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どうやったらネットで食べられる? 漫画家2.0「鈴木みそ」

自ら電子書籍を出す。VALUで得た資金を資料費と取材費に充てる。子どもにビットコインをプレゼントしてみる。漫画家として実績、経験ともに豊富な鈴木みそさんだが、好奇心とチャレンジ精神で瞳を輝かせる姿は少年のようだ。鈴木さんが考える新しい漫画家の生き方とは? トライ&エラー&トライ。自身の経験を漫画にし多くの人を魅了する鈴木さんの思考を探る。

人気商売としての漫画家。名前は通貨に変わるのか

-VALUを知ったきっかけは何ですか?
鈴木
 確か、堀江貴文さんが「これ面白いよ」って何かに書いてて、それを見て始めました。それで僕がやり方を漫画で描いて公開したらバズるんじゃなかろうかと(笑)

さすがです(笑)
鈴木
 それに僕が長いこと考えていたことだったんですよね。紙の本や出版関係のやり方がもう通用しなくなっている時代、売れっ子の先生はいいですけど、そうじゃない人は棚に自分の本がさされることもなくなってしまう。そもそも本屋さんが街中でつぶれていってますよね。刷られる本もみんな半分くらいになった。同じ仕事量なのに半分になるわけです。

-厳しいですよね。
鈴木
 この先、ほんとやばいんじゃないかと思ってます。で、インターネットの普及で変わっていくのであれば、僕らの仕事もそれに合わせて変わっていくのではないかと。そう思ったから出版社が関係ない電子書籍というものを出してみたりしました。あとは、名前をどうネット上で通貨に変えていけるかということ。その中で、VALUっていうのは評判と金額をまさに結びつけるシステム。これはくるなぁと思ったんです。

-最初自分のVAが売れた時は嬉しかったですか?
鈴木
 ものすごい嬉しかったですね! 最初に電子書籍が売れたときもね、似たような嬉しさがありました。ずっとスマートフォンに張り付いて、売れたのを見てました(笑)

-ただ、みそさんはVALUの中で「VALU最大のリスクは売られたときの心の痛み」とも投稿してますよね?
鈴木
 そう(笑)売れてるときはいいんですけどね、売られたときがね。しょうがないんですけど。だから、ずっとキープしているメリットを僕が随時提示しなければいけないなと思います。書き下ろしの漫画であるとか、VALUERだけの特権として安定して提供できるものを。何を描いてどう商品にしていくのかっていうのを戦略的に考えていくのは楽しいですね!

-VALUと他のSNSの違いはどう感じていらっしゃいますか?
鈴木
 SNSの発信の仕方で、僕はFacebookは知り合い限定にしていて、あれはオープンではない鍵のかかったエリアです。逆にオープンなのがTwitter、半分広告みたいに使っている。VALUはその間くらいの位置だなと思っています。今Twitterのフォロワーが3万人くらいで、VALUが1000人くらい。その1000人ってけっこう濃いファンもいてくれるから、そこだけに肩の力を抜いて書けることとかもある。ここの位置は他にはないなって思いますね。

VALUを通じた新しい関係性

-VALUの活動の中で、一番楽しかった、嬉しかったことはなんですか?
鈴木
 VALUERさんとの交流会ですね。2回ほどやった時に、これは本当に勉強になるなぁって思ったんです。毎月やったほうがいいかなって思うくらい。リアルで会って、仮想通貨でこんなことがあったよ、今この辺が熱いよ、とか。ビットコインって仮想なのに、会っている人は実際にいる人じゃないですか。不思議な感覚。でも、Facebookで繋がってる人のほうがめったに会わなかったりして(笑)初めて会う人なんですけど、危険性を感じなかったんですよね。

-それはどうしてでしょうか?
鈴木
 僕も考えたんだけどね、電子書籍って無料で出すととりあえずダウンロードして、でも読まないの。100円でもいいからお金を出して買ってくれる人は読むんですよ。だから、お金をリアルで払った人は取り返そうと本能でするんじゃないかな。無料のものってまったく繋がらないっていつも思ってるんですよ。きっとビットコインを最初の頃に買って使ってる人たちってそこにリアルなお金がかかってるから、ここに対するずっしりとした重みが人間関係に影響してくるのかもしれない。

-お金というものを挟むからこその信頼が生まれる?
鈴木
 そう!お金って面白いですよね。

-VALUの中で難しかったところはどこですか?
鈴木
 いくらで出すかっていうことでしょう。やっぱり。出せば売れる頃はめっちゃ楽しかったですね。それで売られ出して、上がったり下がったりして。これ以上自分が出すと下がってしまうかなとか。悩んでましたね(笑)

