怪談32「田舎の小さい廃屋」
一時期、私は両親を連れて、かなり田舎の地域に引っ越していました。
1年間、仕事もせず、朝から畑耕したり、借りたボロ屋の手入れ、そして昼過ぎからパチンコ行って、夜はオンラインゲームという、とてつもないグータラ生活をしていた時がありまして(笑)。
生活費はそれまで持っていたものと、田舎の当時のパチンコ屋ですから、データである程度目星がつき、勝ち続けていたので別に不自由はなかったんです。
(そのせいか、10年以上店長していた人がのちに急に移動になり、新店長が入ってきました・・・・もともと毎日30人ぐらいしかこないパチンコ屋を荒らしたわけですから、そうなったのかもしれません。でも不正したわけじゃないし、まあいいか)。
そんなボロ屋の裏には小さいこれまたやばいぐらいぼろい廃屋の家がありました。
田舎なので、家の庭からその家までは普通に歩いていける状態で、家を隔てる柵なんかありません。
まあ、存在は知っていたわけですが、別に気にもしなかったんですね。
そんなある日、朝から庭仕事していたのですが、その廃屋から突然「じゃーーーー!!!!」っと水道から水の出る音がしました。
車もそんなに通らない田舎で、基本は鳥などの声以外静かなところだったわけですが、それでも「え?」ってなるぐらいかなり響く大音量で水が流れる音がしたわけです。
さすがに「ビクッ」となったわけですよ。
そして、ずっと水が流れる音がする。
その時、ちょうど父が顔を出してきたので「なあ、水道の流れる音しない?あの家」と言うと父も「おお、確かに水が流れてるな・・・・水道だろう」と答えました。
誰もいないはずなのに、水が流れるとは・・・・と考えましたが「ああ、そうかちょうどどこかが破裂か壊れたんだな」と思いました。
「あれ、そのままにしておくわけにはいかんよなぁ」と父に言うと「水道からだろ?蛇口ひねれば止まるだろ」と言って、廃屋に向かいました。
「いやいや、誰もいないのに水の音がするって、蛇口ひねるとかじゃなく、壊れたんだと思うよ・・・っておい、勝手に行くなって」と言いながら私は父の後を追います。
その廃屋の入口は引き戸になっていました。
父がその引き戸に手をかけると「ガラッ・・・・」と音をたてて開きます。
父は「ここはお婆さんが住んでいたけど、ここで孤独死したらしいぞ~」と言って入っていきます。
「勝手に入っていいのここ」なんて言いながら私は父の後を追って、入口に向かったのですが、途中で足の裏になにか刺さった感触がしました。
「!」と思って、完全に踏み抜かず、足を上げてみると、枯葉の山で隠れて見えませんでしたが、釘の刺さった板がそこにありました。
「あぶね~!錆びた釘踏み抜くとこだった!」とか言ってると、父が入口から「ああ、だいぶ経ってるらしいからね~気をつけろよ~」と声をかけてきました。
私は、その板を廃屋の壁に立てかけて、家の中に進みました。
その家は入口からいきなり台所になっており、そして床は土むき出し、つまり「土間」になっているわけです。
そして、その横には少し高台にして、そこに畳が張ってある感じで、6畳ほどありました。
まあ、「1K」と言われるやつですかね?ただし、お風呂もトイレもないようです。
そしてその畳の上には、ブラウン管のテレビ、畳まれた布団、そしてなぜか日本人形とこけしが数点、畳の上に転がっている状態でした。
さらにそれらを覆うように埃が乗っています。
住んでいたお婆さんがここで亡くなったという話ですが、その時のまま、時間が止まっている感じで、隙間だらけの家なのに、なぜか風の動きが感じられませんでした。
と、そんな光景を見て「うわ~」と思っていると父が台所の蛇口を指さし「ほら蛇口から出ている」といって蛇口をひねります。
私は「いや、蛇口ひねったって壊れてるって、壊れてるところを修理しないと止まらないとおもうから、役所に電話したが早いって・・・」と言っていたわけですが、父が蛇口をひねると、普通に水が止まりました。
