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先達からの智恵を伝える責任―永六輔『明治からの伝言』―

読書会まであと1週間足らず。この間も本は色々と読んでいるが、「おすすめ」というものは、今一つ見当たらない。永さんシリーズになるのも何だし、経営学の本を紹介するのもねぇ、となると、小説の類?いずれにしてもいい感じの本を見つけられていない。奥の手は例の“チーズ”か。という調子で、当日までグダグダあれこれ迷うのだろう、そんな状況である。

今回はまたしても永六輔シリーズから1冊。『明治からの伝言』だ。仕事帰りの寄り道の最中に見つけた本だ。パラパラっとめくり、すぐに購入を決めた。

この人の本、わかりやすさと学びを上手に両立させている。しかも、冗談をはさみながら話が展開するので、非常におもしろく読めるのも魅力の1つだ。

永六輔が出会ってきた明治生まれの人たちとの交流から、聞いたこと、考えたことをまとめている。そこに書かれている内容の中には、今の時代でも大切にしなければならないであろうメッセージがふんだんに盛り込まれている。

例えば、20世紀を代表する日本人画家の1人であり、そして、永六輔にとっての恩師でもある、西村計雄の以下の発言が載っている。

P.130 
「人間ねェ、大きくなってもいいけど偉くなっちゃいけないよ。自分を大切にしなさい。誰も大切にしちゃくれないよ。絵だってそうだよ。自分が大切にしないで、誰が大切にしてくれるのか」

後半部も当然に大事だが、ここでは前半部に目をつけたい。「大きくなってもいいが、偉くなるな」。ビジネスや政治、その他組織での出世競争となると、どうしても結果を出し、「偉くなる」のが優先されてしまう部分が出る。人によっては、それが露骨に出る。また、それを意識しなくても、いい結果を出し続けていると、どうしても勝手に人からの尊敬を集めてしまう。それが結果的に自らの態度の「偉さ」につながってしまう、なんてこともある。人間はあくまでも人間。優劣という概念でとらえるものではないのだと、改めて考えるきっかけになる一言である。

最後に、永六輔がこの本をまとめた経緯から。

P.7-8
 死ぬのはいやでも死ぬんだから、せめて老後を上手に生きたい。
 僕も四十二の厄年になって、その老人の智恵を身につけておこうと思うようになり、沢山の老人と逢って歩いたメモがこうして一冊になった。
 これは、そのまま、明治という時代からの僕たち昭和生れへの伝言として受けとめたい。
 そして、いつの日か僕たちも、子供や、孫に対しての伝言を用意しなければならない。

人生経験を積んだ先達からの伝言を受けとめ、自らの糧とする。そして、そこに自らの経験を上乗せして後世に伝えていく。それが社会や文化として、私たちの生活に溶け込んでいる。

何でもかんでも受け取ったバトン(伝言)を繋がなければならないわけではない。中には、繋ぐべきでないバトンも存在する。今を生きる私たちも様々なバトンを受け取り、それを次の世代へ伝えていくときに、より良い社会になるよう、そして、メッセージを伝える相手がより幸せな人生を送れるよう、心を込めた伝言を少しずつ用意していかなければならないのだろう。いつか、その時が来た時のために。

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