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いっしゅうき 2021.03③

2021.03.10 WED
92日目です。池袋シネマ・ロサで、ルキノ・ヴィスコンティ監督『異邦人』デジタル復元版(1968年、イタリア・フランス)を観てきました。

内容に関してはついったにかなり書いたので、ここでは割愛したいと思います。ところでときおり挟まれるSEがなんだか『刑事コロンボ』味があり、そこだけなんだかおもしろかったです。ちょっとクライム・サスペンス要素を混ぜ込んだのでしょうか。それとも時代かな。監督のこだわりかもしれませんね。『世にも怪奇な物語』を観たときも思いましたが、少し古い作品を観ると、現代の感性との違いがいろいろあって興味深いです。

「池袋シネマ・ロサ」へ行くのは今日が初めてだったのですが、いやあ、いい映画館ですね! その名の通り池袋にある歴史ある映画館なのですが、西口方面の若干の治安の悪さであったり(さすがに夜にうろつく勇気はなかったので昼間に行きました。くたびれたおじさんが歩いていたり、居酒屋の店先で煙草を吸いながらご婦人がたが盛り上がっていたり、閑散とはしながらも独特の空気感を形成しているこの感じがたまらなく好きです)、併設されているゲームセンターに漂う「諦め」のムードであったり(ゲームの筐体前に座ったまま、プレイするでもなく虚空を見つめるお兄さんが散見され、非常に良かった)、少し時代を感じる建物の年季であったり、いちいち「好きだな~」と思いながら鑑賞を終えました。椅子もぎしぎししていてよかった。受付の方やスタッフの方々の雰囲気はあくまで柔らかく、排他的な感じもしなくて引っ込み思案にも優しい映画館でした。今後も定期的に通うと思います。なお写真は普通に撮り忘れました。おまえほんとなんのためにインスタ始めたんだろうね。お詫びに公式HPのリンク貼っておきますね。

人混みや飲み屋街の空気は苦手なのですが、若干荒れた商業エリアを歩くのは好きです(あくまで若干です。空気感を楽しむだけです!)。昼間の、ひと気のない飲み屋街などに言い知れぬロマンを感じます。うまく言えないのですが、なんというか、諦観や虚しさが漂っている空間が好きというか……誰も他人に興味がなく、一時しのぎになんとなくそこへやってきて、誰とも深い交流を結ぶことなくなんとなく時間を潰しているような、そういう無関心さにはどことなく魅力があるような気がします。伝わってる気がしねえな。

これはまた少し違うかもしれませんが、数年前、仕事の関係で一度だけ、夜の歌舞伎町を歩いたことがあります。引きこもりの筆者にとって普段なら近寄ろうとは思えないエリアなのですが、必要に迫られ、夜0時頃に、歌舞伎町のただなかにあるファ○マへ買い出しに行かなければならなくなりました。そのファ○マがまあすごくて、目の前の広場ではお兄さんたちが円になって地面に座り込み酒を煽り、別のお兄さんたちは喚声とともに赤い顔でスケボーを乗り回し、かと思えばおじさんお兄さんが建物の外壁に凭れかかって爆睡しているといった有様で、店内に入ったら入ったで外の広場から聞こえてくる各種環境音(爆音)をものともせず店員さんが涼しい顔で接客をしてくださり、疲れ切った顔で酒類を爆買いするお兄さんのうしろに並んでお会計を済ませた筆者に、淡々と領収書を渡してくださいました。つ、強い。プロだ。
万一絡まれたらどうしよう、とびくびくしながら広場を突っ切ったわけなのですが、案外まったく身体の危機を感じることはなく、それどころか広場にいる全員、店内にいた全員が他者に対してほとんど注意を向けていないその秩序のある混沌具合が、なんだか妙に魅力的に映ったのをおぼえています。おそらく今後も夜の街へ繰り出すことはないと思いますが、そういう「若干の治安の悪さ」に対する憧れみたようなものは、きっと一生持ち続けるのだろうなと思います。

2021.03.11 THU
93日目です。昨日の晩から「映画観にいこっかな~どうしよっかな~」と悩んでいたのですが、起床時、もし映画に行くなら出発しているべきである時間をとっくに過ぎていたので、おとなしく一日引きこもっていました。あと最近調子にのって映画館へ行き過ぎてわりと本気で金欠気味です。まあ本も買ったしね。文化的な生活を手離さずなんとか貧乏引きこもりライフを維持できるように、来月からはなにかしら工夫しなければなと思います。いやあ文化的な生活には金がかかりますね! 高等遊民になりてえな。

2021.03.12 FRI
94日目です。ひとつやらなければならないことを終えたので、しばらく存分に引きこもるつもりでアイスやチー鱈を買い込んだのですが、気付いたときにはすべて食べ終わっていました。なんで? 3日分買ったんですけど? 明日からおやつがないが。

2021.03.13 SAT
95日目です。筆者の住んでいる地域では朝から雨が降っていたのですが、井上宮『ぞぞのむこ』(光文社文庫、2020年)を読んでいたら無性に雨のなか散歩に出たくなり、近所の図書館までふらふらと散歩にいってきました。結局本も借りてしまい、濡らさないように気を付けながら遠雷が聞こえるなか帰ってきました。本はすべて無事でしたが足下はべっしゃべしゃに濡れました。

帰宅後は、借りてきた本のうち、砂川文次『小隊』(文藝春秋、2021年)を一気読みしました。ついったにも書いたとおり、舞台となるのがおもいきり筆者の地元付近でして、読んでいて妙な親近感をおぼえながら夢中になって読破しました。ちなみに地元は完膚なきまでに破壊し尽されました。

自衛隊が主役となる物語だったのですが、そういえばたしかに地元にいた頃、さあスーパー行~こう! と母の運転する車に乗っていたら、自衛隊のおにいさん方が乗った迷彩柄のごっつい車が数台、我が家の車のまえに並んで走っていたりすることがあったなあと思い出しました。友人の親御さんでも自衛官の方が結構いた気がします。そう考えると、当時は当たりまえに暮らしていた街でしたが、なかなかに稀有な環境だったのだなと感じます。こんなすさまじい物語の舞台に選んでいただき(また地元の空気感を完璧に再現していただいて)ほんとうにありがとうございます作者さん!

