84歳の縫製職人に「日本の服作りの強み」を聞いてみた
僕の祖母は84歳で現役の縫製職人だ、休み休みになりながらもまだ現役で仕事をしている。
祖母は紳士服の工場や婦人服既製品、現在は医療関係の制服の縫製を行っている。
以前、そんな祖母にインタビューをしたことがあった、
その際「日本の服作りの強みはどこだと思いますか?」と聞いてみたのだ。
その答えが思っていた答えではなかったし、その当時の僕には物足りない答えだったけれど今ならわかる気がするので記事にしたいと思った。
日本の服作りの強み
84歳の祖母に「日本の服作りの強み」を聞いた。
テレビのディレクターをしていた僕は質問の答えを大体何パターンか予想してその答えによって次の質問を変えている。
そしてインタビューしながら全体の構成を考えていく。
その時期待していた言葉はこうだ
「日本人は非常に技術が高い、だから世界でもトップレベルの洋服が作れるんです」
みたいな答えだった。
日本人は控えめだから、外には広がっていないだけで日本の技術は素晴らしい。だからもっと広げれば広がるんだ。
そんな内容を期待していた。
それは視聴者の多くが「日本の技術は素晴らしいのでしょう?」と聞いてくることから、逆説的にその質問の答えを導きたかったのだ。
しかしそうではなかった、実際の答えはこうだ
「型紙通りに縫えることです、同じものを何枚も何枚も作れることが一番いい」
少し拍子抜けだった。
確かに同じものを高いクオリティで何枚も作れることは素晴らしい、しかし今や海外でも技術が上がってきているしマシンの性能も上がっている、日本人や高い技術を持った人が現地工場を見ているからクオリティが高いものを低価格で何枚も作れる。
型紙通りに同じものを何枚も作れる。
ということが強みなのだとしたらそれはすでに海外で代替えできてしまうのだ。
日本の服作りはもう、なんの強みも持たないようなそんな気がした。
日本人の強み
期待とは違う答えが返ってきたが考えてみれば当たり前だ、
たった50年前を振り返ってみると日本にはオリジナル文化なんてなかった。
日本人は今の中国や他国がデザインを丸パクリしている!と騒ぎ立てるが日本も元々は真似るのがうまい人種だった。
Leicaのカメラだって
ぺこちゃんだって
マーブルチョコレートだって
日本人はコピーするのがうまい、とにかくオリジナルではなく自国で真似をしてそして発展させるのがうまい国だ。
50年経ってマーブルチョコレートもぺこちゃんも日本人は日本のものだって信じている。
そんな国にあって「型紙通りに作ることが100点である」という答えは非常に的を得ているのだ。
だって服作りは日本の「大量生産」のお家芸であったから。
もちろん日本人のオリジナルのクリエイティブも存在する、それは着物であるとか和柄であるとか日本伝統の物は独自の文化を歩んできている、そしてそのクリエイティブな文化と「日本人は器用で技術力が高い」という信頼が一人歩きし
「日本人はクオリティの高い洋服をクリエイトすることができる」と思ってしまうのだ。
期待と現実
僕がおそらく大小合わせて数百と取材を受けてきて一番聞かれたのは
「日本の技術はやはり素晴らしいのですか?」という質問である
この質問の理想的な答えはきっと
「やはり日本の技術は素晴らしく、世界に十分通用します、だからもっと職人を輝かせることで日本製の洋服は世界で十分に戦えると思います」
これがおそらく100点に近い答えだと思う。
しかし残念ながら現実はそうではない。
残念ながら日本人の職人が長けているのはクリエイティブな発想力ではなく、誰かが想像したり生み出そうとしたものを実現するための能力なのだ。
例えば優秀なハッカーと聞くと「パソコンにめちゃくちゃ詳しい」というイメージがある。では優秀なプログラマーも「パソコンにめちゃくちゃ詳しい」というイメージだろう
では実際にプログラマーとハッカーはどちらが強いのか、と聞くと「矛と盾」みたいなイメージを思い浮かべる。
実際どちらが優秀かはさておき実際は0からプログラムを組むのと、誰かが作ったプログラムをハッキングするのとでは思考そのものが違う。
野菜を作るのと野菜を使って料理をするのくらい違う。
これは人が勝手にイメージをいい方向に働かせてしまっているのだ
片付けがうまい と 部屋がおしゃれ
だとか
サッカーが上手い と サッカーを教えるのが上手い
