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異世界転生UIUXデザイナー・前編〜【視伝研】架空の世界のUIをデザインする

私は株式会社ゆめみのUIデザイナー・山下アンジェリカ!
ゆめみのお仕事はいつもフルリモートだけど、今日は初めて東京オフィスに出勤するよ!ドキドキ!

ゆめみの東京オフィスは8階だったはず…

なんと、エレベーターを降りたら、絶対にオフィスではない謎の世界にやってきてしまった!

幸い有給取り放題制度のおかげで急な事故などにより働けない状況でも法的有給の残数を気にせず休暇をとることができるが、このままでは勤怠連絡すらできないままモンスターに食べられそうだ。

「お困りのようですね」
「ハッ!あなたがたは…!?」

「冒険家パーティ・シデンケンや!」

異世界でうろたえるアンジェリカと謎の冒険家パーティの出会い
〜シデンケンのメンバー〜
勇者:ダン 魔法使い:ゾノ 僧侶:エベ 戦士:ワカボ 盗賊:ヒロト

-この記事は、株式会社ゆめみ内で発足した「視覚伝達情報設計研究室(通称:視伝研)」のテーマ「架空の世界のUIをデザインする」に基づき、「異世界でもHCD(人間中心設計)って使えるの?」をテーマに制作したものです。HCDが何かわからない方は株式会社コンセントさまのこちらの記事がおすすめ-


異世界UIUXデザイナー・誕生

幸運にも、冒険家パーティに救助してもらうことができた。しかし、剣も魔法も使えない人間がこの世界で生き抜くことはできるのだろうか…

「とりあえず勤怠連絡するか」
「異世界に転移してしまったため本日は業務終了…と」

「そ…それは!?」
「今、一体何をしたんですか!?」
「新しいマジックアイテム!?!!?」 

「え?スマートフォンでメッセージを送っただけですけど??」


私…何かやっちゃいました?

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どうやらこの世界はデジタルと無縁らしい。
なぜネットが繋がったかはひとまず考えないでおく。

電話もないし、
ニュースが知りたければ街の人に聞くか、酒場に行くか。
時計も、スケジュール管理も、ぜ〜んぶアナログ。

…剣も魔法も使えない私が異世界で生きていくのは難しいけど、この人たちの役に立つものを作ることができれば助けてもらえるかも!

そうだ、UIUXデザイナーの武器はUIUXデザインなんだ!
たとえ異世界でも!


異世界リサーチ計画

まずは彼らのニーズを理解するために、リサーチをしよう!
ひとまず、調査目的をざっくり定義してみたよ。

目的:
 ・冒険者パーティの行動様式の理解、および課題やニーズの把握
対象者:
 ・冒険者パーティ
  ・勇者、魔法使い、僧侶、戦士、盗賊の5人で構成
  ・年齢層混合(平均年齢30歳)、男女混合
調査内容:
 ・冒険者パーティが普段の活動(冒険)の中でとっている行動
 ・活動中に発生するペインとゲイン、およびそれが発生する文脈

リサーチにも色々な手法があるけど、今回はどうやってリサーチをしようかな?ちょうどHCD-NetのUXデザイン連続セミナー2022でリサーチのことを習ったし、復習がてら考えていくことにしよう。

「まず、定量調査か定性調査か
数値化したデータがほしいか、数値化できない生の声や感情を知りたいかってことね」
「今回は行動の理解が目的だから定性調査だな」

「それと、調べたいことは顕在レベルか潜在レベルか
「仮説が正しいかどうか確認したいのか、ユーザー自身もわかっていない潜在的なものを見つけたいのか……目的が検証か発見か、の違いね」
「今回はゼロからニーズを発見したいから、潜在レベルの調査をしようかな」

「というわけで、定性調査かつ潜在レベルの調査に向いている手法を考えよう!」

新たな発見に繋がる深い定性情報を得たいならA
定性的に仮説検証がしたいならB
新しいことをするために数字で証明された知見を得たいならC
仮説を数字で検証したいならD

