見出し画像

【読書感想文】朝が来る/辻村深月


辻村作品と言えば、学生時代に友人にお勧めしてもらい『スロウハイツ』~『光の待つ場所』まで伏線回収をしながら読んだ。あれは私的に経験したことのない読書の仕方だったと懐かしく感じる。


さて、今回はそんな辻村さんの『朝が来る』を読了。この作品はずっと読んでみたいと思いつつ、メンタルが整ってないと沈み込みそうでなかなか手を出せなかった作品の一つである。映画化もされて、アマプラで配信されていたのに心の準備が間に合わず無料配信期間を逃してしまった…。

という、長らく私との距離が平行線だった作品である。

ところが、先日図書館に行ったとき何気なくこの本をすっと手に取り、2~3ページ読み進めると自然とそのまま貸出カウンターへ向かっていた。本は読みたいときに自然に歩み寄ってきてくれる。この感覚が久しぶり過ぎてなんとも嬉しい気持ちになった。


次の日すぐに読み始め、そしてすぐに読み終わった。

長い不妊治療の末に、一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦。そんなある日、テレビで偶然「特別養子縁組」という制度を知った2人は、やがて男の子を迎え入れる。そして夫婦は、その子を朝斗と名づけ、大切に育てていく。6年後、朝斗の生母・片倉ひかりを名乗る女から、子どもを返すか、そうでなければ金銭がほしいという連絡が入ってくる。 

https://bookmeter.com/books/13028916


血の繋がりは強く、確固たるものという意識があるが、それは時に残酷で綿で首を絞めつけられるようなものでもある。
子どもを産めなかった夫婦の清和と佐都子、子どもを手放さなければならない14歳のひかり。そしてそんな両者を繋いだ、朝斗。

血の繋がらない誰かに信頼する、またはされることの難しさ。反対に血の繋がる人からの不信感。信じるという目には見えない繋がりは人を強くも弱くもする。
言わないことが信じることに結び付く場合もあれば、言葉にすることで簡単に信頼がボロボロと壊れていく。そんな両者の思いと葛藤がとても丁寧に描かれていた。
家族とはなにか、血の繋がりって?と考えてみたが、100点満点の答えは永遠に出ない。しかし、ただ一つ言えることは、大事な芯を持っていれば人を信じる強さを心に宿せる。そうすれば人は繋がっていく。

家族との関係、人との関わり、夫婦のあり方など、私たちには日常的に切っても切れない関係が必ずしもある。その中で、誰しもが朝斗のような誰かにとっての光なのだ。そのことを忘れず一歩一歩進んでいきたい。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,831件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?