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カモニカ谷に春が来て・リトリートvol4
「すみれにあう」という作家・清川妙さんの瑞々しいエッセイを初めて読んだのは高校生の時で、父が誕生日のお祝いにくれた本の中にあったと思います。何十年も前に手にした清川さんの随筆は、落ち着いた書体とさりげなく美しい挿画があいまって、見過ごしながら生きていたささやかだけど美しい世界への道しるべとして心の中で灯りつづけています。
忘れられない3月11日の翌日、カモニカ谷では春の太陽があたりを隅々まで照らし、雨の中で重くうなだれていたすみれも忘れな草も梅の小さな花弁も輝いています。
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去年のちょうど今頃船出した、カモニカ谷のわがやで開催されるリトリート。一年経って、「和トリート」と名付けて、これからも育んでいくことになりました。今回は、ご参加のみなさん総勢5名で、まずはカモニカ谷の世界遺産を見学。いえ、正確に言うと、まずは腹ごしらえ! 早朝集合で腹ペコの皆さんに、宿屋の女将さん気取りの私が用意したおにぎりと卵焼きを食べていただきました。駐車場から世界遺産の入り口までは徒歩10分。エネルギー補給です。そのあとはお友達のご夫婦も合流して、花寒の季節もなんのその、わいわいおしゃべりしながら岩に刻まれた古代の印を見学しました。
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イタリアでは男性が女性にミモザを贈ります。
そんな風に始まったリトリートならぬ「和トリート」。震災の日を記念して作る味噌の会を翌日に控えて、夕食どきから翌朝まで、沈黙の瞑想というものに挑戦しました。導いてくださったのは、味噌の会や麹作り、そしてヨガのリーダーであるたえこさん。沈黙という名の通り、言葉を発せず、表情や目で意思疎通を試みます。ところがこれが夕食やお泊まりの方の快適さをサポートしたい私にとってはとても難しかった! いろいろなことが数珠つなぎに気になってきます。それでも寝る前に参加した沈黙の瞑想は、たえこさんのきっぱりとしつつも優しい声と、その声で読み上げられる詩に誘われて、心が洗われるような時間でした。
翌朝は朝食の後、味噌会の準備です。水に浸しておいた大豆をとにかく煮込む! ひたすら煮込む! これには我が家のストーブが大活躍。4キロ近くの大豆を三つの大鍋で煮込むのですが、なかなか大豆が柔らかくなりません。
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味噌会には、さらに5名の方が参加してくださいました。みんなで、大豆をビニール袋に入れて潰してゆきます。ペースト状になったら、麹を混ぜ込んだのち、味噌玉を作って、瓶の中にしっかりと押し付けていきます。最後に、味噌が瓶の中で空気に触れないように、酒粕や別の味噌などで蓋をします。
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みんなでおしゃべりしながら大豆を潰しています。
味噌づくりがひと段落したら、今度は以前バールを切り盛りされていたYさんがリーダーとなってアペリティーボタイム。Yさんの下準備は、細やかで、出来上がった一皿一皿には華があって、感心するばかりです。みんなで和気あいあい、今年も3月11日を思って、味噌の会を無事に行うことができました。
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ところで、なぜ味噌なのか。たえこさんが教えてくれました。長崎県に原爆が落とされたとき、当地の秋月医師が、原爆症をふせぐために、塩の玄米おにぎりと味噌汁を毎日飲むように指示したそうです。その指示に従った人々は誰も原爆症にならなかったそうです。その教えをふまえて、2011年3月11日の震災後に起きた福島原発事故に思いをよせ、平和と健康、そして安全を祈って世界中でこの時期に味噌を作る草の根活動なのです。
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不勉強な私は、自分にできることからやっていくしかありません。味噌や麹を作ってゆく、その一つ一つの所作には、昔から言い伝えられた知恵がつまっています。それを教えてもらえること、そしてそれをみんなで一緒に体験できること、そして今度は私がだれかに伝えてあげられるように学ぶこと。静かな山の台所で、静かに息づいている麹の隣で、ふと、まだ始まったばかりだ、と思ったのでした。
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