見出し画像

逆算思考:作業を価値に変えるSCMの新しい視点

1. SCMの現場で「意思決定」を意識したことはありますか?

製造、生産管理、物流、購買といったSCMの現場で働く皆さん。日々の業務に追われながら、こんな疑問を感じたことはありませんか?

  • 「この作業、本当に意味があるんだろうか?」

  • 「やるべきことがどんどん増えるけれど、どれが優先なのか分からない。」

  • 「もっと全体の流れを見渡せる判断ができたらいいのに。」

SCMの現場では、意思決定の仕方が成果に直結します。しかし、多くの現場では「意思決定」というよりも、「降りてきた仕事をこなす」ことに終始しがちです。これは日本の現場が持つ「実行力」の強みの裏返しでもあります。目の前の仕事を確実にこなす力が高い一方で、全体の流れやゴールを考える余裕が持てない状況も少なくありません。

今回お伝えするのは、そんな日常を変える「逆算思考」の話です。この思考法を取り入れることで、目の前の仕事を単なる「作業」から、「意味ある価値の創出」へと変える方法を一緒に学びましょう。

2. トップダウン、ボトムアップ、逆算思考の違い

SCMの現場では、意思決定の方法として主に以下の3つが存在します。それぞれの特徴を理解することで、逆算思考がどのように位置づけられるかが見えてきます。

  1. トップダウン
    上層部がゴールを設定し、そこに向かう道筋やプロセスを指示する意思決定スタイル。

    • メリット:

      • スピード感がある。

      • 全体の統一が取りやすい。

    • デメリット:

      • 現場の実態や下層の意見が反映されにくい。

      • 形式的な対応になりがち。

  2. ボトムアップ
    現場での観察や課題を吸い上げ、意思決定につなげるスタイル。

    • メリット:

      • 現場のリアルな課題に対応しやすい。

      • 改善策が実行に移されやすい。

    • デメリット:

      • 全体最適を見失うリスクがある。

      • 意思決定に時間がかかり、スピード感が失われる。

  3. 逆算思考
    ゴールを明確に設定し、そこから逆算して必要なアクションや優先順位を見極めるスタイル。

    • メリット:

      • ゴール達成に向けた効率的な行動が可能。

      • 個々のアクションが全体戦略と一致しやすい。

    • デメリット:

      • ゴールが不明確だと機能しない。

      • 現場が逆算思考の前提条件を整えていないと動きづらい。

特にSCMの現場では、トップダウンで決められた方針を現場でボトムアップ的に補完する形が一般的です。しかし、この両者だけでは全体最適を見失うことがあります。ここに「逆算思考」を組み合わせることで、個々の作業が戦略的な意味を持つようになるのです。

3. 逆算思考の前提:ゴールと現状の明確化

逆算思考を実践するためには、次の2つが必須条件です。

  1. ありたいゴールを解像度高く描く

    • ゴールは、「こうなりたい」という未来像を具体的に設定することが重要です。「コストを削減する」ではなく、「物流コストを半年で10%削減する」「在庫日数を40日から30日に短縮する」のように数値化しましょう。ゴールが明確であればあるほど、現場での判断が容易になります。

  2. 現状を正確に把握する

    • 現状をできる限り数値化し、曖昧さを排除します。現在の在庫水準、リードタイム、輸送コストなどをデータで整理し、「今どこにいるのか」を可視化します。

さらに、組織内のコミュニケーションが重要です。階層化された組織では、上層部が描くゴールが現場に伝わらないことも多いですが、KPIや数値を共有し、現状をリアルに伝える仕組みを構築することで、逆算思考が機能しやすくなります。

4. 実例:シンガポールでの15カ国最適化プロジェクト

シンガポールで勤務していた頃、2000億円規模の事業会社で15カ国にまたがる在庫適化プロジェクトに携わりました。当時の最優先課題は、「Free Cash Flow(フリーキャッシュフロー)の改善」。しかし、現場では「どう削減するか?」という議論が錯綜していました。

