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佐藤峰雄さんにお話を伺いました。

佐藤峰雄

漢詩。篆刻家。

【質問リスト】

(佐藤峰雄さんにとって)
・佐藤峰雄とは何者ですか?
・漢詩とは何ですか?
・篆刻とは何ですか?
・仕事とは何ですか?
・愛とは何ですか?
・お金とは何ですか?
・成功とは何ですか?
・死とは何ですか?


漢詩に関心を持たれたきっかけは何でしょうか?

僕は福島県の会津出身なんですよ。江戸時代の会津藩にあった日新館という藩校では、儒学や漢詩、書を代々教えていました。だから、そういったものを僕は自然とやるようになったんです。役所に私が勤めだした時代というのは、古典に対する素養が皆あったわけです。大学の教師にしても仕事の仲間にしても漢文の素養があったんですね。今から50年ほど前は、漢詩を作る人は結構多かったですよ。多分、今の俳句人口ぐらいあったと思います。

椿先生に日本文化の基礎は漢詩であると意気投合して、それを大学で教えてほしいと言われて基礎美術コースの教員に入りました。初めは簡単に教えられるものだと思っていたから、教科書なんていらないと思っていたのだけど、現代の人には難しいみたいですね。学生の皆さんに手伝ってもらいながら教科書を作ったんですよ。かなり良い出来の良いものだと思います。

教室を始められた時はどのような気持ちだったんですか?


私なりに危機感があったんですよ。私にとって、漢詩は男子が代々受け継ぐものなんです。だからうちの娘二人には教えませんでした。

書道家は漢詩を書くにしても、言葉の意味を考えずに文字だけを書くんですよ。目的が展覧会に通ることが目的になってしまっているから、ほとんどの書道家は漢詩をやらないんです。昔は村の教養のある人が書いたから意味があったんですけど、今では審査員の好みに合わせて書くだけになっているような感じがしています。

会社の頃は僕もそこそこのところまで行ったんですよ。でも、50歳のときに経営危機になってリストラされました。僕のところに150人の部下がいるのに、本社に行ったら首を切ってもらわなあかんと言われる。彼は、元々僕が採用した人で、そんな人間から「あなた方はこの会社に貢献してくれた。最後の貢献として退職してくれ」と言われました。ほんとうに頭に来ましたよ。それで、会社を辞めました。退職金はたくさんもらえたから、漢詩を始めたのはそれを辞めてからです。

佐藤峰雄とは何者ですか?


何者かと言われても分からないかな、君が感じてくれ。でも、僕は自分の人生を第四コーナに分けて考えてます。第一コーナーは学生、第二コーナーは公務員&サラリーマン、第三コーナーは書家、第四コーナーは今現在です。皆戦術はあるけれど、戦略がないように感じます。書道をしている人で言えば、今日この作品を書き上げようとしか考えていない。

僕の父親の口癖で「外様の気持ちでやれ」とよく言われました。いつでも幕府に対抗できる、自分がいる会社を抜けてもすぐに動けるように心構えをしておくべきということです。会社を辞めるときに「大学の講師は決まっているので」と言ったら皆驚いたな。


人生の第四コーナーはどういったものですか?


第四は文人生活です。書や篆刻をしながら、教える生徒は5、6人の世界。やる気がない人は今も辞めていただいていて、やる気のある人だけ来ていただいています。入会を断っている人が大勢いる中でも無料の人もいて、それは僕の好きな基礎美術コースの生徒さんたちですね。

佐藤先生にとって漢詩とは


自己表現かな。面と向かって言えない気恥ずかしいことが漢詩だと言うことができる。人形使いが自分は喋らずに人形に喋らせているような感じですね。ウクライナ侵攻のことについて漢詩で書いて、ある本に出しているのですが、普通の文章だったら聞いてくれないと思います。漢詩だからみんな聞いてくれています。

篆刻とはどういうものですか。


文人の余儀です。遊びのようなものですね。文人にとっての基本的素養が漢詩であって、字を書くことに関しては当たり前なことです。上手いか下手かは関係がない、字は誰でも書けるものです。篆刻は文人が出来たらいいなというようなものです。

仕事とは何ですか。


こんなことを言うのもどうかと思いますが、大学に行って授業をすることは、僕は仕事だと思っていないんですね。仕事は大変なことですが、大学は楽しいからです。まず君たち学生がいて、若い人がいる。教師という仕事はいいなと思いました。

私は雑用がないことも大きいですよ。私の場合はすでに物が用意されてあるところに行って、好きなことだけ喋っていればいいだけですから。

年金もあるし退職金もあって、サラリーマン時代は年間所得3000万円ぐらい稼いでいた時期もあったから、君たちのような若い世代は僕たちにたかったらいいと思います。そして、たかられた方は出さなあかん。我々の親の世代が一生懸命貯めたお金をバブルで使い果たして、君らに借金回すひどい世代だと思うんです。本当にそう思います。

佐藤先生にとって若い人はどういう存在ですか?


僕はね、まず30代の人は気の毒やと思っています。僕らの世代が何も考えずに好きなことをして、あまりにも酷いことをしすぎたからです。私たちの年代は、もっと若い人に還元しやなあかん。そうでないと申し訳なく感じます。

今の人はしっかりしていると思うな。将来のためにまず貯金を考える子どもたちが、僕たちの買い物を見たらびっくりすると思います。何も考えずに色々なものをカゴに入れていく。だから、君らはしっかりしてるわ。将来も見てるし、本当やで。

愛とは何ですか?


漢詩には愛とか恋という言葉はなかなか出てこないんです。愛という言葉を使った漢詩がないのは、男の友情の文化だからです。日本人は特に漢詩を男の文化として捉えていますね。仁という言葉は人間愛というものに近いかもしれませんね。

お金とは何ですか?


多くはいらないものです。「焚くほどは風がもてくる落ち葉かな」という言葉を知っていますか?要は生活できるだけのお金があれば良いということです。必要以上のものは邪魔になってしまうから。

成功とは何ですか?


楽しいことができたとき、ただそれだけです。サラリーマン時代はプロジェクトを成功させるとか、戦術的な目標をクリアできたことが成功だったんですけどね。君たちの世代に「成功とは何ですか?」と聞いて返ってくる言葉よりも、僕ら世代は達観したような答えになると思うよ。今更僕に何ができるんだろう?他人から見てどうかは分からないけど、十分に自分なりにやり切ったとは思います。学生時代も過ごしたし、サラリーマンも大学の教員もやったから、すでに人生を三回経験したと思っていますね。今は第四コーナーを転ばずに行くことが僕にとって大事です。幸福も成功と同じだと思うな。


死とは何ですか?


僕たちの年齢になると、もう実際に友達が亡くなったりしているんですね。日々の生活の中で身近な友人が死ぬことが多いんです。死というのは、君たちが思っているほど漠然としたものではないよ。自分の身の回りの整理を始めていて、他人に見られたくないものを捨てておくとかしています。

そう言えば、見られたくないものでいえば日記がありますよね。父親が日記を書くときはいつも漢文でした。何で漢文で書くのかを聞いたら「妻が読めないから」だと言われました。置きっぱなしにしていても読まれないから、僕もそれを真似している。

君たちの場合は時間が無限にあるように思うけど、やっぱり残りの生きている時間を考えるようになると時間がもったいなく感じるようになりますよ。なぜ僕が漢詩を教える人を制限しているかというと、自分が一緒にいたい人と残りの人生を付き合いたいからです。時間を無駄にせずに精一杯生きていくことが大切ですよ。

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