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連続小説「アディクション」(ノート44)

ギャンブル依存症から立ち上がる

この物語は、私の誇張された実体験を基に妄想的に作られたフィクションですので、登場する人物、団体等は全て架空のものでございます。


〈「失踪」〉

魚(うお)さんが、「失踪」しました。

私のクリニックの卒業までのカウントダウンが始まってきた2018年の3月ですが、私の卒業前に「失踪」しました。

スタッフの才所(さいしょ)さんが私にこっそり教えてくれた話によりますと、

ここ数日、クリニックを休んでいたので体調でも崩されているのかと思いきや、無断で来ていなかったようです。

そして、魚さんのお姉さんに様子を見に行ってもらうと、家はずっと留守、携帯も繋がらない状態のようなんですが、

金銭管理されている通帳やカードは、金融機関に行って勝手に再発行されていて、紛失したと警察にも勝手に届けを出していたようでした。

さらに、会社も正式に辞めて退職金もごっそり手中に収めたようです。

捜索願いを警察に出すかどうかは検討中のようなんですが、まぁ大金持って全国行脚しているうちは深刻な事態にはならないだろうということで「様子見」という感じでしょうか。

これについて激怒しているのは、正力(しょうりき)理事長であることは言うまでもなく、スタッフに物凄い剣幕で、

「勝手に再発行なんて思いつくだろう!何でそんなことも止められないんだ!」

「いや、理事長。止められませんよ」

「なんだと!才所!」

「そんなの無理に決まってるじゃないですか。そもそも金融機関に働きかけて再発行止めるなんて人権侵害も甚だしいこと、あからさまに出来ると思っているんですか?」

「やかましい!アディクショングループのメンバーに人権はない!」

「理事長、それは暴言ですよ。」

「うるさい!人権のないような連中だから、ここで治療させているんだ。」

「あの、たぶん、金融機関が絶対に応じないと思いますが。」

「やりもしないのにそう言うのか!」

「やったら、クリニックの恥を晒すことになると思いますが。」

「なんだと!おい、才所!いつからそんな偉くなったんだ!」

「私は、『あなたより偉い患者さん』の立場を代弁しているだけです。」

「なんだと!もういい!貴様はクビだ!」

「正式な通告てすか?そしたら30日分の給与すぐ払ってくださいね。」

「ああ、お前はクビだ!」

そんなやりとりがあって、私に愚痴がてら才所さんが話してくれたのですが、

「で、才所さん、辞めるんですか?」

「あれから、一応理事長が『済まなかった』と謝って『撤回』となりました」

「まぁ今、才所さんに辞められたら、アディクショングループが持ちませんよね。島野さんも来月から産休だし。」

「私は理事長は嫌いじゃないんですけど、ああゆう所があるんですよね。」

「にしても、理事長は魚さんに対してはかなり厳しく監視してますよね。何かあるんですか?『ギャンブル依存症』といっても他所から借金しているわけでもなく、かなり初期の患者な気もしますが」

「実は、ギャンブルだけではないんですよ。あの人『詐欺師』なんです。」

「え?」

「犯罪として捕まったことはないのですが、会社の人、特に新人さんを始めとする若手社員を騙してお金借りて返さないを繰り返していたんです。」

「それがずっとバレなかったのですか」

「会社の人事の方も以前から怪しく思っていたようで、調査をしたところ随分長くそういうことをやってたことが判ったようです。」

「仕事は普通にこなしていたのですか」

「ポンコツです」

「仕事はポンコツなのに、人は騙せるんですね。」

「ポンコツだからこそ、周囲は悪い人には見えずあと変な優越感から『ポンコツがやることだから仕方ないか』になってしまうのかも知れません。」

「でも、お金まで貸しますかね?」

「額が少ないんですよ。多くても1万くらいで、会社はソコソコ大きいから100人くらいからは借りてたようです。」

「それがパチスロ代?」

「あと風俗です。で、会社の人事部がまず本人を呼んで、これは被害届こそ出ていないが『詐欺罪』だから、社員からの苦情も出てるということでひとまず謹慎処分にしたんです。」

