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元徳と大罪の魔女たち 第1話

あらすじ

 世界には七人の魔女がいた。
 彼女たちはそれぞれ、強欲、傲慢、色欲、暴食、憤怒、怠惰、嫉妬の魔女と呼ばれ、悪魔と契約を交わした『絶対悪』として、人々から恐れられてきた。しかし、実際にはその逆で、彼女たちは代々それぞれの悪魔と戦い、世界を守っていた。

 そんなある日、傲慢の魔女が悪魔ルシファーの攻撃に合い力を失ってしまう。傲慢の魔女は古の盟約に従い、強欲の魔女に助けを求める。が、当代の強欲の魔女であるフィンは男だった。傲慢の魔女の財産目当てに協力を承諾したフィンは、彼女のテリトリーへと向かいルシファーを迎え撃つ。しかし、ルシファーは最後に意味深な言葉を残した。「これは始まりに過ぎないのだ」と。

(補足)
・なぜフィンは男性なのに魔女になったのか、なぜフィンはお金に拘るのか、なぜ悪魔は人間界に干渉してきたのか等、大小様々な謎を解決していくストーリーです
・主人公であるフィンと六人の魔女が出会い、親交を重ねていくラブコメの要素も含まれます

第1話 当代の強欲の魔女

「やあ、フィン。今日もいい天気だね」
「おはよう、フィン。今日も何でも屋の仕事かい?」

 爽やかな朝、活気づき始めた町並みを歩けば、様々な人々にそう好意的に話しかけられる。
 昨夜の突然の雨が嘘みたいな澄んだ空を見上げ、鼻から大きく息を吸い込んだ。

 ここ百年ほど戦争のない、武力、政治力共に安定した平和な国。
 徒歩で日帰りできる距離に大きな都市がある、ほどほどに田舎でそこそこ恵まれた村。
 穏やかな気候と、心優しい村人たち。

 うん。今日の僕も最高にツイてる。
 そう新たな一日に感謝をしてみんなに挨拶を返す。

「おはよう。いい天気になったね。今日も素敵な一日になりますように」
「そうだよ。まだ特に決まってはいないんだけど、何かやることがないかと思ってね」

「あら、じゃあひとつ頼みがあるんだけど、お願いできるかい?」

 村人たちと挨拶を交わしていると、日頃よくお世話になっている花屋のマーチおばさんがそう声をかけてきた。
 自分の子ども達が手を離れて寂しいのか、マーチおばさんは何かあるごとに僕に仕事を振ってくれる。そして、仕事終わりにはちょっとしたお茶会を開いて、手作りの美味しいお菓子とお土産をたくさんくれる上客だ。

「もちろんいいよ」

 今日の夕食が決まったなと思いながら、マーチおばさんの仕事の話を聞くことにした。

「昨夜の雨で、家の裏手にある納屋の屋根が水漏れしたようでね。仕事が終わってから確認するつもりだったから、まだちゃんと見れてないんだよ。悪いんだけど、状況の確認と、可能なら修理をお願いできるかい?」
「納屋の水漏れの確認と修理だね。材料費は別途として、手数料は一日仕事になりそうだから……銀貨1枚でいい?」
「ああ、もちろんだよ。じゃあ、これ納屋の鍵ね。早速頼むよ」

 交渉成立し、マーチおばさんから鍵を受け取った。
 おばさんの家は村から少し外れたところにあるので、それじゃと言い早速はや足で向かう。チラリと後ろを振り向くと、おばさんがなおも僕に向かって小さく手を振っているのが見えた。軽く会釈をして歩むスピードをさらに早める。

 ああ、銀貨1枚の仕事が早々に決まるなんて、やっぱり今日はツイてる!

