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【創作エッセイ】アイドルになれたら⑥

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。


胸のざわめきは、善か悪か。


ホテルに戻っても、一切心が休まらなかった。
サセンに目をつけられてしまった以上、どこにいても身の危険を感じざるを得なかった。

時刻は夜の7時。静かすぎる部屋が落ち着かなくて、テレビをつけた。
今日は平日。韓国では月曜を除き、毎日何かしら音楽番組をやっている。

チャンネルを合わせると、新しいガールズグループのデビューステージが流れてきた。平均年齢は17.4歳。全員未成年だそうだ。
明るくポップな音楽に合わせて笑顔はじけるパフォーマンスが繰り広げられていく。

うゆ「…可哀想」

無意識のうちに言葉を発していた。
違う、そんなことが言いたかったわけじゃない。もっと「可愛い」とか「ダンスが上手い」とか「キャッチーな曲だ」とか、ありふれた感想を言いたかっただけなのに。

今この子たちにサセンがいるかはわからないけど、これからそういう人たちに苦しめられるのではないかと思うと心配せざるを得なかった。

おもむろにチャットアプリを開く。新しいプロフィール欄にジヒョンの名前があるということが、この不安から逃れられないという現実味を強めた。

うゆ「ジヒョン…こんなに怖い思いを毎日してるんだよね…」

そう思うと、やはり出会うべきではなかったんだろうと落ち込む。


もう寝ようと思いテレビを消すと、着信が鳴る。
恐る恐る画面を見ると、ジヒョンの名前があった。

うゆ「もしもし…」
ジヒョン「うゆさん、ジヒョンです!今どこですか?!」

いきなり大声が耳に飛び込んできて、つい反射的にスマホを遠ざけた。

うゆ「えっと…ホテルに戻りました」
ジヒョン「本当ですか?!よかった…」

心底安堵したような声に、胸が締め付けられる。
撮影終わりの一件を、彼は知っているのだろうか。

ジヒョン「僕も今、会社に戻りました。ごはんはもう食べましたか?」
うゆ「いえ、まだです」
ジヒョン「よかったら一緒に食べませんか?」

行きたい気持ちはあるけれど、今日の件がひっかかっていてすぐに返事ができなかった。

ジヒョン「…もしかして具合悪いですか?」
うゆ「いえ、その…」

もしまた2人でいるところをサセンに見られたら、次こそ命はないかもしれない。そんな恐怖が頭と心を冷やしていく。

なかなか本心を告げられなくて口ごもっていると、先にジヒョンが口を開いた。

ジヒョン「あの、実はうちの社長がうゆさんに会いたいっておっしゃってて、社長も一緒に食べるんですけど…」
うゆ「あ、じゃあご一緒します」

思わぬ言葉に反射的に二つ返事する。
ジヒョンもびっくりしたのか、遅れて安堵の笑い声が聞こえた。

ジヒョン「今から迎えに行きますね。着いたらまた連絡します」
うゆ「わかりました。待ってますね」

電話を切ると、すぐに身体だけシャワーを浴びて私服に着替えた。
誕生日にレミがくれた水色のシャツに白いのスラックスを合わせ、ぺたんこ靴を合わせて動きやすく。

最後にお気に入りのコロンをさっと纏ったら、準備完了。
キャスケットを目深に被り、足早に部屋を後にした。



キャプション

「U-MELLOD」(ユーメロディ)
由来:「君(U)に向けて(-)音楽(MELLOD)を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」(ユーハーモニー、通称ユハモニ)。

・ジュンホ:95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ:98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク:99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン:00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ:01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。


「WellBee」(ウェルビー)
由来:「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”(=ウェルビーイング)を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる(doing WELL + BEcomE)」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」(ウィービリー)。

・レミ:99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ:01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ:02年生まれの01Line(早生まれ)。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ:04年生まれの03Line(早生まれ)。メインラッパー。
・ヒヨ:04年生まれ。マンネ。メインボーカル。

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