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ノアの「あ」 #05

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もはや都市伝説級の家系の人に出会うとは思わなかった。ただ、気になるのは「祖」だということ。
鼻の軟骨コリコリが、体の震えに呼応するかのように大きくなってきた。
「シロートシルト老、一つお聞きしてもいいでしょうか?」無意識のうちに敬語になっている。
「そこにいる、タマーネギーさんやクロックラーさん、おそらく他の3人も、祖ですよね?」
「おお、さすが、博識だのう」
「みなさん、おいくつですか?」聞くのが怖かったが、聞くしかなかった質問だ。
空気が固まった、ように感じた瞬間、空間が数千人の笑い声に包まれた。
「それを聞くのは野暮ってものじゃ、察しはついているじゃろ・・・」
「はい・・・」いつの間にか、鼻の軟骨コリコリはやめていた。数千人の笑い声に負けじと、ただただ身体がいや心が震えた。

「こ、洪水起こすんですか?」
「いや、洪水はおこさん」
「せっかく、人間自身の手でここまでの文明を築いたからのう、壊すのは勿体ないのじゃ、それにこの先どこまで発展するか見てみたいし」
「じゃあ、ノアは必要ないですよね?」
「いや、それが必要なのじゃ」
「そもそも、人間の育成実験に失敗か、気に食わなかったら滅ぼしては作り直しての繰り返しでしたよね?」
会場がぴりつく、怖い形相で立ち上がってにらむもの、こちらに攻撃しようとしてくるもの、大声でけんかを売ってくるものなどがでてきた。
シロートシルト老が右手の人差し指を挙げた瞬間、喧騒は止まった。
「みな、怒ることでもない。本当のことなのだから。ノアは事実確認をしているだけじゃ。」老人は一瞬鋭い眼光を放った。
「・・・」うなずくしかできなかった。けんかを吹っ掛けたら、こちらが即死だったのをシロートシルト老が救ってくれたことになった。

マカはズマゴの後方で、シロートシルト老とのやりとり見守っていた。
ズマゴが興奮するのも無理もない、要はこれまで神話や古代史で語り継がれていたことと自分の仮説の答え合わせをしているのだから。
世界の人々が知ったら、考古学者は職を失い、宗教のトップは信者たちの暴動に巻き込まれ、都市伝説やオカルト好きなやつらは、泣いて喜ぶに違いない。混乱が混乱を呼び、戦争に発展するぐらいの案件だ。

シロートシルト老は、ズマゴを、正確に言うと、ズマゴの瞳の奥を覗き込んでいた。瞳の奥に潜む影を注視していた。
影、黒い後ろ姿のシルエットを追いかけようとする。
手を伸ばせば伸ばすほど、シルエットには届かない。いや、シルエットは動いてはいない。むしろシロートシルト自身が下がっていっているようだ。
だが、伸ばす手だけ伸びて行っているように見えた。

一度、目を瞑り、回顧録をシャットアウトした。
そして、改めて、ズマゴを見据える。


〈つづき〉


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