 マーチおばさんの仕事は、たいていがちょっとしたお手伝い程度でいつも銅貨1枚だったけど、今日は銀貨1枚。価値にしておよそ十倍だ。
 もちろん銅貨1枚であっても、仕事後のお菓子やお土産、そして世間話として色々な情報を貰えることを考えるととても割のいい仕事なのだけど、銀貨であれば三日は食事に困らないのだ。思わずニヤけずにはいられない。
 久しぶりにお店で食事をとるのもいいかもしれないな。いやいや、ここはやはりいつも通り貯金しようか。などと銀貨の使い道にあれこれ想像が膨らむ。

 ご機嫌で足取り軽く道を進んで行けば、早々に目的の家へとたどり着いた。
 花屋を営むマーチおばさんらしく、こじんまりとしながらも手入れの行き届いた可愛らしい家だ。見慣れた家を正面から一度眺めて、その裏手にあるという納屋へと回る。

 納屋は手前にあるおばさんの家とそんなに変わらないほどの大きさだった。
 普通の村人が持つ納屋としては、十分以上の大きさがある。

 そういえば、納屋に入るのは初めてだったなとふと思った。
 この辺りはかつては争いも多く、その時の道具を納屋にしまっていると以前聞いたことがある。血生臭さの残るそれらがマーチおばさんは大の苦手で、納屋に行くのは極力避けていると言っていた。
 そういった事情もあって、おばさんは今回僕に状況確認の依頼をして、銀貨1枚という破格の手数料も軽く了承してくれたのだろう。

 まあ、僕もあまりそういったのは得意ではないけれどと思いつつ、仕事なので渡された鍵を鍵穴に挿し、ゆっくりと納屋のドアを開けた。
 中からむわっとした空気が漏れ出して全身を包む。昨夜の雨の影響か湿度を含んだその空気には、長年閉ざされたままであったことを思わせる埃っぽさと、聞いていた通りの若干の鉄臭さが含まれていた。

 むせかえる空気を手で扇ぎ、一歩、納屋の中に足へと踏み入れる。すると、全体的に薄暗い室内に一筋光が差しているのが見えた。光を追って天井を見上げれば、屋根の隙間から僅かに青空が覗いている。

 雨漏りしているというのは、おそらくあそこのことだろう。
 そんなに大きな穴ではなさそうだけれど、可能であれば修理もということだったので、まずはあそこにいって状態を確認しなければ。そのためには屋根に登る必要があるのだけど……梯子はないかな? と上に向いていた目線を下げて、周囲を見回した。

 上方からの薄明りのみで全体的に暗いものの、納屋らしく、手前の方には日常的に使わなさそうな場所を取るものばかりが置かれている。しかし、奥の方にチラリと視線を向ければ、入り口からはよく見えないものの武器のような刃物らしき何かが、麻袋に一緒たにくるまれて置かれていた。と、その横に梯子が横に倒した状態で立てかけられているのを見つけた。

 ……この荷物の隙間を縫って、あそこまで行くのはちょっと面倒だな。なんて思いながら、納屋の中へとさらに足を踏み入れる。薄暗くて視界が良くないし、錆びた鉄のような匂いにだんだんと頭が痛くなってくるようだった。
 だからだろうか。少しぼーっとしながら、梯子に向かって物を避けて進んでいく。と、その時、柔らかい何かを踏んで、一気に僕の意識が戻った。

「キャァッ!! 痛いッ!!」
「え!? なに!?」

 それは甲高い、少女の悲鳴だった。突然の叫び声と共に、これまで地に伏せていたために気付かなかった、人の体が露になる。
 僕より一回りほど小さく見える体に、全身泥で汚れた衣服、そして、そんな中でも薄光を受けて絹のようにキラキラと光り輝く長い銀髪。

 ……魔女だ。

 その姿を目にした瞬間、そう悟った。
 この世界のだれもが知っている。
 一片の曇りもない美しい銀髪は、悪魔と契約した魔女の証だ。

 世界に七人いるという魔女は、それぞれに悪魔を従えて人々に厄災を振りまく『悪』そのものだった。触れただけ、会話をしただけ、目が合っただけでも不幸が訪れるという。
 だから、魔女と出会ったらすべてを放り捨ててでも、すぐに逃げなければならない。それがこの世界の常識だった。

 しかし、そう頭の中で認識した時には、もう遅かった。
 僕が踏んでしまったのは彼女の右足か。彼女は傷ついた足を軽くさすると、踏みつけた犯人の僕をギラリと睨んで勢いよく僕の体を掴んだ。

