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ノアの「あ」 #04

▼前回のお話



「わしが話しておる」手を振っている。
「あ、どうも」と、僕はうなづいた。
「日本語お上手なんですね!?」
「わしは、日本語でしゃべってはおらん」
「え?でも、聞こえるのは日本語ですよ?」気づく、
「あ、誰か同時通訳してくれているんですね?ありがとうございます。」とお辞儀をする。
「でも通訳の人、そこまで芝居がからなくてもいいですよ?」
僕は、貴族風の外国人のキャラクターに合わせた言い回しで、通訳してくれているのかと思った。

「芝居とはどういうことじゃ?」
僕はにやけながら、「それですよ、わしとか、~じゃとか・・・」
「キャラクターに寄せているんですよね?大丈夫ですよ、普通で」
「わしは、いたって普通じゃ。しかも通訳なぞおらん」
「え?だって、日本語で聞こえますよ」
「bhfドhfszybfdysfysycfybdsbふぃfぅkfkはsd」
「はい・・・?」聞いたこともない言語だった。というか、今のは言語なのか、ノイズだったのか首をかしげてしまう。
「通訳はおらんが、通訳機はある」
「今の何語ですか?」
「そうじゃのう、地球の言葉ではない、とでも言っておこうかのう」
「え?」混乱した。何を言っているんだ、この人は。
「話がそれたのう。」よく見ると、口が動いていないように感じる。
「わしの名は、マイアー・シロートシルト。シロートシルト家の祖じゃ。」
「シロートシルト家・・・」どっかで聞いたことがある。
「日本人にはあまり馴染みはないかのう。まあ、あまり表舞台に出て来ないからのう」
「表には出てこない・・・つまり裏にいることが多い・・・」鼻の軟骨をコリコリさせる。考えを巡らせるときの、ズマゴの癖だ。

おもむろに、マイアー・シロートシルトを名乗る老人を見上げた。すると、今まで何かに圧倒されて見えてなかったものが見えてきたようだ。
自分の頭で考え込んだおかげだ。シロートシルト老の下の段に、日本人の誰もが知っている顔が見えた。
いわずもがな、「タイガンプ大統領・・・」の隣りに、
「タマーネギー・・・と、クロックラー、ということは、おそらくカルガモン、ズボンポン、ユウメロン」アメリカの五大財閥だ。
が、タマーネギーとクロックラーはもうすでに故人のはずだ・・・待てよ、さっき、なんて言った。
「・・・シロートシルト家の祖じゃ・・・」祖って言葉、後世の人がその歴史を語るとき使うはずだ。
自分がその立場なら、初代とか、使う。
アメリカの大統領、五大財閥よりも、えらい立場にいるとなったら、僕は一つしか思い浮かばない。
歴史が動くとき、その陰に必ずいるという家系・・・
「シロスチャイルド家!?」
「その通りじゃ。日本では英語読みの方が有名だったか」
開いた口が塞がらないとはこのことだった。


〈つづく〉

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