東京に出たい。漫画家になりたい。

-鈴木さんご自身のことについて伺いたいのですが、幼少期から絵を描くのが好きだったんですか?
鈴木
 そうみたいですね。いっぱい絵が残ってるみたいです。自分でも覚えていないものとかもあって、よくとってあるなと。高校も美術部に入りました。油絵を描いたことがなかったので描いてみたかったんです。そこで描いているうちに、この田舎で就職するのもつらいなと思って悩んでいたんです。そしたらOBが、東京に美術の大学っていうのがあるって教えてくれて、東京の大学に行くんだったらここから出られるし、色々なチャンスがあるかもしれない。親に「大学行くお金はある?」って聞いたら「そのためにちゃんと用意してある!」っていってくれて、そこから長期休みには美術大学に進むための予備校の合宿に参加するようになりました。

-ストレートで合格ですか?
鈴木
 いえいえ!2浪したんです。でも東京に行くのが目的だったんで、大学には行っても行かなくてもいいやと半分思っていたわけです。予備校が新宿だったんですが、この新宿生活が楽しく楽しくて(笑)

-鈴木さん編集プロダクション(以下、編プロ)にも入られていた時期がありますよね?
鈴木
 そうです。編プロでは読者ページのハガキのネタをつくったり、原稿を書いたりしてました。でも、僕は漫画家になりたかったのでとある出版社の漫画雑誌編集部にも顔を出していたんです。そしたら、今度デビューする漫画家がいるからアシスタントをしないかといわれて、そこで初めて漫画ってこう描くのか!って学びました。

-漫画家としてデビューするのは…
鈴木
 24歳ですね。初めて描いた漫画を当時僕が一番面白いと思っていた雑誌に持ち込んだんです。そしたら丁度、連載をお持ちの先生が原稿を落とされまして(笑)その穴が18ページくらいあったのかな。丁度いい載せようって話になって、いきなりデビューしました。編集部の人に聞いてみたら漫画家って初めて持ち込んだ漫画でデビューする率って50%くらいあるんですって。

-そんなに!?
鈴木
 そう(笑)そこから、付き合いのあった編プロの方から仕事もらったり、ゲーム雑誌の人から取材漫画描かない?って声かけてもらって仕事が増えていった感じですね。

子どもとビットコイン。これからの漫画家について

-話は変わりますが、鈴木さん、ご自身のお子様にクリスマスにビットコインをプレゼントされてましたね?
鈴木
 そうそう、あれはね、すごく面白かったんです(笑)普通に小遣いもらうよりビットコインもらったらこいつらどうするんだろう?って思ったんですね。たまたまVALUのおかげで溜まっていたものがあったんで、あげてみようと。1BTCが120万くらいのときに2万円分渡して「上がるぜ」っていったらちょっと上がって、その後スコーンと下がったんですよ。100万きったときとかは「どうしよう」って唸ってて(笑)

-悩みますよね(笑)
鈴木
 そう。上がるかもしれないし、下がるかもしれない。限りなく0に近くなるかもしれない。でもいつでも変えて使えるんだよ、と。それまで何でももらったらすぐ靴とか買ってたんですが、ずーーっと使わずに持ってるんです。上がった下がったって悩んでいる姿がとても面白かった。お金の使い方って難しいんですよね。

-若い子たちはどんどん仮想通貨を使ったり、それこそVALUを始めるべきですか?
鈴木
 そうだと思います。仮想通貨ってよくわからないかもしれないけど、自分の名前や顔を売りたいっていう人は安いうちとか誰も知らないうちに抑えておきたいって思う人もいるから、どんどん出すのもありなんじゃないのかなって思いますよ。その子のVAが上がっていって、こんなもの買いました、これを使ってこんなことをしましたって。それでその子のスキルや知名度が上がっていったらVAも上がるはず。そしたら次はその子は別の子のVAを買う。自分が人からもらったものを返していける、そういうものになり得ますよね。

-なるほど。鈴木さんご自身のこれからの展望は?
鈴木
 展望というか、今の時代ってどんな風に変化するのかわからないじゃないですか。来年のことでも何が起こるか思いつかない。漫画っていうのはネットとすごい相性がいいので、これからもまだまだ伸びるんじゃないかと思っています。ページ単価っていうのが一時期より下がってるんですけど、ある程度のところで安定していて、面白いものを描くとバズりますよね。バズったものはどこにいくのか。今の所紙の本を売ることで自分の名前の知名度を上げたりとか、電子書籍を買ってもらったりだとか、そこに戻っていく。でもこれからはネット上で自分の価値を高めることによって、また新しい人とつながって、次の面白いネタになってってぐるぐる回り始める。そうすると自分の思わなかったような新しいものと出会えて、新しい発想によって描くことができる。自分はまた新しいステージに上がっていって、過去のものも今のものもまとまって売れていくようになるかもしれない。それって自分の人生っていうのをひとまとめにして、パッケージにして売ってるのかなぁって。いう感じがします。

(書き手:鎌田智春)

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