって はなしあいをしました。

「あいつら、すきかってやりやがって!」

おとしよりの クモ、ツクモばあさんが こえを あらげました。

「このままじゃ、あたしたち みんな、やられちまう。
なんとかしないと!」

しかし、ほかの むしたちは、みんな くらい かお。

ブンゾウが、くちを ひらきました。

「これまでも、カブトムシや カマキリたちを 
たたかいに おくりこんだ。だが、そのたびに、かえりうちに……。」

クワガタと コガネムシが うなずきます。

「ああ。カブトムシたちは、この もりで トップクラスの 
つよさだったのに……。」

「くやしいが……おれらが たばになっても、
スズメバチには、かなわない。」

ブンゾウが つぶやきます。

「なにか よい ては ないか……。」

そのとき、いっぽうから、こえがしました。

「おいらに、まかせてもらおうか?」

みな、ふりむきましたが、だれもいません。

いしに よりかかった、ちいさい きの えだが いっぽん あるだけ。

「いま、なんか こえが……。」

「きのせいか……?」

むしたちは、くびを かしげました。

「おいおい、しつれいだなあ。ここに、ちゃんといるだろ?」

きの えだが ゆらりと うごきました。

それは、ほそく、ちゃいろい からだで、
ながい あしが ろっぽん はえた……ナナフシでした。

「シチロー、あんた まぎらわしいんだよ。」

 ツクモが、しかめっつらで、いいました。

シチローは、「フフン。」と、あいてにせず、
みなの まえに たちました。

「みんな ききな。この ナナフシの シチローさまが
スズメバチを たいじしよう。」

ツクモが、はなで わらいました。

「そんな ガリガリに やせた からだで、
なにが できるっていうんだい?」

「おいぼれの クモよりは、よっぽど ちからに なれると
おもうけど?」

「なんだって?」

ツクモが、めを あかくして、にらみます。

「ふたりとも、やめないか。」

ブンゾウが わって はいりました。

「まあ、せっかく なのりを あげて くれたんだ。きこうじゃないか。」

「さすが ブンゾウさん。はなしが わかるね。
おいら、さくせんが あるのさ。」

「ほう……。」

シチローは、きの ぼうを みせました。
さきっぽに あかい くすりが ついた、マッチです。

「これを つかうのさ。ひを おこす どうぐだ。
にんげんが キャンプで おとしていったんだ。」

シチローは、マッチを かかげます。

「けむりで、すを いぶしてやる。」

「だが、スズメバチの すには かんたんには ちかづけん。
へいたいの まもりは かたいし、みはりの めも するどい。」

ブンゾウが いけんしました。

「そこは なんとかするさ。」

「……ふむ。もしかすれば、うまくいくかもしれんが……。
いっしょに いく なかまは、どれくらい ひつようだ?」

「あー、いらない、いらない。」

「む……?」

「あんたら、あしでまといに なるだけさ。
おいら ひとりで じゅうぶん。」

ツクモが、はぎしりを しました。

「ねごとを いってんじゃないよ。そんなの むりに きまってるだろ。」

ほかの むしたちも、ムッとした かおで、

「ちょうしにのるな!」

「いいかげんにしろ!」

と、もんくを いいます。

「まあ、みんな。
ここまで いうなら、すきに やらせてみようじゃないか。」

ブンゾウが、おおきな こえで、みんなを とめました。
そして、おだやかな くちょうで シチローに はなします。

「シチロー、おまえの うでまえ、みせてみろ。
だが、くれぐれも、むりは するなよ。」

「あいよー。」

シチローは、ふらりと しゅっぱつ。

マッチの あかい さきっぽは めだつので、
はっぱで くるんで、もちました。

シチローが、もりを すすむと、とおくのほうに、
おおきな きが みえました。

その きは、かれていて、みきの なかに 
ぽっこりと あなが あいています。

あなの なかから、スズメバチの すが かおを だしています。
みまわりを している スズメバチの へいたいが とんできました。

すると、シチローは、とつぜん、じめんに パタリ。
みうごきひとつ、しません。

おちている きの えだに みえます。

へいたいが きづかず、とおりすぎました。

あんしんした、そのときです。

シチローは、おなかがへっていて、ぐう~と おおきな おと。

「ん……?」

へいたいの ハチが、もどってきて、あたりを よく みまわしましたが、

