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いっしゅうき 2021.03②

2021.03.03 WED
85日目です。生まれて初めて、かの「早稲田松竹」へ行きました。高田馬場にある名画座映画館です。一見公民館のような(こんなこと言ったら怒られるかな。でも地元にあった公民館にそっくりだったんですよ)素朴な建物で、受付の方も非常に優しくて、初めての場所・初めての経験が大の苦手な筆者にとっては大変ありがたかったです。

今週の上映は『ヴィタリナ』『イサドラの子どもたち』の2本です。どちらも聞いたことのないタイトルでしたが、早稲田松竹さんのついったで拝見した予告編(特に『ヴィタリナ』)の映像が美しく、また「喪失」というテーマが非常に心にきたので、いそいそ観にいったわけです。

まず『ヴィタリナ』(ポルトガル、2019年)です。ペドロ・コスタ監督による、リスボンの移民街・フォンタイーニャスを舞台にした物語です。

映像がほんとに……ほんとにすごかった……移民街の荒廃した、というか、疲れ果てたような雰囲気と、濃厚な闇の表現が非常によく融合しており、いっちばん最初のシーンから「あ、これ好き」と思いました。疲れ切った表情の人々がそれぞれの家へ帰るシーン群では、各人の家庭環境や暮らしぶりを、生活音や家の様子に現れているのが興味深かったです。
台詞が少なく、行間へ思いを巡らせるようなつくりの作品なので、なかなか難解ではあったのですが、人生に疲れ果ててしまったような登場人物たちの表情や言動が心に染み入るようでした。やるせないというか、苦しいというか……生きる苦しみが詰まったような作品でしたが、主人公であるヴィタリナの毅然とした生き方に少しだけ救われるような気持ちになったのも事実です。ただ、とある登場人物に終盤近くで起きた悲劇が個人的にあまりにかなしくて、直前のヴィタリナの台詞も相まって、「どうして……どうして……やっぱりこの世はクソ……」と思いながら、画面に広がる美しい闇をぼうっと眺めるしかできませんでした。やっぱりね、この世はクソだよ。悲しくてかなしくて、それでもやっぱり美しい作品でした。
なんというか、以前わけもわからずノリで鑑賞したタルコフスキー監督の『ストーカー』を思い出しました。難しい作品で、理解できたとは到底思えないのですが(あと雰囲気に呑まれてたびたび意識を失ったんですが)、美しい映像、それからどこか悲しくて侘しい世界観、というのが、個人的には少し似ているのかなと感じます。といってもずいぶんまえに観たので語れるほど覚えていないんですけどね、『ストーカー』。こんなタイトルですが、一方的に相手をつけ回す犯罪行為のアレではありません。もっかい観てみようかな。また寝ちゃうかな。


次にダミアン・マニヴェル監督『イサドラの子どもたち』(フランス・中国、2019年)です。上映時間130分の『ヴィタリナ』のあとに観たので、84分という長さがとってもコンパクトで、けれどしっとりとした柔らかい悲しみと救いを感じる作品でした。あとこちらも映像が綺麗だった。

ダンスをテーマにしている作品だけあって所作のすべてが美しく、また同じダンスを踊るにしても登場人物それぞれで表現の仕方が異なるのが、登場人物たちの性格や立場、感情を表現しているようで非常に興味深かったです。普段筆者は文章を書く人間なので、台詞や説明ではなく、こうして映像・所作でひととなりを表す技術というのは新鮮でしたし、映画(そしてダンス)ならではの方法だなあと勉強になりました。文章にも落とし込めればおもしろいなと思います。じゃあなんか書けやと言われてしまえばなにも言えないんですけども。
大きく3つのパートに分かれて描かれていく物語でしたが、個人的にはやはりいちばん最後に出てきた、観客の女性の物語が印象に残っています。もうなんか……泣いちゃった……がんばって落涙は堪えましたが完全に目の前は滲んでいました。彼女のパートにはほぼ台詞がなく、彼女の表情や視線、所作から感情を推し量るしかないのですが、普段表に出さず秘めている彼女の過去・かなしみが、ダンスを通じて溢れ出したような演出がにくいな~と思いました。感想へたくそかな。
筆者は学生時代からダンスの授業が嫌いできらいで、いっそ憎くすらあったのですが(でも観るのは好きです。かっこいいな~すごいな~と思いながら口半開きにして観てます)、この作品を観て、ああ、鼻歌を歌うみたいに、ダンスが自然と生活のなかへ溢れてくることもあるのかと思いました。筆者にはまだそういう経験はありません。芸術の意義だとか力のようなものは、そういう日常のふとした場面で立ち現れてくるものなのかなと感じました。いやあいい映画だったな。

