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バスケ界の開拓者からスポーツ界の先駆者へ。折茂武彦の決意と挑戦:『スポーツの価値再考』#004【後編】

2020年、『スラムダンク勝利学』の著者・辻秀一とラクロス協会理事・安西渉が、各界のゲストとともにスポーツと社会の関係を掘り下げていく全10回の対談。スポーツは本当に不要不急か――この問いから、「スポーツの価値再考」プロジェクトは始まりました。

第4回の対談相手は、今年5月に現役を引退した男子バスケットボール界のレジェンド折茂武彦さん。後編では、バスケットボール界の枠を超え、日本におけるスポーツの未来まで議論が広がりました。スポーツが与える感動について考え続けた折茂流「スポーツの価値」とは。

Bリーグ拡大。その中でも貫き続ける「地域密着」の決意

辻:日本の男子バスケットはここ数年で大きな変化を迎えていると思いますが、そうした中で考えることはありますか?

折茂:まずは、Bリーグ設立からの3、4年で選手の意識が変わってきたのを強く感じています。15年前の自分のような「バスケットで結果を残せさえすればいい」という考え方が減って、常にファンから見られていて、子どもたちの憧れになっているという意識が生まれてきました。

辻:スポーツ選手として成熟して、プロ意識が出てきたんですね。それこそ、折茂さんが北海道に移籍した時の変化をバスケ界全体が体感してきた、ということのように感じます。

折茂:選手の変化にあわせてクラブの側も、「人を集めなければいけない」と考えるようになりました。SNSで発信を行ったり、様々なブランディングをしたり、すごく良い方向に進んでいるなと思います。
一方で、もう一つの流れもあるんですね。リーグが始まって5年目ですが、今後は大きな企業が各チームへ投資をするのが主流になってくると思います。クラブやリーグ全体の市場規模が大きくなるのは非常に良いことです。ただ、僕はその流れに逆らっていきたいと考えているんですね。多くのチームが大企業と関わり始めますが、北海道はそうではなく、地域密着を貫く。他のチームとは違う歴史を持っていますから、北海道の人たちに支えられてきたというのを大切にする。これは心に決めています。

安西:とことん地域密着で進んでいくという決意はかっこいいですね。レバンガ北海道のホームページにも本当にたくさんのスポンサーロゴが載っていて驚きました。

折茂:発足時には3社だけだったのが、現在は約250社のスポンサーがついてくださっています。支援の形や規模はそれぞれですが、みなさんレバンガ北海道の理念に共感し、支援してくださるという点で対等に考えています。

辻:すごく良いですね。行政との連携という話も聞いたことがありますが、対等に捉えるというのは行政の場合も同じですか?

折茂:そうですね。北海道知事や札幌市に協力してもらい、小学校の体育の授業や給食をともにするといったイベントは多くやっています。いろいろな種類の支援をいただくときに、戦略のようなテクニカルな部分での違いはありますが、基本的には同じで、自分たちの思いを伝えるだけだと考えています。

辻:なるほど。本当に思いの力で輪が広がっているんですね。

コミュニティの力を借り、「地域で育てる」新しい挑戦

辻:日本バスケ界の変化という中で、NBAで活躍する日本人選手は出てきましたが、まだまだ全体の競技レベルは世界に後れを取っていると言われています。そこについてはどのように考えていますか?

折茂:世界に追いつくためには育成を重点的にやっていく必要があって、制度を変えなければいけない部分もありますよね。Bリーグや日本代表でも、試合の勝利のために帰化選手や外国人選手の力に頼ってしまうことが多いです。コートにいるうちの半分が外国人選手、というのは他の競技ではあまり見ないですよね。サッカーも昔はそれに近い傾向がありましたが、今は変わりました。10年後20年後に強くなるために、今どのような制度にするのが良いかは改めて考えたいです。

安西:プロチームとして勝敗がすべてではないという話がありましたが、これも同じですね。また、クラブとしては「次世代を育てる」ということも重要になりそうですが、レバンガ北海道の育成や強化には何か特徴があるんですか?

折茂:チームとして来年4月、18歳以下のユースチームを新設します。今までの北海道では、有望な選手が中高でみんな外へ出て行っていたんですね。これは指導者や設備の環境が整っていないためで、ある意味自然なことでした。そこでこのユースチームでは「地域で育てる」ということを重要視していて、北海道の大学付属高校と包括連携を結び、そこで教育と合わせた選手強化を行っていく予定です。高校の受験とトライアウトを通過した選手たちに、3年間一貫した指導を行います。

安西:新しい育成の形ですね。どんなメリットがあるんですか?

