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読書#1「諦める力」著:為末大

どんな本?

自分の才能や能力、置かれた状況などを明らかにしてよく理解し、今、この瞬間ある自分の姿を悟る ~諦める力~

 諦めるというと「やめる」、「終わる」といったネガティブなイメージがある。しかし、この本では、諦めるという行為をポジティブに捉えようとしている。いや、そんなことできるわけないだろ、私は諦めるなと教わったぞ、と思った人もいるだろう。しかし、読んでみれば、すぐにその固定概念は崩れることとなる。

 諦めるとは、夢破れ、挫折し、絶望することではない。現状のやり方では夢を実現できないことを明らかにし、夢を実現するためのアプローチを変える決断をすることだ

 著者の為末さんはアスリート。常に勝った負けたの世界で生きてきた人だ。そんな彼が、自らの体験を踏まえて、勝つためにいったい何を諦めたのかについて語っている。それは、ただ単に練習以外のすべての楽しみを諦めたとかいうストイックな話ではない。彼は100m走から400m走へと競争の場所を変えた。それは100m走では勝てないことが明らかになったからだ。彼自身は苦しい決断だったと本の中で述べているが、それでも決断できたというところがトップアスリートたる所以だろうか。

 「諦める力」では、努力すれば夢は必ず叶う、とか、やめるには相応の理由がいる、とか、他人の期待に応えなければならない、などという固定概念について、必ずしもそうではないのだと別の考え方を提示してくれている。

誰向け?

 万人向け。アスリートの本なのでアスリート向けか、と言われればそうではない。アスリートのエピソードを踏まえつつ、一般化し、生き方にまで昇華している。がんばっているんだけどうまくいかないな、私には才能がないからがんばっても仕方ない、などと考えている人にはぜひおすすめ。

気づきは?

 この本から学べることはとても多い。正直、アスリートの書いた本にそこまで期待してなかった。それはアスリートの著作物というのは、基本俺スゲー話であるという先入観があったからだ。私はしばしばこの先入観ですばらしい出会いを逃す。この本もその一つだった。

 私は、この本を読んで初めに考えたことは、諦めることの有用性ではなく、なぜ自分は諦められないかである。言い換えると正しく諦めることの難しさだ。

 諦めるためには3つのことができていなければならない。目標をもつこと、今のアプローチで目標が達成できないと明らかにすること、今のアプローチをやめる決断をすること、の3つだ。これらができなければ正しく諦めることはできない。

 まず明確な目標がなければ、今のアプローチが目標に続いているのかわからない。目的地がなければ自分が迷っているのかどうかもわからない。次に今のアプローチで目標が達成できるかわからずにアプローチを次々と変えては、正解のアプローチも逃してしまう。最後に、今までの努力を無に帰すような無慈悲な判断を下せなければ、ずるずると先延ばしにしてしまう。

 為末さんは、しっかりと諦めるための条件を満たしている。勝つという目標を持ち、今のアプローチでうまくいくかどうかを確かめるため全力で練習に取り組み、そして最後にちゃんと決断している。

 もちろんこの本でも、何でもかんでもやめちゃえばいいんだぜい★とは言っていない。もう絶対に達成できないとわかったアプローチを盲目的に続けるのをやめるのはよくない? と言っている。ただ、もう絶対に達成できないとわかった、というところが難しいのは自明だ。そんなことがわかれば、とっととやめている。この本では、客観視することを一つの解法としている。この本では明確に述べていないが別の講義で為末さんは、自分自身で客観視することの難しさについて語っている。そこでアスリートはコーチにその役割を担ってもらう。では、私達はどうすべきかというと、やはり他の誰かに任せるのがいいという。人は万能ではない。できないことだらけである。だから、そのできないことを明らかにして諦め、できることをしようというのが彼の思想なのではないかと思う。

 まずは決断することを意識的にしよう。もっとも美しいのは、しっかりと目標を定めてから、目標達成のためのアプローチを考案し、その他について諦める決断をすることだが、それができるならもうやっている。一つ一つ、明らかに不要な行動を諦めていく。その過程で、これは諦めたくないものを選び出し、抽象化すれば、それが目標として掘り出されるに違いない。

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