来週の2本立てもおもしろそうなので、早稲田松竹さんにはこれからも通いたいと思います。キネカ大森といい早稲田松竹といい、推し映画館が増えるというのはいいことです。都会はいいなあ。いい映画館いっぱいあるもんな。名画座文化も素晴らしい。今後も少しずつ開拓してみたいです。

2021.03.04 THU
86日目です。今朝、キネカ大森で上映中のセルゲイ・ロズニツァ監督『アウステルリッツ』の、上映期間が今日までだったことに気付きました。うわ~~~まじか。やっちゃったなあ。完全に勘違いしていて、てっきり明日まで上映していると思っていたんです。今日は一日用事があって動けないから、水曜(つまり昨日)に早稲田松竹に行って、金曜にキネカ大森に入り浸ろうと思っていたんです。わ~~~せっかく『国葬』も『粛清裁判』も観たのに、三部作の三作目を見逃すなんて。まったく、自分の粗忽さが嫌になりますね。今後気を付けたいと思います。まあ一生治んねえんだろうな。しょうがないね。

2021.03.05 FRI
87日目です。一昨日ちょっぴり『ストーカー』という映画について書いたと思うのですが、その後その作品の原作が小説であると知り、さらに現在でも販売されているということで、なんとなく通販で購入してしまいました。

そのほか、ついったで拝見して気になった小説やら、ロズニツァ作品の影響で興味が湧いたソ連・ロシア史についての新書もいくつか一緒に買いまして、それが本日届きました。わ~久しぶりにいっぱい買っちゃったな。これ読めんのかな。積読が増えていく一方なのですが、どれもおもしろそうなので、なんとか少しずつ読みたいなと思います。
ここ数年で、読書スピードが格段に落ちました。中学生のときが最速だったな。まあ内容を理解していたのかといわれると「???」という感じなんですけど。最近全然本を読んでいないので速力が落ちるのは当たりまえっちゃ当たりまえなのですが、なんとか往時に近付きたいなと切実に思っています。



2021.03.06 SAT
88日目です。作業をしながらBGMとして怪談朗読動画を流していたんですが、とある一編があまりに超展開で、聞き流したのち一拍遅れて「は?」と顔を上げ、じわじわ理解してから「おい!! おいてめーこのクソ野郎!!」と思いました。まさかそんなオチだとは思わんだろうがよ。こういう話大好きです。タイトルは「ストーカー」、以下のリンクの4話目です。なんか最近「ストーカー」って単語と縁があって嫌だな。



2021.03.07 SUN
89日目です。職場からの帰り際、ひょんなことから職場の方のひとりがかなりのシャーロキアンと判明し、20分近くホームズ談義で盛り上がりました。なんでもホームズ好きが高じてイギリスに行ったことがあるとか。すごいですね。どの話が好き?と訊ねられたので、ぱっと思いついた「オレンジの種五つ」を挙げたら、「渋いね~!」と言われました。終始不気味でなにも解決しない、後味の悪い話だったので印象に残っています。あとはポケットのなかのコインやら海底の牡蠣やらのうわごとをしゃべり続けるホームズが見られる「瀕死の探偵」や、わ~やべ~~しぬかと思った!みたいなテンションで(たしか)窓を蹴破ったりする「悪魔の足」も好きです。「最後の挨拶」も好きだったなあ。長い長い物語のおわりとしての余韻がとってもよかった。
筆者はあくまでライトなにわかシャーロキアン(というかホームズファン)なのでそこまでディープな話ができるわけではないのですが、それでも普段ホームズの話をできる機会がなかなかないので、お互いずいぶん盛り上がってしまいました。結論としては「映像作品から入るならジェレミー版ホームズがくせがなくてよい」ということになりました。もうここ数年読み返しておらず忘れている話も多いので、今度改めて読み直してみたいと思います。

