読書感想文 「反出生主義をめぐる物語」

「親ガチャ」という言葉をきいて、子供を持つ親としておぞましさを感じた。こんな言葉が我が子から発せられたらと思うと、なんと悲しいことか。

しばらく考えた結果、この言葉は社会状況とそんなことを言わせしめた親に問題の本質があるのではないか、と思い至った。

親ガチャに外れたという子の心境は、「こんな親元に産まれなければ(自分はもっと幸福だったのに。または不幸でなかったのに。)」ということだろう。

社会状況に関してはなんとなく調べがつくので、親と子の特異な関係、つまり出生にまつわる考え方を整理しておく必要があると感じた。

そこで、最近知識として仕入れた「反出生主義」について理解を深めようと思い、その主義の方が紹介していたこの本を手に取ったのだ。


「ただしい人類滅亡計画
 反出生主義をめぐる物語」著者:品田 遊

簡単なあらすじだけ紹介する。

人類を滅亡させるために生じた魔王が、滅亡させるべきか否かを10人の主義の異なる人間を集めて議論させる。そこで出た結論に納得がいけば、その通りにする。という設定で、全編ほぼ会話で構成された物語。

10人の異なる主義を持つ人は色の名前で呼び合いそれぞれが自分の信条に基づいたブレない主張をするため、展開されていく議論の内容は抽象的であっても理解しやすい構成になっている。議論のメインはタイトル通り、反出生主義に関してとなる。

感じたこと

反出生主義というのは、簡単に表現できるものではないということが、よく理解できた。この場で概要を紹介することは私の言葉では到底できないほど、繊細なものだ。

この主義を正確に理解するには、子を産んではいけないという考えに至るまでの過程を、一つずつ順を追って理解していかなくてはいけないのだ。中途半端にしか調べないと

こういう感想になる。

勉強不足の人間が考えた反論の一つの形として価値があるので、そのまま残している。そして、ここで私が挙げている反論的なものは全てこの本で論破されていたり、道徳的に悪と言い放たれていたりするのだ。


この主義と接する第一歩は、子を産むこと(あるいは種の保存という本能)が絶対的な美徳であり、当然認められるという価値観が、議論の余地なく存在していることを疑うことから始めなくてはいけない。おそらくこの時点で脱落者が多く出るとは思うが、ここに少しでも共感できれば、一読の価値がある。

また、10人の登場人物の○○主義者たちと自分の考えを比較しながら読み進めた結果、私の中には6人の主義者(に近い考え方)が内在していることが分かった。自分としてはせいぜい2人だと思っていたので、命やら道徳やらに関しての自分の価値観を見つめ直すにも良い教材と感じた。

議論の展開とそれぞれの主義での考え方や「正しさ」の違いによる葛藤が表現されているので、反出生主義というものにこだわらずとも、読み物として純粋に面白かった。

読後 処理に悩む

さて、この本の主題の反出生主義について私は最終的にどういう評価を与えるか。実は、まだ答えが出ていない。

この理由として、この主義を唱え続けても自分自身は幸福に近づくことは一切なく、宗教に見受けられるような救済もなく、空しさが募るだけだという観念が拭えないからだ。

私は、こういった○○主義などの属性を自身に付与する行為は、後の人生においての「だから、どうするか」を決めていく上で価値があって、その属性自体にはそれ以上の意味を求めない。

しかし、この反出生主義はというと、その「どうするか」の部分が、子供を産まないという事と、この主義に同意する人を見つけていく事くらいしかなく、突き詰めれば突き詰めるほど、どうにもならない世の中に対しての悲しみと苦しみが増す気がしてならない。

苦しみを生じさせないように新しい命を創らず、今生きている命は大事にしようという、この主義における重要な価値観と、主義そのものを信奉し続ける故の苦しみとが矛盾してしまうような感覚になるからなのかもしれない。

そんな想いでいる私は、きっと何も変わらないし、変われない(これは信念によるものだ)。だが、この思想を知ることにより気持ちが楽になる人もいるだろう事は想像できる。そういった人たちに出会った時に、正しくこの思想を伝える役割を果たそうと思う。


最後に、既に子のいる人がこの主義に触れることはあまり多くないと思うので、子を持つ親視点の1つの回答を述べて締めようと思う。

私が子を授かる前にこの思想に触れていたとしても、子を産む選択をしただろう。
たとえそれがエゴでも悪でも。

* * *

今回は感想文のみにした。「親ガチャ」の考察はまた別の機会にしようと思う。


追記

親ガチャの考察記事です。この本を読んだから気づけたこともあり、直接的ではないですが記事に反映しています。新しい価値観に触れるのは、やはり素晴らしいことだと感じました。2021/9/28

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