「あんたね!? 今、私の足を踏んだのは! すっごく痛かったんだけど!?」
「え、あ……ごめんなさい!」

 あまりの勢いに、思わず謝ってしまった。
 いや、そもそも何でそんなところにいたんだとの疑問が脳裏に浮かぶも、目の前の魔女はその勢いのまま、なおもこちらに向かってブツブツと文句を言っている。

「雨の中夜通し歩きっぱなしで疲れたし。せっかくここを見つけて休んでいたのに足を踏まれるし……ホント散々だわ!」
「……でも、君はこの家の人間じゃない、ですよね? おばさんから聞いたこともないし……」

 確かに足を踏んでしまった僕にも否があるが、勝手に納屋に忍び込んでいた彼女にも少しは否があるだろう。それなのに、一方的に責め立てられている状況に沸々と怒りを感じてしまい、思わずそう言葉を返した。
 こうなったらどうせ逃げられないんだしと、少し投げやりになってしまった気もする。

 しかし、僕のその態度が想定外だったのか、彼女は一瞬驚いたような表情をして口をつぐんだ。そして、まじまじと僕の顔を覗き込み、ニヤリと口元をゆがめて言う。

「へえ。私の足を踏んだだけでなく、口答えしてくるんだ? あんた、私が誰だか知らないの?」
「……魔女、ですよね?」
「なんだ。知ってるんじゃない。それなのに私にそんな態度をとるんだ? 私の機嫌を損ねたら、どんな報復が待っているか分かっているの? あんただけじゃない。あんたのせいで、あんたの家族も不幸になるんだよ?」

 こちらの反応を楽しむかのように、その美しい顔には似合わない、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。まるで、世間の人々が想像する悪しき魔女の姿そのものだ。
 だが、僕には残念ながら、その手は通用しなかった。だって……

「僕には家族はいないから大丈夫です。というか……そんなこと言ったって、本当は人間には手を出せないんでしょう?」

 僕の言葉に、ピシッと彼女の顔が固まる。
 こちらを試すようなニヤついた表情は消え、代わりに若干の戸惑いの色が瞳に浮かんでいた。

「なんでそのことを……それは『魔女の秘密』のはず……あんた、まさか……え?」
「まったく。僕ら魔女は、人間に危害を加えることができない。だろ? 傲慢。ガラにもない脅しなんかするなよ、恥ずかしい。てか、いったい何しにここに来たんだよ!?」
「え、えええ!? あんたがまさか……強欲!? いや、いやいやいや……だって、魔女って女しかなれなんじゃ……てか、あんたの髪の毛、銀じゃないじゃない!?」

 僕の目の前にいる『傲慢の魔女』は、信じられないといった表情を浮かべ、わなわなと震えながら僕の髪の毛を指さした。
 今の僕の、髪の毛の色は茶色。この世界では最も人口が多く、一般的な髪色だ。

「そんなの、魔法で染めたに決まってるだろう。その銀髪のままじゃ魔女だってモロバレしてしまうし、人間社会に入るのに支障をきたす。ひいては、金を稼ぐこともできないじゃないか」

 そう言ってパチンと指を鳴らせば、みるみる間に僕の髪色は、茶色から本来の銀色へと変わっていった。僕の発言にただでさえ驚いていた彼女は、あらわになった銀髪を目にしてさらに目を見開く。あ……あわ……と、声にもならない声が小さく漏れていた。

「これで分かっただろ? で、いったいこの村に何しに来たんだ? ここは僕のテリトリーのはずだ」

 銀に戻した髪から漏れ出る魔力で威嚇しつつ、僕は右手を彼女に向けてかざし、宙に魔方陣を書く。
 魔女にはそれぞれ自分のテリトリーが決まっており、互いに不可侵を守っている。許可なき侵入はルール違反だ。
 魔方陣に合わせて小さく口ずさむ呪文。その音に呼応するように、宙に書いていた魔方陣が妖しく青色に光を放ち始める。

「わー、待って! 勝手に入ったのはごめんなさい! でも、緊急事態だったの!」
「緊急事態……?」
「そう! 悪魔が急に攻撃してきて、命からがら逃げてきたの……! だからお願い、飛ばさないで!」