ここで、逆算思考を提案しました。

  1. ゴールの明確化
    各国の在庫のDOH(Days on Hand:P&Gの社内指標で在庫金額を原価で割り戻したもの。在庫日数とほぼ同義であるが、ファイナンスの指標として使用)をターゲットとして設定。「在庫日数を40日から30日に短縮する」といった具体的な目標を立てました。

  2. 現状の把握
    各国の在庫水準やリードタイムを数値化し、どこに改善の余地があるかを明確にしました。

  3. ギャップ分析
    ゴールと現状の差を定量的に洗い出し、影響度の高い国から順に施策を進める優先順位を設定しました。

  4. 実行
    やみくもに、各国および製造拠点にて出来ることを実行することではなく、優先順位と数値的裏付けのある改善を実行することで、Free Cash Flowの改善が波及し、半年で全体のキャッシュフローが大幅に改善されました。

5. あなたの仕事に逆算思考を取り入れるために

逆算思考は、特別なスキルや完璧な組織体制が必要なわけではありません。むしろ、日々の業務に小さな工夫を取り入れることで、自然と身についていくものです。

ただ、多くの現場ではこうした課題も耳にします。

  • 「ゴールが曖昧で、どこを目指せばいいのか分からない。」

  • 「現状を数字で把握する仕組みがなく、感覚的に動いている。」

  • 「逆算思考を実践したいけれど、どこから始めていいのか分からない。」

私自身、これまで所属してきた会社や支援してきた組織で、同じような状況を何度も目にしてきました。それでも、できることから始めていくことで、確実に変化を生み出すことができます。

では、どこから始めればいいのでしょうか?

  1. 目の前の業務を可視化する

    • 日々行っているタスクをリストアップしてみましょう。その中で、どれがゴールに直結するか、どれが優先すべきかを考えるだけでも気づきがあります。

  2. 数値を意識して行動する

    • 例えば、「このタスクを1週間短縮したら、コストにどう影響するか?」「この在庫削減がキャッシュフローにどう効くか?」を数値で考える癖をつけてみてください。

  3. 小さな成功体験を重ねる

    • いきなり全体を変えようとせず、自分の業務範囲でできる小さな改善を実行し、結果を検証することが大切です。この積み重ねが、やがてキャリア全体を大きく広げる鍵になります。

  4. 行動を変えることで、自分の可能性を広げる

    • 皆さんの行動が、すぐに組織全体を変えることにつながるとは限りません。しかし、皆さん自身が意識して行動を変えることで、自分のキャリアの扉を開くことはできます。例えば、「ゴールを意識して動いている」ことが周囲に伝われば、プロジェクトリーダーとして抜擢されるチャンスが広がるかもしれません。


6. 次回予告:高度物流人材を紐解く

逆算思考を取り入れることができる人材は、組織にとって「変革を起こせる存在」として非常に重要です。しかし、ただ目の前のタスクをこなすだけでは、そうした人材にはなれません。

次回は、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)のイノベーション推進委員として昨年度に取り組んだ、「高度物流人材」の研究についてつづる予定です。特に以下のようなテーマに触れていきます。

  • 変革を担う物流人材に必要なスキルセットとは何か?

  • なぜ単なる作業者ではなく、意思決定を支える人材が求められるのか?

  • 実際に策定した9つのペルソナが描く未来の物流人材像。

逆算思考を実践し続ける中で、自分の役割がどのように進化していくのかを考えるヒントになれば幸いです。ぜひお楽しみに!


7. コメントや感想をお待ちしています

この記事では、逆算思考をSCMの現場に取り入れる重要性をお話ししましたが、いかがでしたでしょうか?
読んでくださった皆さんが、日々の業務やキャリアについて考えるきっかけになれば嬉しいです。

また、もしこの記事を読んで「こんなことを考えてみた」「これを実践してみようと思う」という気づきがあれば、ぜひコメント欄に書いてみてください。
あなたの一言が、私だけでなく、他の読者にとっても新しい気づきや学びにつながるはずです。

最後に、こんな問いかけを残してみます。

「あなたがゴールから逆算して動きたいと思うテーマは何ですか?」

短くても構いません。コメント欄にぜひ共有してください。
その一歩が、あなたのキャリアを大きく前進させるきっかけになるかもしれません。