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11/17 だって骨折してるんだもん

 骨折した足もかなり治ってきて、ホップステップジャンプはさすがに気が早いが、短い距離をただ歩く分には、一般人とそう違わない動きができていると思う。近所のドラッグストア内をウロウロしながら、

「ふっふっふ、よもや誰も私が最近足の指を折ったばかりの人間だとは思うまい、ふっふっふ」

などと、人間社会に潜伏する宇宙人みたいなテンションでニヤついていた。気持ちの悪い人だと思われたのだろう、他の客が妙に遠かった。だいたい折ったばかりといっても、もう一ヶ月半は経過しているわけで、そりゃけっこう治るだろう。手術もしたし。問題は月末のレントゲン最終チェックで、きちんと骨がくっついているか。年末年始で体重が悪夢のように増えることがわかりきっているから、今の内にランニングやら縄跳びやらで体重を落としておきたいのだ。人間は運動を足に依存しすぎている。というわけで一昨日、逆立ちをしたら盛大にこけてヒザをすりむいた。血も出た。足が治るまで大人しくしていようと思う。思うだけ。

 そのままあてもなく散歩し、リサイクルショップで緑色の上着を買った。秋冬というには淡い色で、春服というには濁った、白神山地のコケみたいな色。買ったばかりのそれを羽織って、日の沈みかけた町を我が物顔で征く。うっかりケーキ屋に入ろうとしてしまい、慌てて引き返した。今日は特に何もしていないので甘い物は無し。すぐ近くの花屋を覗いた。小さなシクラメンとポインセチアの群れに、季節の移り変わりを感じる。クリスマスに向けて、夜は長くなる。

 私はそこでミニバラのコーナーを見つけた。一鉢580円。手頃な上に可愛らしい。特に理由は無いが祖母に買っていこうと、中腰になって吟味する。
 赤、黄色、白、ピンクと色とりどり。祖母のラッキーカラーは黄色なのだが、私は赤いミニバラに視線が釘付けだった。一番キレイに咲いているのはピンクだった。全体のシルエットがいいのは白。

 膨らんだツボミばかりの赤にした。ツボミだらけ、だから明日にはきっと花開く。可能性の購入。ちょっとこそばゆい。人にプレゼントを買って帰るのが好き。笑顔を想像できるのは幸せなことだ。

 薔薇の蕾というと、白黒のオーソン・ウェルズがフラッシュバックする。若い頃のウェルズはディカプリオに心なしか似ている。逆説的に、ディカプリオも歳をとったらウェルズ似になるのだろうか。名誉なことかどうかはよくわからない。くだらないことを考えていたせいで、ポイントカードを出しそびれた。

 ラッピングをお願いし忘れて、丸裸の鉢をそのまま受け取った。こういうのも面白い。赤い短パン、黒いブーツ、丈の長いコケ色のジャケット。抱えるのはツボミばかりの赤いミニバラの鉢。私は昔から大きなスイカとかお化けカボチャとかホールケーキの箱とか、そういうのを抱えて歩くのが好きだった。特別な物を抱いての移動時間は特別だから。
 これを早く祖母に渡したい。期待が膨らむ。いつか花開くことを夢みて。
 今にも駆け出したい。でもできない。だって骨折してるんだもん。


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