だとかと似ている。
服作りは上手いが、クリエイトが上手いわけではない。
そして残念ながら洋服の価値は布の塊や技術だけではなく「デザイン」や「型紙」など様々な技術や才能の上に成り立っているのだ。
だから職人の技術の高さ=売れるではない。
日本の服作りを次世代につなぐためやるべき2つのこと
洋服の販売の大部分を占めるのはやはりデザインや型紙などの物理的なクリエイティブ、そしてマーケティングやブランディングなどのセールス的なクリエイティブだろう。
そこを外して「日本の素晴らしい縫製技術」は活かせない。
これが日本のファクトリーブランドが失敗する大きな要因でもあり、衰退の大きな原因だろう。
ここからは私たちがやろうとしていること(必要だと思っていること)であるが、
1.デザイナーがデザインに集中できる環境を整える
2.ドメスティックブランドの新しいマーケットを創造する
この2つが非常に重要だと思っている。
1.デザイナーがデザインに集中できる環境を整える
日本はまずクリエイターに対する扱いがひどい、芸術で食えるのは一握りだとか、
若いうちは苦労しろとか、そんな精神論の上にサポートをすることを先延ばしにしていると感じている。
もちろんデザイナーなどを志したからには寝る間も惜しんで苦労した方がいいと思うし、技術も知識もないうちがら「カネカネ」と言い出すのは少し早いと思う、
しかし「カネカネ」いうのと生活ができるというのは全く別の話だ。
少なくともクリエイティブを伸ばすということを考えるのであればなんとか生活できるレベルではお金が必要だ。
僕たちは縫製工場を守りたいし技術を守りたい、そのためにはデザイナーやパタンナーが活躍しなければ作りようがない。
だから僕たちは全力でデザイナーを応援する、その1つがブランドパートナー事業である。
ドメスティックのブランドに売れようが売れまいが毎月報酬をしっかりとお渡しし洋服作りのための環境を整えてもらいクリエイティブに集中してもらうのだ。
僕たちは服作りを次世代につなぐためにデザイナーを育てる必要があると感じているし、これからもブランドパートナーは拡大していきたいと思う。
だって業界は繋がっているから。
2.ドメスティックブランドの新しいマーケットを創造する
日本製の洋服の価値を考える。
そこになんの価値があるのだろうか。
価格差や技術力、希少価値、人権問題など色々あるだろう。
けど僕らはファッションをやっているんだ、だったらまずは「かっこいい」や「可愛い」を価値にしたいと思っている。
先ほども書いたが「デザインなどのクリエイティブ」ともう一つ「ブランディングやマーケティング」も海外に比べて日本はまだまだ発展途上だろう。
だからもっとたくさんの人にドメスティックブランドの素晴らしさを伝えていきたいと思っている、それは技術力でも人権問題でもなく「服の価値」としてシンプルに伝えたい。
僕たちが作る服が「かわいそうだ」と思って買われるわけじゃなく、「かっこいい」とか「可愛い」とかそんな理由で選ばれるよう僕たちは市場を開拓しなきゃいけないし挑戦を続けなきゃいけないと思っている。
縫製工場が仕事を守るためにデザイナーを支援する、そして同時にそれを売れるための市場を作っていかなくていけないのだ。
そしてその仕事はもはや縫製工場の仕事ではないかもしれない、けれど僕たちは縫製業を次世代に繋げていくためには避けては通れないと思っている。
そう考えるとやるべきことはめちゃくちゃあるし正直「遠いなぁ」と感じる。
しかし僕の代で達成できなくてもそのエコシステムができるようになるまで挑戦を続けようと思う。
デザイナーがデザインで世界と戦えるように育てる。
職人たちが技術で飯を食えるように(デザイナーのパートナーになれるよう)育てる。
そして日本にドメスティックブランドの素晴らしさを伝える。
ドメブラってかっこいい。
そう思ってもらえるように頑張りたい。
「これGUCCIだから高いんだよね、でもかっこいい」もいいけど
「これドメブラだから高いんだよね、でもかっこいい」そう言われるように
価格を安くするだけじゃないマーケティングやブランディングをこれからも頑張っていきたいと思う。
最後はまとまりがなくなりましたが、人を育てて市場を作る。これを頑張ります。
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