「これでいいだろ」と父はなにも疑問に思ってませんが、私からしたら「は?」という感じです。
そもそも廃屋で、誰も住んでないし、その廃屋から誰も出てきていない。
となると、勝手に蛇口がまわって全開になったとしか考えられないわけです。
そんなばかな・・・と思い「いや、おかしいだろ」とか私が言っていると父は「でも止まったからいいだろ」と言う。
そういう話ではない!と言いたかったわけですが、父はもともとそういうものに無頓着なので「~♪」な感じで廃屋から出ていきました。
とまあ、そんな話なわけですが、別に心霊でもなんでもなさそうと思うかもしれません。
しかしながら、これに心霊が絡んでるかも?という流れが別に存在するわけです。
実は、田舎のボロ屋に引っ越しした後、母が定期的に夜に「夜中に誰かがいる!」と騒いでいたわけです。
特にお風呂に入っていると感じるらしく、一度は「間違いなくなにかが来た!」と叫んだため、念のため、外を見に行ったぐらいです。
ちなみに、お風呂は庭側にあり、道路から見たら家の裏にあたります。
また、表からは簡単に裏に入ることはできない作りなので、お風呂の外まで来るということは、水道から水が出た廃屋側からしか来れないという感じです。
また、その廃屋のまわりに少し木々があるぐらいで、その後ろは畑で、さらにその先は民家が当分ない山の中になります。
ということは、かりにお風呂まで誰かが来て、こちらが見に行ったら逃げるという行為をした場合、ライトもつけず真っ暗な中をダッシュで逃げているわけですね。
ですが、そこまで激しく逃げるなら、必ず何かしらの音がするのでわかるわけで・・・。
ただ、それが頻繁に続いたので、最終的にはお風呂の外に動体検知ライトを付けました。
・・・・が、それ以降もライトは付かないけど気配がするという現象が続いたんです。
で、その現象が続いていたわけですが、実は廃屋の一件以来、パタっと気配がする現象はなくなったんです。
あと、近所のおじいさんにこの話をしていると、ちょっと面白いことを言っていました。
「あ~、あの婆さんは、あんたが住んでいるボロ屋に以前住んでた人がいろいろ面倒を見たりしててね~、お風呂とか借りていたって聞いたことがあるから、今でもお風呂を借りようと来てるんじゃないかな」と言っていました。
・・・・・まあ、水道の現象とお風呂の外の気配が繋がりがあるかどうかはわかりませんが、もしそうなら水道の水というアピールは「お風呂借りたい」って意味だったのかもしれませんね。
なお、なぜそんな廃屋に水が通っていたかについてはその数年後にわかりました。
私はその後、田舎は仕事がないという事で、また以前住んでいた街に戻って生活しており、両親はというと、今もその田舎のボロ屋に住んでいます。
そして、ある日私が訪れると、水道の元栓あたりから水漏れが発生しており、水道の修復作業が必要になったので、業者にお願いしたわけですが、その業者が地元の業者の古株の方で、こんなことを言ってました。
「この家の水道が、奥の廃屋まで伸びてるんですよ。前、おたくが住んでいるところに住んでた方は大工でですね、奥の廃屋に住んでたお婆さんがお金なくて水道代払えなかったんで、自分のところから引いてあげたって言ってたんですよ。どうせですから、そのパイプも切っておきますね」って話してました。
・・・・・ちなみに、そんなん2件分の水を共有したら「水道代高くならない?いくらお婆さん一人暮らしでも」と思うでしょ。
でもこの地域は湧き水を利用した水道で、使用料が年間12000円で使い放題というとんでもない地域なのですよ(笑)。
つまり天然水がお安く使い放題です。
なので、特にお風呂に使うと肌ツルッツルのスベスベになります。
贅沢ですね。
なお、そのボロ屋の家賃はというと・・・年間30000円。
・・・・・年間ですよ、ひと月じゃなくて・・・。
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