「ここにはどうやって繋がったんですか?」

「で、定期的に様子を見に来ているお姉さんが、本人に会社を休んでいる理由を聞いても答えないので、会社の人事部に尋ねたところそういう事実がわかったので、たまたまお姉さんのご主人と本部長が知り合いなので相談して、会社の人事とも話をして、本人がそういう問題行動を起こしたのは、ギャンブルと性行為に依存をしていると。」

「なるほど。それで私と同じ『退職前提の病気休職』って形にしたんですね。」

「会社としては、まあ、被害届も出てないし穏便にしたいこともあって退職届が出ればそれで御の字というスタンスになったんですよ。」

「会社とお姉さんとの間で、退職金のことについてやりとりをしなかったんですかね?」

「会社としては、身内の話までどこまで関われるかなんでしょうけど、退職金はあくまで本人がどう使おうが関知できないし、ましてや身内の人に都合の良いような配慮はまぁムリでしょうね。」

「確かにそりゃあそうですよね。理事長なら『退職金はお姉さんに差し押さえさせろ!』とか言うだろうけど」

「まぁそういうわけで、金銭管理という形の『差し押さえ』をしたのですが、紛失届と再発行されれば止められませんし、退職届出せば退職金も払わざるを得ませんからね。」

仕事はポンコツでも、人を騙す才能はあの嘘つきの淡河(おごう)さんをも凌駕しているなと、呆れるくらい感心していましたが、それでも行方不明とは心配で、特にあの人は、クリニックに縛り付けられているくらいが丁度いいと思ってる矢先に、、

その魚さんからラインが来ました。

〈「ライン」〉

なんとも能天気なラインでした。

「今から池袋で会えませんか?スタッフや他のメンバーにはナイショにしてください。」

まず早速スタッフに見せました。

そして、心配している他のメンバーにも見せました。

これで、魚さんが私のことを信用してもらえなくなっても、何のデメリットも無いし、下手に信用もされたくないので、まずは周りの皆さんに知らせました。

ていうか、こんな一方的な約束守るわけねーだろと、一瞬腹が立ちましたが、まぁそこが魚さんたる所以で。さらに、こんなクリニックやってる昼間に「今から会えますか」という問いかけもぶっ飛んでいるところであります。

取りあえず、ラインのやり取りを続け、魚さんとの池袋での待ちあわせ場所を決めました。で、「いけふくろう」にて早速会うということにして、私ではなく才所さんが「会いに」行って、めでたく「御用」となりました。

「よくも裏切りましたね」

「無事で良かったです。」

連れ戻されて、フロアに着くや否やこのような恨み節を浴びせられましたが、理事長に一喝されて、理事長室に連れて行かれました。

どうやら、基本的には池袋周辺のネットカフェに籠もり切っていて、そんな豪遊とか大それたようなことはしておらず、私と連絡取ったのも、池袋のどこか連れてって欲しかったからだそうです。

さて、理事長室で色々と尋問されたのですが、新しく作った通帳とキャッシュカードは差し出すのを拒否し、新調したスマホで録音しながら、強制的にやるならやってみろと抵抗したので、理事長が、

「もう、ここでは面倒見れん」

と、いうことでクリニックは急遽卒業というか「脱退」という言葉がこの人にはふさわしいと思います。

ていうか、「自由」になったところで、せいぜいネットカフェに引き籠もるくらいしかできないのなら、金銭管理してもらってこちらに通い続けたほうがいいんじゃないかとも思うのですが。

まぁそういうわけで、魚さんはクリニックに来なくなってしまいました。

が、ラインは来ますw

私だけではなく、他のメンバーにもラインをしているようです。

「取りあえずスルーですかね」

「そういうわけにもいかんでしょう。てか、ここにいるし」

玉井さんとの「お茶会」のタイミングは把握していて、この日も背後霊のように鼻息荒くしながら、我々の話を聞いているのでした。

今回はここまでとします。

GOOD LUCK 陽はまた昇る
くずぼしいってつ


















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