「きのせいか。」

と、はなれていきました。

シチローは、おきあがると、はっぱを むしって たべながら、
すすみます。

また、べつの へいたいが きました。

シチローは、くさの かげで ピタリ。

へいたいは、きづかず とおりすぎました。

が、そのとき、シチローは、「ゲフッ」と、おおきな げっぷ。

「おや……?」

へいたいの ハチが、もどってきて、あたりを よく みまわしましたが、

「そらみみ、か……。」

と、はなれていきました。

シチローは、また すすみはじめます。

さらに、べつの へいたいが きました。

シチローは、ちゃいろい くきに だきつきました。

げっぷが でそうですが、がまんします。
と、りきんで ぷっと おならが……。

「なんだ……?」

へいたいが、たちどまりました。

「なにか、におう……。」

じりじりと、ちかづいてきます。

シチローは、いきを ころします。

へいたいは、せなかの すぐうしろ。

そして、するどい めで けもののように はなを クンクン。

「くさい……。」

シチローは、へいたいバチの はないきが せなかに あたって、
くすぐったくて……。

たまらず、からだを よじりそうになりました。
でも、しばらく がまんしていると、

「いじょうなし……。」

と、へいたいは さっていきました。

「ふう。あぶない、あぶない。」

スズメバチの すは もうすぐそこ。
シチローは、いしの かげから、ようすを うかがいます。

マッチの あたまから、はっぱをはずし、いしに こすりました。

ボワッと、ひが つきます。

シチローは、やりなげの ように、

「あらよっ!」

と、マッチを なげました。

ほのおが うなりを あげながら、かれた みきの ほうへ。

「へへ、やったね。」

が、いっぴきの スズメバチが、すから でてきて、マッチを キャッチ。

「なにっ?」

つぎの、しゅんかん、ガツン!

シチローは、うしろから、たたかれて、きをうしないました。

めが さめると、まわりを、スズメバチに かこまれていました。

ひときわ からだの おおきい じょおうバチが、めの まえに。

「フフ。こしゃくな まねを……。」

じょおうバチが、こげた マッチを ふみつけました。

「くっ……!」

シチローが、かおを ゆがめると、わきから、こえがしました。

「もうすこしだったな、シチロー。」

スズメバチたちの あいだから、いっぴきの むしが あらわれました。

それは……ブンゾウでした。

「……ブンゾウさん?」

シチローは、くちが あいたまま。

ブンゾウは、じょおうバチに いちれいしました。

「ごくろうでした。では、おれいを。」

「ありがとうございます。」

ブンゾウは、 じょおうバチから じゅえきの かたまりを 
うけとりました。

「ブンゾウさん、どういう……ことだい?」

「まだ、わからないのか? 
おれは、スズメバチと てを くんでいるんだ。」

「な……。」

「もりの むしたちの じょうほうを うらで、つたえているのさ。
こんかいみたいな さくせんとかな。」

シチローは、ことばが でません。

「カブトムシたちや カマキリたちの ときも おなじだった。
それで、ばんぜんの じゅんびで、むかえうてたというわけだ。」

「う、うそ……だろ?」

じょおうが、「フフ。」と わらいました。 

「うそでは、ありません。ひとつき ほど まえ、ここに 
すを つくりはじめたとき。ブンゾウから、もうしでてきたのです。」

「シチロー、わるくおもうな。こうでもしないと、
たらふく くえないんだ。じゅえきは、きょうそうが はげしくてな。」

シチローは、からだが ふるえます。

「ブンゾウ、おまえ……!」

「この ものは、やせていて、おいしくなさそうです。
かたづけておしまい。」

じょおうバチは、へいたいバチに しじをしました。

すうひきの へいたいバチが、シチローを つかんで、とびました。

そのまま、ちかくの かわへ、ドボン。

「ぐぼばっ!」

はげしい みずの ながれに、のまれてしまいます。
ふかい ほうへ、ひきずりこまれたり、あさい ほうへ、おしだされたり。

ほそくて ながい からだが、ぐにゃぐにゃに なってしまいそうです。

だんだん、ちからが はいらなくなってきました。

(おいら、もう おわりか……?)

いろいろな おもいが、めぐります。

(ブンゾウが スパイだってこと、みんなにおしえてやりたい……。
けんかばっかりだったけど、きのいい やつらなんだ。)

