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日記8

印刷室で、ある先生と一緒になった。定期試験の印刷。僕はその人のことを尊敬している。信頼できる先生。50過ぎの女性の方、パチンコが好きで、喫煙者だ。

「先生、顔が白すぎない!?って生徒が言ってたよ」
僕はそのとき、なんとなく、この人に打ち明けてみたいと思った。実は今、精神科に通院していて、という話をした。
「先生は真面目だからね。私なんて生徒に何か言われてもすぐ忘れちゃうもん。授業についての話をしていても、すごくよく考えていて、立派だなって思ってたもん」
僕は肯定した。授業に手応えが無くて、どうしても考えすぎてしまう。
「先生の授業面白いって生徒は言ってるよ。授業なんか受けに来てない生徒ばかりのこの学校で、それってすごいことだと思うけどな~。だいたい授業って生徒が乗ってきてくれないといい授業にならないじゃんね。だから半分以上は生徒の責任もあるんだよ。」
僕ははっとなった。裏側のことを考えた。良い授業ができたときに、これまで「自分一人の手柄だ」と思っていた。でも考えてみれば、それは奢りだった。そうだ、半分以上は生徒の手柄だったんだ。僕はそのことに気づいて、自分の浅はかさに愕然となった。なんてうぬぼれだ!
「うちの生徒を乗せるのは相当難しいから。この地区で一番お勉強できない学校だし。私は授業が跳ねなかったときに、いつも生徒のせいにしてるよ笑」

すごく基本的なことを忘れていた。授業における生徒の存在ほど大きなものはない。自分一人でいい授業にはならない。それはオンライン授業をしていたときに嫌というほどわからされた事実だった。これまで自分は生徒に恵まれていたんだなあと思った。体中から力が抜けた。

「生徒に好かれたら、それでもうOKじゃん。全部うまくいくよ。」
以前に勤めていた中高一貫校の、中学校の教頭が言っていた言葉だ。なるほど、そういうことだったのか。その真意がようやくわかった。たしかに好きな人の話なら、生徒たちは聞いてくれる。いい授業を展開させやすい。これまでの経験が一本の線でつながった感覚があった。

結局、うぬぼれが自分を苦しめていたんだ。
僕自身の才覚ではなくて、たまたま僕のことを好いてくれる生徒に助けられ続けてここまでやってこれたんだな、と思った。

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