見出し画像

人間には思考のクセがある

皆さんこんにちは。この記事では、人間の認知のバイアスについて扱います。英語版wikipedia「Cognitive Bias」を翻訳した内容や、書籍、論文などを参考に、まとめていきたいと思います。今回の記事では、認知バイアスでも特に、「対応バイアス」「代表性ヒューリスティック」「プロスペクト理論」など、少し学術的に言うと、社会的認知に関するバイアスについてです。また、認知バイアスという人間の「思考のクセ」について認めた上で、判断と意思決定のバイアスを軽減する「ナッジ」についても説明したいと思います。それでははじめていきましょう。

1.対応バイアス

社会に生きている上で、相手が何を考え、行動しているのか、推測することはよくあります。その推論はある個人に対してだけではなく、社会活動全てに対していうことができます。しかし、人間のそのような認知的活動は、意識的に行っているのではなく、ある種、自動的に行われています。その認知的な推論の特徴について少しばかり考えてみます。

人間の行動が行為者本人の側の内的な要因によって生じたものか、あるいは行為者を取り巻く周囲の状況の外的要因によって生じたものかを判断すること、つまり内的帰属(internal attribution)ー外的帰属(external attribution)という区別が基本的な軸として重要視されてきています(外山, 1998)。この考え方の始まりは、1950年代のHeiderによる、実社会をどのように理解しているかを知ることができる、常識心理学が元になっています。この学問領域では、「その人はなぜそのようにふるまうのか」という行動の要因を追求していました。

先に述べた、内的帰属、外的帰属を、それぞれ内的要因、外的要因として表にまとめると以下のようになります。

画像5

おっと、そもそも帰属という言葉は聞き慣れない言葉かもしれませんね。帰属とは、結果が起こった要因や、他者の性格などの特性をどのように推論しているかということと強く関係しています。

話を戻すと、人間の態度(どうしてその行動をしたのか)に関して、内的要因であるのか、外的要因であるのか、という判断が歪んでしまうということがあります。

その認知の歪みのことを対応バイアスといいます。

外山(1998)では、この基本的な帰属のエラーには2種類の側面があるとされています。

1. 人間の行動の原因に関する一般的な信念が、内的要因を重視するという方向にかたよる傾向
2. 行動から態度や性格などの内的特性・傾性を推論する際に生じるエラー

この2つです。

例えば、「本当は相手が悲しんでいるのは、その人が弱いからだと判断してしまう(実際は、社会構造的な問題で弱い立場にあった)」ということや「」というようなことです。

つまり、人間の認知の傾向と、実際の行動要因には、ズレがあるということがわかります。

ではなぜ、そのようなズレが起こるのでしょうか、対応バイアスが起こるメカニズムについて考えていきましょう。

Gillbert &Malone(1995)は、対応バイアスは大きく4つのメカニズムに分けられるとされています。


1. 気づきの欠如

2. 行動に対する非現実な期待

3. 行動に対する拡張させた分類

4. 不完全な修正

1つ1つ見ていきましょう。

1. 気づきの欠如
これは、状況が行為者の行動に因果関係の役割を果たしていることに気づくことが困難であるということです。ある行為を見たときに、自動的にその行為者の性格などがその行為を引き起こしていると推論してしまうようなことを指します。状況がその行為を引き出している!とはなかなか想定されないということです。


2. 行動に対する非現実な期待
行為者の性質を自動的に推論し、その行為をしていると解釈することです。例えば、リベラルな人は、どんな状況でもリベラルな発言・振る舞いをするだろうという推論をすることを指します。多くの人の前で演説をしている時、その場にいる群衆の人たちに迎合しようとしているのか、ただ自分の意見を通そうとしている可能性もあります。

①、②どちらも、行為の要因を状況(外的要因)よりも、気質的な要因、つまり本人の信念や性質(ない的要因)に求めてしまう傾向を指していますね。しかし、状況要因を意識することは対応バイアスを軽減することにはつながらない可能性があるとされているのです。その点が難しいところですね。

3. 行動に対する拡張させた分類
自分自身がうまく状況について理解できていない場合、不適切な性格推論をする傾向があるということです。これまでと逆の推論でそもそも、状況に対する推論が適切に行われないことで、対応バイアスを引き起こすこともあるのですね。

4. 不十分な修正
これまでに述べた行為の推論を、修正することが難しく、バイアスがバイアスのまま保持される傾向にあることを指します。

つまり、行動の要因を行為者の内的要因を自動的に推論してしまうだけではなく、状況に対しても自動的な推論がなされている可能性があるということ、そしてその修正は困難であるということなのです。

2.代表性ヒューリスティック

そもそも、認知バイアスの概念は、Amos TverskyとDaniel Kahneman(以下、カーネマンとトヴェルスキー)によって、1972年に紹介され、人々の簡単な算数の誤りの経験や、直感的に推論ができないことから生まれました。(Wikipediaより) そして、2人は、人間の判断と意思決定における違いをheuristics(ヒューリスティック)という用語で、説明しました。その中でも特に、代表性ヒューリスティックは以下のように定義されます。(wikipedia 「Cognitive bias」)