この『小隊』、なんでも芥川賞候補のひとつであったそうで(知らなかった自分が恥ずかしいったらない)、実際とってもおもしろい作品でした。

個人的には、直木賞候補作より芥川賞候補作のほうが好みの作品が多いです。純文学作品は作者さんが意図していないとしても、往々にして怪奇幻想みの強い作品が多く(まあこれもまったくもって個人の感想なのですが)、がきんちょの頃訳もわからず読んで少なからず影響を受けました。
なかでも好きだったのが奥泉光さんの作品で、恥ずかしながらもうあまり内容は憶えていませんが『石の来歴』にショックを受け、以降目に付く/手に入る(あまり長くない)奥泉作品をいろいろ読んだりしていました。『虫樹音楽集』や『浪漫的な行軍の記録』、『シューマンの指』なんかは読んだ記憶があります。創元推理文庫から出ていた『ノヴァーリスの引用/滝』は表題作のどちらも非常に好きで、特に「滝」は修験道の要素を持つ新興宗教のなかで青少年が繰り広げる愛憎、そしてあまりに救いのない展開にぞっとしつつも大変興奮した記憶があります。最低かな?

奥泉さんは純文学とミステリが融合した作風を生み出したことで有名かと思いますが、幻想みのある作品も非常に魅力的です。また耽美な要素もかなり多いですので、当時のがきんちょはいけない気持ちになりながらも美(鬱く)しい世界観にどっぷり魅入られていました。最近読んでないな。新作とか出してらっしゃるんでしょうか。既刊でもまだ読んでいない作品がいっぱいあるので、また読みたいなと思います。

2021.03.14 SUN
96日目です。コンビニにでもいこうと服を着替えたところなんだかジーンズの一部に違和感をおぼえ、なんとなしに指先で触れてみたら思いきり脚の皮膚に触れました。尻ポケットの下に完全に穴が開いていました。おいまじか。いつからだ。いつから俺は社会的死を体現して外を歩いていた?
おそらくこの冬にできた穴だろうし、冬はずっとコートを着ていたからたぶんきっと社会的な死は免れていたと思うので、とりあえず今日出掛けるまえに気付けてよかったと思いました。学生時代からずっと穿いていたよれよれの一本だったので、よくこれまで働いてくれたねという気持ちです。まあまだ全然穿けるので部屋着として着続ける予定なんですけど。引きこもりにとって新しいズボンを買いに行くことほどハードルの高い行為はなかなかないので(買うだけならまだしも、試着のうえ丈を詰めてもらうというとてつもない大仕事があるので)残っている無事なジーンズをより大事に使おうと堅く決心しました。

2021.03.15 MON
97日目です。キネカ大森へ、セリーヌ・シアマ監督『燃ゆる女の肖像』(2019年、フランス)を観にいってきました。ついったで複数名のフォロワーさんが絶賛してらしたので、この機会にと思い行ってきました。

普段恋愛に関わるものをまったく観ないので不安だったのですが、透き通るような映像美も素晴らしく、フォロワーさんがお褒めになるのもわかるなあと思いました。個人的に海が大好きなので、なかなかに荒れている海の様子がたまらなかったです。音楽の使い方もよかったなあ。すごく印象的な使い方をしていました。あの焚火のところの歌、フルサイズで聴きたいな。

2021.03.16 TUE
98日目です。『K』というアニメを観始めました。2012年に第一期が放送されたそうです。以前母から「おまえの好きそうな白くて細いキャラクターがいるよ! 声帯は浪川大輔さんだよ!」と猛プッシュされ、白くて細ければ好きになるわけじゃないし浪川さんだから推しになるわけじゃねえんだよな……と思いつつにこにこスルーしていたわけですが、カミュの『異邦人』を読んでいるうちになんだかもっと楽しいもんが観たいな……という気分になり、そこで存在を思い出し勢いで視聴を開始しました。『異邦人』のかわりに『K』を観るって我ながらなんなんだろうな。

現時点で第1期の半分くらいまで観ましたが、なかなか声優陣が豪華、かつ女性キャラも男性キャラも魅力的で、いろいろな意味で「アニメだな~」という気分になれます。いやあおもしろいです。謎めいた部分が多く、また主人公の得体の知れなさも個人的になかなかツボです。記紀神話に関わる要素もあるので、和のテイストが好きな方にも刺さるのではないかと思います。見目麗しい人々が出てくるという前情報で躊躇していましたが、キャラクターの見目を楽しむのはもちろん、純粋にストーリーやキャラクターの個性を楽しめる作品だと思います。某呪術漫画の地獄を直視するのがつらすぎて最新刊すら購入できていない筆者にとってはよい気分転換になっております。頼むから東京が焼け野原になったり超強い味方が箱詰めされたりしないでくれよ。しないよな?
どうやら1話だけYouTubeで観られるようなので、御興味ありましたら何卒。

(後日追記:ただ、一部演出などは「う〜ん時代を感じるな〜」というようなものもあります。価値観というかエンタメ的演出というか、そういう話です。このあたりは好みが分かれるかなと思います。)

ほんとうにありがとうございます。いただいたものは映画を観たり本を買ったりご飯を食べたりに使わせていただきます。