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【創作エッセイ】アイドルになれたら⑦

※作中に登場する団体や固有名詞等は、現実とは一切関係ありません。全て「うゆ」の夢をもとに書かれたフィクションです。


嘘は、七難隠せるだろうか。


ロビーに出ると、ジヒョンと社長と思しき男性が笑顔でこちらに歩み寄ってきた。

〔〕:韓国語
ジヒョン「うゆさん、こちら社長です」
社長「〔うゆさんはじめまして、社長のソンと申します〕」
うゆ「〔はじめまして、WellBeeのうゆと申します。お目にかかれて光栄です〕」
社長「〔おお、韓国語がとてもお上手ですね!ジヒョンから聞いてた通り!〕」
うゆ「〔ありがとうございます〕」
ジヒョン「〔僕が通訳しようかと思ってたんですけど、必要なかったみたいですね(笑)〕」
社長「〔こうして積極的に外国語を勉強する若者が増えて嬉しいね〕」
うゆ「〔ジヒョンさんも日本語上手ですし、これからも興味を持ってくれる層がどんどん増えてくると思います〕」
社長「〔2人が架け橋になってくれたら本望だよ〕」
ジヒョン「〔頑張ります!〕」
うゆ「〔私も頑張ります…〕」


少しして、車に誘導される。一番最初に入り最後列の奥に座ると、次いでジヒョンが隣に座ってくる。

ジヒョン「狭くないですか?大丈夫?」
うゆ「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

車の大きさは8人乗りくらいで、3人なら座ってくつろぐには十分広かった。そのはずだった。

最後に社長が中間の列に乗り込み、シートベルトをしめる。

社長「〔狭かったら申し訳ないです。一番小さい車しか空いてなくて〕」
うゆ「〔いえ、十分快適です。ありがとうございます〕」

これが一番小型なのが信じられない。いつも乗ってる銀色の車はマイクロバスなの???
ていうかこんなに空いてるのに何故ジヒョンは隣に座ってくるの???

ぐるぐると思考を巡らせていると、ジヒョンが口を開いた。

ジヒョン「車、苦手ですか?」
うゆ「えっ…あ、平気です」
ジヒョン「具合が悪くなったら僕に言ってください」
うゆ「あ、ありがとうございます…」

おかしい。やはり理解できない。
私とジヒョンは広告撮影で一緒になっただけの関係で、ここまで距離を詰める必要も気を遣われる必要もない。それなのに、こんなに気を遣ってくれるのは何故なんだろうか。

耐えられなくなった私は、意を決して名前を呼んだ。

うゆ「あの、ジヒョンさん」
ジヒョン「どうしました?」

彼の顔を見た瞬間、言葉を失った。
彼の目は澄んでいて、黒いバケットハットから覗く青い髪色が神秘的な光を放つ。

うゆ「...やっぱり何でもないです」
ジヒョン「本当ですか?何かあったんじゃないんですか?」

「何かあった」という言葉にドギマギする。
でもきっとジヒョンが聞きたいのはあのことじゃない。だから必然的に何も言えなくなる。

うゆ「大丈夫です、すみません」

逃げるように会話を終わらせ、到着まで目を閉じておくことにした。


ジヒョン「うゆさん、うゆさん」

ジヒョンの声で目を覚ます。気がつくと、街外れの食堂の駐車場に車が停まっていた。

うゆ「えっと…到着しました?」
ジヒョン「はい、お疲れ様でした」
うゆ「すみません、寝ちゃってて…」

すっかり寝ぼけた声で急いで謝ると、ジヒョンが眉を下げた。

ジヒョン「うゆさんは、なんでずっと謝ってるんですか?」

意表を突いた質問に、すぐに言葉が出せない。
自分の負い目は明確なのに、ジヒョンが何を考えてそう聞いてきたかが読めなくて不安になる。

ジヒョン「僕は、うゆさんには笑顔でいてほしいです。“ありがとう”って言って笑っててほしいです」

まっすぐな言葉に、思わずうろたえる。
嘘をつくことには慣れた人生だけど、それを無意識のうちに表に出してしまっていたことに驚いた。

うゆ「...お気遣いありがとうございます、ジヒョンさん」

そう伝えると、まだ少し不服そうだった。

うゆ「あの、もしかしてまだ何かダメなところありますか…?」

ジヒョン「なんか…僕、もっとうゆさんと、近い感じ?になりたいんですけど、ダメですか?」

近い感じ、すなわち親しくなりたいということだろう。一線で区切って絶対に馴れ合わないよう意識してきた私とは真逆の考えだ。

もちろんジヒョンの思考も理解はできる。1歳違いの外国人とお互いの言語が通じて盛り上がり、撮影でも打ち解け、これから一緒にごはんを食べる。これで親しくなる気が無い方が変だ。

でも、ごめんなさい。私はジヒョンに近づけない。どんな結末になるかは、当事者である私が一番よくわかってる。

うゆ「...ありがとうございます」

それだけしか言えなかった。



キャプション

「U-MELLOD」(ユーメロディ)
由来:「君(U)に向けて(-)音楽(MELLOD)を届ける」という意味を持つ5人組ボーイズグループ。
どんなコンセプトも消化するため、天才アイドル集団という異名を持つ。
ファンダム名は「U-HALMONY」(ユーハーモニー、通称ユハモニ)。
・ジュンホ:95年生まれ。長男。メインラッパー。
・シウ:98年生まれ。リードボーカル。
・ジョンソク:99年生まれ。リーダー。メインボーカル。
・ジヒョン:00年生まれ。メインダンサー。
・チャンミ:01年生まれ。サブラッパー、ビジュアル担当。愛称はローズ。

「WellBee」(ウェルビー)
由来:「音楽を通じて”自分らしい豊かな生き方”(=ウェルビーイング)を実現する」「全てをこなすオールラウンダー集団になる(doing WELL + BEcomE)」の意味が込められた5人組のガールズグループ。
現実に少しだけ幻想が混ざったような世界観を得意としており、ダイナミックなダンスと繊細かつ緩急の効いた歌声に定評がある。
ファンダム名は「WeBelieve」(ウィービリー)。
・レミ:99年生まれ。長女兼リーダー。ビジュアル担当。リードダンサー。
・うゆ:01年生まれ。WellBeeの音楽PD。リードボーカル。
・ルイ:02年生まれの01Line(早生まれ)。メインダンサー兼サブラッパー。
・カヤ:04年生まれの03Line(早生まれ)。メインラッパー。
・ヒヨ:04年生まれ。マンネ。メインボーカル。


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