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悪いのは、ヴィランかヒーローか。:僕のヒーローアカデミア

「ヒーロー」はなぜ生まれるのか。それは平和を脅かし、罪のない人をかどわかし、害を与え、生を与奪する輩から人々を守るためである。有り体に言えば、正義は常に悪より生まれ出づる、といったところか。

では、ヒーローは生まれるべきではなかったか。悪いのは、ヴィランなのか。

「僕のヒーローアカデミア」の世界では、「個性」があまりにも強大なのである。では、ヴィランとはなんだろうか。個性で人を傷つけてしまう人?だとしたら、その気が無くても、人を傷つけてしまう個性の持ち主は、自動的にヴィランということになってしまうのだろうか。

国家公認の暴力装置としての「ヒーロー」もまた、個性で人を傷つけていることには変わりない。でも、ヒーローはヴィランではないね。不思議だ。同じように個性を使って暴力を行使するヒーローとヴィラン、そこに明確な境界線が高々とそびえたっているというわけではなく、むしろヒーローとヴィランは、非常にその差が曖昧な存在なのである。

そこに大きな差があるとすれば、では一体何だろうか。

一方は、既存の体制を打ち破ろうとする者たち。すなわち、ヒーローの残滅をもくろむ。一方は、既存の体制の維持。すなわち異端の排除。しかしどうだろ、ヴィランも、ヒーローも、自分たちの生き易い世界を望み、その障害を除くという点においては、やはり差がないような。

もし死柄木弔が、触れた者を崩壊させる個性ではなく、ワン・フォー・オールのような個性を持ち合わせ、弔自信を受け入れてくれる環境にあったとしたら、どうなっていただろうか。

もし分倍河原仁が、あらゆるものを二倍にする個性ではなく、ただ水を氷に変化させる個性を持ち、自分の仕事場で、粗相をしなかったとしたら、どうなっていただろうか。

もし渡我被身子が、血を吸血した人物に化けることができる個性ではなく、人を笑わせる個性を持ち合わせ、彼女が生き易いような環境にいたとしたら、どうなっていただろうか。

もし飛田弾柔郎(ジェントルクリミナル)が、触れたものを柔らかくする個性ではなく、人の免疫を活性化させる個性を持ち、ヒーローを傷つけることがなく、社会的に死ぬこともなかったら、どうなっていただろうか。

そしてもし緑谷出久が、無個性のままで、自分を認めてくれることがない環境で育ったとしたら、オールマイトに出会うことが無かったら、どうなっていただろうか。


彼らは、偶然にもそのような状況に堕とされただけなのかもしれない。偶然にも生き易い環境に生まれた者たちと、生きにくい環境に生まれてしまった者たち。あるとすれば、それだけの違いであり、他に一体どのような違いがあろうか。

悪いのは、ヴィランなのか。それともヒーローなのか。

一体なんなのだろうか。

もし死柄木弔が、ワン・フォー・オールを継承していたら?

もし緑谷出久が、オールフォーワンの後継となっていたら?


たったそれだけの差で、この「僕のヒーローアカデミア」という物語は、二転も三転もする恐れもあった。

「個性」は、超常現象だ。常を超えるもの。人智を超えた存在。「個性」は、英語では「QUIRK」。




「QUIRK」の、


もう一つの意味は、

「運命のいたずら」



この作品から学べる事。それは、生れによって、既にある程度の能力が決定してしまっているということ。まぁ、人間の素晴らしい点は、進化以上のスピードで、新たな技術を次々を身に着けることが出来ることだ。

しかし、生れた時に授かる肉体は、いわば親のコピーである。限界を最初から設けようというのでないが、生まれてくる子供たちは、ある程度の枷を背負っている。それは「運命のいたずら」なのか。

この作品はいわば、現実世界で人間が直面する大きな大きな制約を、「個性」として強調するのである。行動遺伝学では、環境と遺伝が与える影響はおおざっぱに半々である。環境次第でどうにかなるという奴も、その考えすら環境に依るものかもしれない。遺伝じゃないよというやつも、その性格すら遺伝によるものかもしれない。少し話が逸れた。閑話休題ぇ。



悪いのは、ヴィランかヒーローか。

いや、「悪い」ものなんていないのだ。


ここで、僕のヒーローアカデミア八巻より

トガです! トガヒミコ 生きにくいです! 生きやすい世の中になってほしいものです! ステ様になりたいです! ステ様を殺したい! だから入れてよ弔くん!(堀越耕平、2016、110)


自分がひたすらに生き易い環境を望んでいるだけなのだ。それだけのはずなのに、それ以上の複雑なことが起こる。解り易く云えば、カオス理論だ、バタフライ効果だの言えるが、その文言以上のややこしさ、厄介さというものが、「僕のヒーローアカデミア」という作品と、そしてこの現実世界に溢れているのだ。


僕のヒーローアカデミア、一体どんな風に進んでいくのか・・・




今日も大学生は惟っている。


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引用文献

堀越耕平.(2016).僕のヒーローアカデミア 八百万:ライジング.集英社


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