水の様な風景

この世の中には一度その風景を観ればそのままの風景を絵に描き表せる人間が居るそうです。

例えば、ぶらっと出掛けて電車から降りて初めて空を仰いだ時の太陽の輝きを観たとしましょう。

出掛けた場所がオフィス街だったり、俗に言う田舎町だったりそれは重要ではなくとも、その人が心で「ああ、あの太陽を初めて見上げた時の感情はこうだったからこう描こう」とその時観た物や、感じた物を忘れずにキャンバスに描けたらどんなに素晴らしい事だろうと私は思うのです。

適当に描こうと思っても構いませんが、私的には「電車や移動手段を使っている間に見た景色と、降りた時にゆっくりと見た時とでは景色の色と言うのは明らかにビジョンが違う。それも、水の様に硬くも優しくて、手で触れればちょっとの振動でも水面というのは震えます。それくらい人の目に映る景色というのは写真では表せないくらいデリケートに出来ている」のだと常日頃より感じています。

今この景色が水のように溶けていったり、誰からも見られなくなって忘れられてしまうのではないかと思うくらい瞳のメモリに保存しておきたいエリアがあります。

中にはまだ行った事がないけれども死ぬ前に必ず行くんだと計画している場所もあります。

水と同じようにチョロチョロと音を立てながら何処かへと流れていくように、私の記憶の中の景色や風景は時が経つにつれて忘れてしまうことがとても怖い。

自分が過去に行ったはず/観たはずなのにいつの間にかその記憶が何処かへと行ってしまうのかと思うと、やはり何度も訪れたい…その為には見る目を養わなければならないと私は自分に言い聞かせております。おわり