 そう言うと、彼女は必死な表情で僕の体にしがみついてきた。
 悪魔が? まさか! と思いつつ、僕の腰回りに抱きついてきた傲慢の魔女の髪の毛を掬い上げる。一片の黒もない、綺麗な銀髪そのものだ。

「見ての通り、私の髪はまだ黒に堕ちてない! なのに、悪魔が……ルシファーが突然攻めてきたの! おかげで、こんな幼女体形になっちゃうし……私は古の盟約に従い、強欲。あなたに助けを求めに来たのよ!」

 その言葉を聞いて、魔法陣を書いていた手を止めた。
 黒に落ちていないのに、悪魔がこちらの世界に干渉してきただって? そんなこと、あり得ない。一体何のために魔女がいると思っているんだ。

 魔女は悪魔たちの世界と、こちらの世界を繋ぐ道を塞ぐ『蓋』だ。
 その力の強さは髪に現れ、黒が差しだすと後継者を立て力を引き継ぐ。そうやって、僕たちはもう数百年もこの世界を守ってきたんだ。彼女の話が本当であるならば、この数百年の前提が覆ってしまう。

「にわかには信じられないな。僕のテリトリーには何も異変がない。何か、信じるに足る証拠はあるのか?」
「……この体は本来の私の姿じゃない。ルシファーによって、この姿に変化させられたの。きっと、体に魔法陣がかけられているはずよ……」

 そう言って、彼女はしがみついていた腕をゆっくりと離し、僕に背を向けて項垂れた。長い銀髪が首を中心に左右にサラリと分かれ、白いうなじがあらわになる。

 一般的に『呪い』はうなじに掛けるものだ。うなじを晒すということは、呪いを受けた自分の力不足や弱点を晒すことと同義。だから、呪いを受けた者は決して自身のうなじを人に見せない。

 初対面である僕に、素直にうなじを晒したこと。そして、魔女である彼女が呪いを受けるほどに追い詰められたのだという事の重大さに、喉がゴクリとなる。
 重たい沈黙の後、僕はおもむろに彼女のうなじに手をかざして、ほんの少し魔力を注いだ。その瞬間、視界を覆い尽くすほどの大きさの魔法陣が宙に浮かび上がる。

「……なんだ、これは……」

 それは信じられないくらいの練度の魔法陣だった。
 常時魔力低下に常時身体能力低下、さらには幼体化など考え付く限りの弱体の魔法が組み込まれている。

 こんな高度な魔法陣を、いつの間に悪魔どもは扱えるようになったんだ……? というか、もはや本当に悪魔の仕業なのか? このレベルはそれこそ魔女か、もっと上位の存在でなければ無理なはずだ。
 だが、この魔法陣と重なるように浮かぶ印。これはこの呪いの術者を表す唯一無二のもので、魔女の基礎知識として叩き込まれた、紛れもなく悪魔ルシファーのものだった。

「ある日突然、私の城にルシファーが現れたの。配下二人を伴って、たった三人だった。でも、奴らに私は手も足も出せず、あまつさえこの呪いを受けてしまった。奴らは笑っていたわ。『これは、ほんの挨拶なのだ』と……」

 彼女は未だ僕に背を向けたままだが、その声色から、向こう側にあるであろうその表情が悔しさに滲んでいることくらい僕にも分かる。
 が、何というか……えー、重すぎない?
 先程からどんよりと重たい空気が流れているものの、事が大事過ぎて逆に冷静になってきた。

 そもそも僕はここに、水漏れの確認と修理に来たんだ。
 それなのに……いや、そのせいで、偶然にも納屋で休んでいた傲慢の魔女と出会ってしまって、しかも助けてくれだなんて、銀貨1枚じゃ到底割に合わない。さっきまでのツイてた一日が、一気に台無しになった気分だ。

「やつらはまた、必ずこちらの世界を攻めてくるわ。今度は大軍を率いて……お願い、強欲! 私たちを助けて!」
「いや、ちょっと無理かな」
「え……えー!?」

 僕の返答に、彼女はまたも目を丸くして絶句した。
 いや、何故そんなに驚いているんだろう?
 僕たち魔女は元来、不干渉。それゆえに、これまで数百年に渡って、互いに親交など一切なかった。僕だって、自分以外の魔女をこの目で見たのは師匠以来、初めてだ。それなのに、急に訪ねてきて「助けてくれ」と言われても正直困る。

