黙考凡道

また、レールを外れた音がした
自分が敷いた人生という名のレールをゆっくりと踏み外した、小さな、軋んだ音が
土曜日の夜は 今日は何もしてないやで終わる呟きを酒と一緒に飲み込んで
日曜日の夜は また明日仕事に向かう絶望を睡魔で殺して
また呟く
俺は これで良かったのかなって


普通に生きることが正しいことだとずっと思ってました
手放した夢の代償に手に入れた安定はそれもちっぽけでした
お金が貯まらない 時間が無い そんな言葉を盾にして
徐々に積み重ねていく年齢という名の壁を見上げる度に
「超えられない」と弱音が溢れてくる

同年代は次々に売れていきます
世間の日の目を浴びてその才能の花を咲かせます
僕はその花が可愛く見えると同時に
どこか憎らしいと感じるようになったのです
伸びていく蔦が、僕に絡みついて
人生をぎゅうぎゅうと締め付けてくるのです
馬鹿だなあ お前だって種を撒いたじゃないか
花を咲かす前に枯らしたのは自分なのに

Twitterを動かす その指の動きが
果てなき時間の 波のように感じる
寄せては引いて 電子の海に
感情が流れ 飲み込まれて消えてく
水色の鳥が 運んでくる
怒りを、悪意を、痛みを運ぶ
幸せはここにも 心にも無いから
涙が流れ 吸い込まれて落ちてく


あのタレントがクソだと言う前に
僕の嫌いなところを十個数えました
あいつはラッキーで生きてると言う前に
僕の不幸せを二十個数えました
いいや本当は不幸なんかじゃなかった
恵まれた環境を不意にしただけだった
誰かを妬んだり 不幸を祈るよりも
自分の好きを数える方が はるかに早いのに

あの人みたいになりたかった
社長、声優、芸人、東大王
僕の王道は平凡な道
「じゃあ普通って何?」 と問う声は無視して
黙って考えても解決なんてしなかった
誰かに話しても答えなんて出なくって
例えるなら 木工用ボンド
くっつく時は白く 剥がす時は何も無い


キーボードを叩く その指の動きが
果てなき人生の 後悔ように感じる
あの時続けていれば 心に耳を貸す度
感情が溢れ 声になって張り裂ける
自分には無理だ 努力が出来ない
本当に、本当に、そうだったのか?
幸せにはここにも あっちにも無くて
涙が流れ 凡道のまま歩んでく

(了)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?