・ 調査手法の検討

具体的な手法を選択していく。
デプスインタビュー
は彼らの考え方を探るには効果的だろう。
けど、あわせて彼らの基本的な文化や行動も知る必要がある。フィールドワーク形式のものもよさそうだ。

「お、コンテクスチュアル・インクワイアリーっていう手法があるのね。フィールドワークとインタビューを混ぜたような感じ」
「実際の現場に行って、ユーザーの普段通りの行動を観察しつつ、ユーザーに教えを乞うスタイルでインタビューする

「よさそう、今回はこれでいこう!」

「というわけで、シデンケンのみなさん、ご協力お願いします」
「私を冒険に連れて行ってください!」


異世界ユーザー調査

①冒険に出発

勇者・ダン

「冒険者の仕事は2種類や」
「1つは人々を困らせるモンスターをやっつけること、もう1つは未開のダンジョンを開拓すること」
「今日は西のダンジョンにいる巨大モンスターを倒しにいくで」

「よろしくお願いします!」
「(コンテクスチュアル・インクワイアリーはユーザーに弟子入りするスタンスが大事って本で読んだぞ)」

魔法使い・ゾノ

「まずは地図で目的地と、進む方向を確認します」
「確認したら、次は…」
「反対方向に進みます」

なんで!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

「アイテムや隠しダンジョンの見逃しを防ぐために、最初はあえて進行方向と逆に進むんですよ」
「お宝はいかにも進みたくなる方向とは逆の方向にあるもんやからね」

「なるほど。確かにカービィでもスタート地点の裏側に星のかけら落ちてたりするもんなあ」

盗賊・ヒロト

「あっちにもアイテムが落ちてますよ!」
「あ、向こうには隠しダンジョンっぽいものがある!わーい」

「(もしかして地図ってあんまり見てない?)」
「目についたもの片っ端から回収していく感じなんですね」
「いつもこうなんですか?」

僧侶・エベ

「うちはそうかもしれませんね。冒険中のふるまいはパーティごとの性格が出ると思います」

「個人的には、気になるものを見落としてないかは常に確認しながら進みたい派ですね」
「新しい発見をすると冒険者としての名が売れるし、何より新しいものを見つける楽しさが冒険者をやってる理由やから」
「もちろん、危険の少ない雇われ仕事ばっかりやってる冒険者もいるんやけど…やっぱり、ロマンを求める冒険者は多いと思いますねえ。本来危険な仕事やから、夢がないと冒険者なんてやってないと思いますね」

「なるほど〜〜」
(饒舌になったあたり、この価値の思い入れは強そうね)


②道具について

「探索してたらぜんぜん違う方向に来ちゃいました。ワハハ」

(やっぱり!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「こういうときはどうするんですか…!?」

「よくあることなんで、大丈夫です」
「魔法使いのワープで宿屋に戻れるんですよ。MPが尽きてたりやられてたりすると詰みやけど」

「魔法使いの重要度やばいですね。魔法使いってどのパーティにも必ずいるんですか?」

「大体いますね。魔法使いがいないパーティは代わりにマジックアイテムを使わないといけないから高上がりなんよ。だからどのパーティでも魔法使いは優先して雇おうとする」

「なるほど。ところで、マジックアイテム?…ってなんですか?」

魔法がかけられているアイテムのことですよ。フリーランスの魔法使いが作っていて、市販されてます。ダンジョンからの緊急脱出や、遠くの相手と連絡をとるときなんかに使いますね」
「例えば、この地図もマジックアイテムです。現在地や、行ったことのある宿屋の位置が光ってるでしょう。それと、目的地にも印がつけられます

(マップアプリじゃん!)
「(でも、未開のダンジョンを開拓するのが冒険者なんだよね?)」
地図は誰がどうやって作ってるんですか?

「冒険者が踏破して比較的安全になった地域を、地図屋の魔法使いが自分で調査します
「空を飛んで地形を見て作っているそうですが、危険で手間もかかります。だから精度が高い地図は貴重で高額です」
「そして危険なエリアは情報が雑だったり、地図が存在しないこともあります。今回はそこそこしっかりした地図があるエリアの冒険ですね。地図が有るか無いかだけでも、冒険の危険度が大体推測できます

「なるほど〜〜〜」
「(マジックアイテム = 冒険の便利ツールか。デザインできる余地がありそうな道具はしっかり記録しておこう)」


③戦闘について

戦士・ワカボ

「モンスターが出ました!危ないので下がっててくださいね。オラッ!

