ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品 映画『メッセージ（Arrival）』人類の次なる進化の可能性（※ネタバレありなのでご注意ください）

巷でDune2の話題が盛り上がる中、自分がヴィルヌーブ作品好きであることを、改めて痛感したので、特に印象に残っている映画『メッセージ』の感想をまとめてみることにしました。

言語学者と物理学者

まずこの作品で面白いと感じたのは、異星人とのコミュニケーションの場に送られたのが、言語学者と物理学者の2人というプロットです。
彼らの前に、すでに様々な人材が送り込まれ、そこでの試行錯誤の結果、導き出された選択なのかもしれませんが、ここでは言語学と物理学、それぞれの考え方の違いと、学者同士の対立から異星人の探究がスタートします。

そして先に根を上げるのは物理学者の方でした。異星人の科学力は人類を遥かに上回っているため、地球上の物理の論理でそれを説明するのは不可能だったのです。
それでも言語学者である主人公のルイーズは諦めません。そんな彼女の精神的な強さが、物語を牽引していきます。物理学者のイアンは彼女のサポート役に回るようになります。

そうして専門の違う二人でありながら、ルイーズの一番の理解者はイアンとなり、二人が噛み合う事で解読が前進していく過程は、この作品の面白い要素の一つです。

言語学の第一人者

異星人に会う前段階で、そこへ向かう言語学者を選定中であることを知ったルイーズは、もう一人の候補者に対してサンスクリット語に関する質問をするよう米軍に伝えます。
そんなやり取りや、教壇での授業内容から、ルイーズがなぜ言語学の第一人者なのかが、分かってきます。彼女はただ表層的に言語を知るのでは無く、それを生み出した民族の思考や文化を読み解き、理解を深めていく専門家なのです。

彼女のその研究スタイルが、異星人とのコミュニケーションを成功させる鍵となります。

12の場所に船が飛来し、同時進行で解読が進められていく

地球上の12の場所に船が飛来して、それぞれの国で異星人の言語の解読が進められていきます。そんな中、ルイーズは唯一、完全な解読に成功。

その時、他国もあと一歩というところまで迫っていたのではないかと思われます。だからこそ、ルイーズからの短い電話で中国の上将は何かを感じ取り、攻撃体制を解除したのでしょう。そして他国もそれに準じます。

何より、異星人の科学力が人類を遥かに上回っている事は火を見るよりも明らかでしたから、戦争を仕掛けたところで勝てるわけがありません。平和的な会話にしか、人類が生き残れる道はありませんでした。一年半後の式典で上将は、ルイーズが世界を救ったと話します。

過去、現在、未来を同時に視ることができる能力

ルイーズが異星人と接しながら彼らに感化され、その能力まで得ることができたのは、単に言語を解読したからだけではありません。彼女が過去に様々な言語を深く研究してきた中で、研ぎ澄ましてきた感覚があったからと考えられます。

おそらく彼女が異星人の言語についての本を出版しても、彼女と同じ能力を全ての人が得られるということにはならないでしょう。

しかし、異星人によってもたらされたその思考は徐々に人類の文明に溶け込み、進化を促すことになるのは間違いありません。

未来の知覚には苦しみが伴う

ここで得られる能力は、自分の肉体が一生のうちに知覚することになる経験・ビジョンを、俯瞰的に認識するというものです。
そしてルイーズの未来には、娘が難病で幼いうちに命を落とすという、深い苦しみが刻まれていて、彼女はそのビジョンに悩まされることになります。

しかしここでの未来予知の法則は、自身の認知の範囲内であり、それによって変えられる現実には限りがあります。

夫となるイアンは、自分たちの娘の運命を知って、そこから逃れられないことに絶望し、異星人からもたらされた未来知覚能力に背を向けると同時に、ルイーズから離れていったと思われます。それを知りながら娘を産む事にした彼女を、許せなかったのかもしれません。

ルイーズは苦しい未来を受け入れる強さを持っていて、しかしイアンにはそれが無理でした。ここで、二人は再び対立し、映画の冒頭の状態に戻ります。

人類の進化の可能性

二人の対立は、人類全てに降りかかる問題でもあります。未来が視れるとして、あなたは本当に自分の未来を知りたいでしょうか？

それはとても難しい選択に思えます。しかし異星人がその能力を受け入れていたように、人類も3000年後にはその能力を受け入れて生きていくようになるのかもしれません。

そして、そうなることで、戦争など起こすことのない、高次元の生命に進化することになるのかもしれません。

人類よりも遥かに進んだ文明を持つ異星人の『Arrival』と、彼らが届けた『メッセージ』。それらはとても興味深く、考えさせられる内容でした。