 それに、魔女同様、悪魔にもそれぞれテリトリーがあるのだ。
 ルシファーのテリトリーは、まさに強欲の魔女のテリトリー。僕のテリトリーには、どう足掻いても影響しない。
 これが世界全体の話なのか、彼女のテリトリーだけの話なのか分からない以上、僕が手を貸す理由にはならないのだ。

 唯一の懸念点は、彼女が言っていた『古の盟約』だけども……いったい先代の誰だ。そんな盟約を結んだのは。
 僕は『強欲』
 お金にならなさそうなことなんて、びた一文したくない。

「いや、だって……古の盟約が……」
「そんなの、僕が結んだものじゃない。僕は自分のテリトリーを守ることで精いっぱいなんだ。悪いが他を当たってくれないか」
「そんな……」

 そう言って彼女は呆けたかと思えば、みるみる間に青褪めていった。しかし、悪いがこれ以上は僕の出る幕じゃない。
 魔女は僕の他にもあと五人いる。条件次第では、もしかしたら手を貸してくれる魔女もいるかもしれない。まあ、期待薄ではあるだろうけれども。

 そう考えつつ、地面に手をついて絶望している彼女をしり目に納屋の奥へと進み、目的の梯子に手を掛けた。その時だった。

「自分の財産を全て差し出せば、強欲の魔女は助けてくれる。そう聞いたのに……」
「……え?」

 なんだって? 今なんだか、とてつもない大金の音がした気がしたが。
 いやいや気のせいだろう。だって、僕ですら日銭を稼ぐ生活をしているというのに、人間社会から遠ざかっている魔女が一体どうやって財を成すんだ。ま、でも、聞いてみるだけなら……

「……ちなみに、どれくらい……?」
「え?」
「いや、財産って、どれくらいかな~って」 
「どれくらい、なのかな? 一部屋に集めてるけども、まあ、床を埋め尽くすくらいには……」
「埋め尽くす……! え、色は? 銅? 銀? まさか、金だったりして」
「あんまり覚えてないけど、多分、ほとんど金だったかな?」

 ――ガン!
 僕は衝撃を受けて、思わず頭を梯子にぶつけてしまった。

 ……一体、どうしてなんだ。
 僕は日々、こんなにも慎ましく生活しているというのに、彼女はどうしてそんなにも財を成している?
 勢いよく彼女の方に顔を向ける。突然の僕の行動に、彼女の肩がビクッと動いたのが見えた。

「何でそんなに……」
「あ、えーと、魔女は絶対悪とされているけども、たまに魔女を信仰している人がいて。そういう人たちが勝手に城にやってきて、私の世話を焼いたり財産を寄付してくるんだよね。それらを私も特に拒絶したりしないから、いつの間にか溜まっていっちゃって……」

 なんという事だ。
 僕がいかに人間社会に馴染むことに苦心している間に、この魔女はありのままの姿で、一部の熱狂的な信者を獲得していたという事か。

 しかし、僕にはわかるぞ。その方法は、きっと僕には使えない。
 何故なら、信者たちが求めているのは、今僕の目の前にいるような美少女の魔女であって、決して僕のような男の魔女ではないからだ。なんなら、理想を壊したとして殺されるリスクすら僕にはある。

 だが、なんて羨ましいんだ……!
 金貨の直径はおよそ1インチ。床を埋め尽くすほどということは、その部屋が例えば五メートル四方だったとして、少なくとも45,290枚はあるということになる。金貨の価値は銀貨の三十倍! ざっと一万年くらいは食事に困らない計算だ。

「……行こう」
「え?」
「ルシファーを倒しに、君のテリトリーへ行こう! 報酬は、先ほど言っていた君の全財産だ。信者どもが落としていったそのお金……同じ魔女である僕がいただく!」

第2話 お茶会と餌付け

第3話 強欲の魔女の隠し事

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