折茂:高校には既に寮や体育館などの設備があり、それらをクラブが一から用意する必要が無いんです。そのためのお金を他のことに使えるので、整った環境で3年間、教育と強化をすることができます。卒業後の選択は本人次第ですが、そこからレバンガのトップチームが強くなるのが理想です。Bリーグで唯一北海道だけがやっている取り組みですね。

安西:地域に密着したチームだからこそできる挑戦ですね。僕自身も包括連携という形にはすごく関心をもっていて、実はまさにラクロス協会でやろうとしていることなんです。全ての取り組みを協会だけでやるのではなく、コミュニティを巻き込んでその強さを借りる。できないことはできる人に助けてもらい、そうすることでさらにコミュニティとして強くなる、という循環を目指しています。

辻:これからの時代の組織のあり方のような気がしますね。一つの主体が多くのことをやるのではなく、ビジョンや理念に共感した複数の人や組織が協力する。どこか一つに依存していないから、一気に崩れる心配も少ないです。時代を先取りしていきますね。

折茂:そうして巻き込んでいった人がファンになって応援してくれる、というのも嬉しいですね。行政も含めて、多くの方から支援や協力をいただいていて、いろいろな方が試合会場に足を運んでくれるようになりました。

安西:次世代の育成のような、未来への投資という部分で共感してくれる人は最も強力なファンですね。

スポーツは「無くてもいいけれど、無くてはならないもの」

安西:最後に、折茂さんは「スポーツの価値」というものをどのように考えますか?

折茂:コロナ禍に入り、スポーツが世の中から消えたというのは僕自身も初めての経験でした。そこで感じたのが、これまであって当たり前だったスポーツがなくなると、こんなにも世界がおもしろくなくなる、暗くなるんだなということです。だから、スポーツは「無くてもいいけれど、無くてはならないもの」だと思います。

辻:「無くてもいいけれど、無くてはならないもの」。本当にその通りですね。

折茂:筋書きの無いドラマに没頭するということが、人が集まり続ける理由だと思います。映画とは違って一度見ても終わらない。そこが他と違うのかなと。

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辻:同じ試合は一つとして無いし、先の展開も読めないのがスポーツですもんね。そこからくるワクワクや期待感が、心の豊かさにつながっている気がします。

折茂:僕はバスケ界だけが盛り上がればいいとは思っていないです。日本のスポーツ界全体が盛んになるということを考えると、アメリカのように「スポーツを見る文化」が広まるのが重要だと思います。そのためにスポーツ界としてどう進んでいくかということを含めて、競技の枠を超えて協力していけたらいいですね。

安西:レバンガ北海道のように、スポーツの与える感動について考え、その魅力を最大化できるチームが増えると、新しいスポーツ界の未来が見えてきそうです。今日はありがとうございました。

▼第4回対談の前編はこちらよりご覧ください。

▼プロジェクトについて語ったイントロダクションはこちら。

プロフィール

折茂武彦(おりも たけひこ)
1970年埼玉県生まれ。大学卒業後トヨタ自動車で15年間にわたりプレーし、男子日本代表でも数々の国際大会で活躍した。2007年、レラカムイ北海道の創設時に北海道へ移籍。2011年にはチーム運営会社の撤退を受け、自ら新チーム・レバンガ北海道を設立し、国内プロ競技では前例の少ない選手兼代表に就任した。2020年5月に現役を引退、以降は代表取締役社長としてチーム経営に専念する。日本出身選手初の国内トップリーグ通算10,000得点、Bリーグ・オールスターゲーム最年長MVPなど数々の記録をもつ。
・Instagram:@takehiko_orimo
・Twitter:@orimo9
辻秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター/スポーツコンセプター
北大医学部卒、慶應病院内科研修、慶大スポーツ医学研究センターを経て独立。志は「ご機嫌ジャパン」と「スポーツは文化と言えるNippon」づくり。テーマは「QOLのため」。専門は応用スポーツ心理学に基づくフロー理論とスポーツ文化論。クライアントはビジネス、スポーツ、教育、音楽界など老若男女の個人や組織。一般社団法人Di-Sports研究所代表理事。著書に「スラムダンク勝利学」、「プレイライフ・プレイスポーツ」など、発行は累計70万冊。
・HP:スポーツドクター 辻 秀一 公式サイト
・YouTube:スポーツドクター辻秀一
・Instagram:@shuichi_tsuji
・Twitter:@sportsdrtsuji
安西渉(あんざい わたる)
一般社団法人日本ラクロス協会理事/CSO(最高戦略責任者)
資本主義に埋もれないスポーツの価値と役割を追求し、様々なマーケティングプランを実行。大学から始めたラクロスを社会人含めて15年間プレーし、現在は大学ラクロス部のGM/コーチを10年間務める。
1979年生まれ。東京大学文学部にて哲学を専攻。在学中の2002年よりIT&モバイル系の学生ベンチャーに加わり、2014年からITサービスの開発会社の副社長を務める。
・note:@wataru_anzai
・Instagram:@wats009
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