代表性ヒューリスティックとは、「典型的な場合と類似性がある出来事」の程度によって、その出来事の「可能性や頻度で判断する傾向」と定義されます。

彼らが実験で用いた有名な問題が、以下に示すリンダ問題です。(鈴木2020参考)

リンダは独身で31歳の素直で聡明な女性である。彼女は大学で哲学を専攻し、社会主義の問題に関心を持っており、学生時代は反核デモにも参加したことがある。

リンダさんは、(a)(b)どちらである可能性が高いですか?という問題です。あまり時間をかけずにこの問題について考えてみましょう。

画像3


多くの人は、(b)を選びます。こうした思考のエラーのことをカーネマンとトヴェルスキーは、「連言錯誤」と名付けました。鈴木(2020)でも説明されているように、「連言」とは論理学用語で、「AかつB」というものです。

画像2

上記の図を用いて考えてみるとわかりやすいでしょうか。aが「リンダは銀行員である」bが「銀行員であり、フェミニスト活動家」であると置き換えて考えることができますね。これを踏まえて、aとbのどちらの可能性が高いかは、容易にわかるのではないかと思います。

有名な実験を元に「代表性ヒューリスティック」とは何かについて説明してきました。改めて、代表性ヒューリスティックのwikipedia英語版を翻訳したものを確認してみます。

代表性ヒューリスティックとは、「典型的な場合と類似性がある出来事」の程度によって、その出来事の「可能性や頻度で判断する傾向」と定義されます。

やっぱりまだ少しピンときませんね。私はピンときません。もう少しわかりやすく理解するために、鈴木(2020)でまとめられたものを図解してみました。私はこの図解をしてみて、人間は正確さよりも、どれほど(もしくはどちらの方が)説明しやすいか、で判断するということを実感しました。


スクリーンショット 2021-01-07 10.43.23

このモデルに当てはめて、リンダ問題を考えてみるとさらに、この代表性ヒューリスティックという人間の思考のクセが持つ問題点に気づくことができるかもしれませんね。ぜひ、リンダ問題を解く際の直感的プロセスについて、モデルに当てはめて考えてみましょう。

3.プロスペクト理論

些細なことから、人生において重大な決定まで、私たちは、様々な場面で意思決定をします。しかし、その意思決定は必ずしも合理的な判断であるとは限りません。ここにも認知バイアスの理論が存在します。それはカーネマンとトヴェルスキー(1979)によって提案された「プロスペクト理論」です。少し、この理論について説明していきましょう。大きく、3つの点で説明ができます。

第1に、人は損得で判断するのではなく、参照ポイントとの比較に基づいて判断するということです。参照ポイントとは、以下の価値関数のグラフの縦軸と横軸の交点で表されている部分を指します。

画像4

第2に、人は同じ程度の満足度でも、「得られる価値」よりも「失うことの価値」の方が大きく感じるということです。第3には、利益よりも損失の方が急であるということです。これは、得られる価値は、得られるものが増えていっても価値の伸び幅は下がっていくということです。逆も然り、失うことの価値も失うものが増えていくと、追加的に減少する伸び幅は狭くなっていくということです。

このように、人間の判断・意思決定は決して合理的であるとは限らず、統計学的であるどころか、桁違いな誤りをしている場合もあります。

しかし一方で、人間の思考のクセや行動の傾向を理解し、適切な行動を促すこともできます。それがナッジ理論です。ナッジとは、「ひじでつつく」こと、つまり「ついつい〇〇してしまうように促すこと」です。

健康問題や環境問題などの公共の課題についても適応されるやり方です。例えば、京都府宇賀市の市役所内で消毒液の使用者を増やすための工夫が行われました事例についてです。この写真のように、入り口から、消毒液に向かって床に黄色の矢印が引かれました。すると、この消毒液の利用者が10%も伸びたのです。

画像6

この場合は「ついつい消毒してしまう」行動を促すナッジの工夫、ということになりますね。

このように、人間の思考の"くせ"は少しずつ解明され、受け入れられ、その上で行動を変容させるための工夫がなされてきています。思考の"くせ"は、人間にとって情報処理のために必要な仕組みであり、いいようにも悪いようにも働いてしまうということです。その点については忘れないでくださいね。

それでは!


参考文献

Gilbert, D. T., & Malone, P. S. (1995). The correspondence bias. Psychological Bulletin, 117(1), 21–38.

鈴木宏昭(2020). 認知バイアス : 心に潜むふしぎな働き  講談社.

外山みどり(1998).「基本的な帰属のエラー(Fundamental Attribution Error)」をめぐって,大阪大学人間科学部紀要,24,231-248.

新型コロナ より響く"呼びかけ"とは?NHKビジネス特集https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200422/k10012400211000.html(参照日 2021年1月13日)


Wikipedia「Cognitive bias」 https://en.wikipedia.org/wiki/Cognitive_bias




この記事が参加している募集

あなたのサポートが励みになります🎁書籍の購入などにあてさせていただきます。