2021.03.08 MON
90日目です。先週書いた『死』を読み終え(おもしろかったです)、今度は『非業の死の記憶 大量の死者をめぐる表象のポリティックス』を読み始めました。そういう本ばっか読んでるな。

その名の通り、戦争や災害、テロリズム等々、さまざまな要因によって命を奪われた大量の死者たちを巡って、慰霊や追悼、記録や記憶の問題などを各執筆者がそれぞれの領域から述べている論集です。日仏間の国際シンポジウムがもとになっているということで、日本の研究者のみならず海外(フランス)の研究者の論文も多数収録されています。専門領域も人類学、民俗学、宗教学、歴史学など多岐に渡り、舞台(?)も日本、インド、イスラム等々幅広いので、読んでいて一向に飽きません。ひとつの論文も短めなのでさくさく読めます。難しいのは間違いありませんが、死生学や慰霊の問題に興味のある方は読んで損はなのではないかと思います。なお、2010年の発刊なので、東日本大震災以前の死生学の関心がどういったところに向けられていたのかがわかって興味深いです。なんか急に真面目そうな話してどうしたの?(わたしにもわかりません)

2021.03.09 TUE
91日目です。買い出しにいったついでにふと思いたって、以前どこかで見た「パスタソースでつくる炊き込みご飯」なるものをつくってみることにしました。よく聞くのが明太子ソースを使うものなので、素直に明太子ソースを買ってきました。

作り方に関しては、「パスタソース 炊き込みご飯 明太子」みたいに検索すればいろいろ出てくるのですが、「ググってね!」で終わらせてしまったら読んで下さっている奇特な方が「この日記の意味#とは」といった気持ちになってしまう可能性があるので、筆者が参考にした作り方を以下に記しておきます。

〈用意するもの〉
・米(1合)
・パスタソース 明太子(1人前)
・水(1合分)

〈つくりかた〉
①お米1合を研ぐ。
②お米に水を1合分入れる。
③パスタソース1人前をお米に混ぜる。
④炊く。

以上です。この世のなによりも食事への意欲に乏しい筆者でも簡単にできる、非常にやさしいレシピです。筆者が買ったソースは2人前だったので、お米も2合にして挑みました。パスタソースを混ぜ込んだ時点では、パスタソースぶんの体積でずいぶん水嵩が増しており、「あれ、これおかゆみたいにならない……?」と不安だったのですが、いざ炊きあがってみると多少ふわふわしているもののまったく気にならず、むしろ食べ応えがあってとってもよい出来栄えでした。もしかしてわたし天才なんじゃねえかな。

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なんだこの虚無の具現化みたいな夕飯は。インスタのフィルターをばりばりにかけてみたわけですがずいぶん発色のよい唐揚げになりましたねという気持ちになります。この唐揚げはパスタソースと一緒にスーパーで買ってきたやつです。215円でした。

筆者の見栄えをどうにかしようという意欲の欠如のせいで、見た目こそ虚無ですが、味はほんとうに美味しかったです! 買ったパスタソースが「クリーム増量!」と謳っていたため、想像よりもホワイトソースの風味が強く、ドリアを食べているような気持ちでした。ふわふわだったこともあって満腹感も予想以上でした。いや~これ毎日食ったら確実に太るな! 罪の味がします。最高です。クリーム少なめにしたらまた違った風味になるのかなと思います。試してみたいですね。
余ったぶんの炊き込みご飯は冷凍して明日以降消費する予定ですが、解凍したこのご飯がどんな食感になるかがいまのところの懸念です。水気が多かっただけあって、レンジで温めたら固まってめこめこになってしまう気もします。明日の晩ご飯が楽しみです。なおなんかそれっぽいこと言ってますがまっっったく料理をしない人間の戯言なのでご放念ください。戯言を1000字以上読ませるって何?



ほんとうにありがとうございます。いただいたものは映画を観たり本を買ったりご飯を食べたりに使わせていただきます。