そのとき、なにものかが、ザブンと、すいちゅうに はいってきました。

シチローのからだを かかえると、いきおいよく、みずの そとへ。

みると、それは ツクモばあさんでした。

かわの うえに のびた えだから、
いとを つかって おりてきたのです。

「ほら、しっかりしな!」

「ツ、ツクモばあさん……。」

ツクモばあさんは、シチローを かかえたまま、きしの いわばへ。

「た、たすかったよ。ありがとう……。」

「きになって、あんたの ようすを みてたんだよ。とおくからね。」

「そうだったのか……。」

「ブンゾウのやつ、やってくれたね。」

シチローは、いきを ととのえると、
だんだん かおに ちからが はいってきました。

「……まてよ。いまが チャンスかも。」

「え?」

シチローの めには するどい ひかりがともっています。

「へへ、あたらしい さくせんを おもいついたのさ。
ばあさん、みんなを スズメバチの すへ むかわせてくれ!」

シチローは、はしりだしました。

「ちょっと まちな!」

シチローは きかず、ながい あしで、かけていきます。

すの ちかくまで くると、へいたいバチが、シチローに きづきました。しかし、

「ん? あいつ……。」

「たしか、しんだはずじゃ……?」

と、とまどいました。

その すきに シチローは、いっきに かれきの ねもとまで。

「さっきは よくもやってくれたな!」

すに むかって さけびました。

じょおうバチが、かおを だしました。

「きさま。いきて いたとは……。」

ぶかたちも ぞろぞろと でてきます。

ちかくで、じゅえきの かたまりを なめていた 
ブンゾウも きがつきました。

「シチロー。しぶといやつだ。」

「そうかんたんに、やられてたまるかい。」

シチローは、おしりを かれきの ねもとに さしました。

「これでも、くらいな。」

てあしを ひろげて、クルクルクルっと、かいてん。

「あー、めが まわるー。」

シチローの わけの わからない うごきを みて、
ハチたちは、わらいました。

じょおうバチも、ふきだしました。

「あたまでも うったようですね。」

しかし、シチローは、ますます はやく かいてん。

「うおおおおおお!」

すると、ブス、ブス、と おとを たて、けむりが でてきました。

じょおうバチが、ハッとしました。

「これは……!」

かいてんの まさつで ひが ついたのです。

シチローは、ジャンプして、はなれました。

「まえに、にんげんが キャンプで やってるのを みたのさ。
きの えだで ひを おこしてたんだ。」

かれきに、ひが まわり、まっくろな けむりが もくもく。
すを おおいます。

「げほっ、げほっ。」

「め、めが……!」

「たすけてくれーっ!」

なかから ハチが、でてきました。
みんな せきこみ、フラフラしています。

そこへ、ツクモばあさんたちが、かけつけました。

「みんな、いくよ!」

「おーっ!」と、こえを あげて、もりのむしたちが、
つっこんでいきます。

ツクモばあさんが、スズメバチに とびかかり、かみつきました。 

クワガタやコガネムシは、たいあたり。

ほかの むしたちも、スズメバチを おいかけて、ひっかいたりします。

つぎつぎと うちのめしていきます。

「みなの もの! ひけ、ひくのだ!」

じょおうバチが、さけびました。

スズメバチたちは、いっせいに、にげていきました。

ブンゾウが、こっそり、くさむらの なかへ にげようとしています。

その ゆくてに、シチローが たちはだかりました。

「うっ……。」

と、あともどりする ブンゾウを、ツクモばあさんたちが、さえぎります。

ブンゾウは、なきだしました。

「た、たのむ。いのちだけは……。」

シチローは、ブンゾウが てにしている じゅえきの かたまりを 
うばって、そのかおに ベチャ!

「ぐえっ。」

「おまえなんて、てを くだす かちもないさ。きえうせな。」

シチローに いわれると、ブンゾウは、さっさと とんでいきました。

いっしゅうかんご。

もりの むしたちは おちつきを とりもどしていました。

クワガタや コガネムシたちは ゆったりと じゅえきを なめ、
チョウや アリ、トンボたちは、ひなたぼっこをしています。

シチローは、いしの うえで、おひるね。

ツクモが ほかの むしたちと いっしょに ちかづいてきました。

「シチロー、おしりの やけどは どうだい?」

「もう、すっかり なおったよ。」

「それは よかった。ほんと、あんたの おかげで みんな たすかった。あらためて、れいを いわせておくれ。」

ほかの むしたちが うなずきます。

「ほんとに、ありがとうな。」

「かんしゃしても、しきれないよ。」

シチローは、あたまを かきました。

「いやいや。みんなの おかげさ。」

ツクモが、いっぽまえに でました。

「ところで、そうだんがあるんだ。あんたに、この もりの リーダーに なってもらいたくてさ。」

「え? リーダー?」

「みんな、あんたを たよりにしてるんだ。」

ほかの むしたちが うなずきます。

シチローは、うかないかおで、あくび。

「わるいけど、おことわりさ。リーダーなんて。がらじゃないからね。」

ツクモが、あきらめず、いいます。

「そんなこと いわずにさ。ひきうけておくれよ。な?」

すると、シチローは、たちあがりました。

「よし。さくせんを、おもいついた。」

「ん……?」

シチローは、いっぽうを さして、

「なんだ、あれっ!」

と、さけびました。

みんな、ふりむいて そっちを みます。

その すきに、シチローは、ちかくの ひくい きに とびつきました。

えだに まぎれて すがたが きえます。

ツクモは、シチローを みうしない、「あっ」と こえを あげました。

「あいつ、どこいったんだい?」

みんなも、あたりを みまわします。

「にげちゃったな……。」

「おーい。シチローっ!」

シチローは、かくれたまま、また ひるねを つづけました。

「きままが、いちばんさ。ムニャ、ムニャ。」                                                      
                             (おわり)

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