「ワンパンで倒しちゃった!!!!!!!!!!!!!!」
「え、戦闘ってこんなものなの!?」

「そのへんにいるモンスターはワンパンで倒せるくらいの力はないと進めないですから。だから、どのダンジョンに行けたかがパーティの強さの基準にもなります
「誰も知らないダンジョンは強いモンスターが多い可能性が高いです。知らないダンジョンに行くのは楽しいけど、やられるリスクも高いんです」
未開の地を踏破すると冒険者としてのステータスになるのは、そのせいもあるんですよ」

「エリアによっては危険もあるんですね。怖くはないんですか?」

「いや、普通に怖いっすよ」

「死にかけると焦るけど、僕は未知のものを見つけられるワクワクのほうが上やなあ」
「でも、どの程度の危険を許容するか話し合うのは大事ですね。勇者や戦士は強いけど、僧侶や盗賊は一人になると戦えないですし。感覚のズレでパーティが崩壊することもあるから」


④冒険の進め方について

疲れました。あとMPがそろそろやばいです」

「どれどれ、今の位置は…ちょっと目的地から遠いなあ」
「一旦宿屋に戻るかあ」

「このタイミングでようやく地図を見るんですね」

「目的地に近ければ、アイテムや魔法で回復してそのまま進むんやけど」
「もとのルートから外れすぎてる場合は中間地点に戻って回復するんです」

「目的地に着くまでにかなり時間をかけるんですね…」

「僕は探索そのものが楽しくてこの仕事やってるから、結構時間かけちゃうなあ。時間制限のある仕事も少ないんで、自分たちのペースで探索を楽しみながら仕事してることが多いっすね」
「決まってるところに行くだけのお使い的な仕事って物足りないんですよねえ」

「僕は長距離歩くのしんどいので、効率は上がると嬉しいですけどね」

「なるほど〜」
(パーティの中でも、徹底的に探索したい派と、それなりに効率よく仕事をこなしたい派がいるのか…)


⑤依頼完了!

「あ!あれは目的の巨大モンスターでは!?ようやくたどり着きましたね!」

「オラッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うそ!またワンパンで倒しちゃった!!!!!!!!!!!?????????」

「うーん、今日の依頼はチョロすぎたなあ、残念」

「…このあとはどうするんですか?」

「帰って依頼主に報告をします」
倒したと言えばなぜか信じてくれる依頼主が多いんですけど…一応、証明にモンスターの一部を持って帰るようにしています」
「あと、依頼主には今回の依頼が簡単だったことも報告するようにしていますね。簡単な依頼ばかりだとつまらないしお金にもならないので、次はもっとレベルの高い依頼が来るようにアピールするんです」

「同じように、苦戦した場合も正直に依頼主に報告するようにしてますね」
「見栄を張って余裕アピールする冒険者もいるんですけど、実力を詐称すると命にかかわるから良くないですね。気持ちはわかるんやけど」
「僕らが強いパーティだと思われたいのは、見栄というより良い仕事を受けるための宣伝目的ですね。だからきちんと報告するのが大事」

「なるほど〜〜」
(このあたりの価値観も大事そうだし、あとで分析が必要だな)


異世界ユーザー調査分析

「これで今日の冒険は終わりです!お疲れ様っした〜」

「ありがとうございました!大変参考になりました」
「さて、今日のユーザー調査の結果は…と」

ドン!

※異世界なのでmiroではなく紙で行っています

このあとの分析のために、付箋を使って記録をカード化したよ。
これを使って、上位下位関係分析法で階層的にニーズを抽出していこう!

・ 上位下位関係分析法

まず、一番下の階層に、ユーザー調査で知り得た事象のうち、特徴的な言動をそのまま配置していく。似たものがあればグルーピング。

その上に、事象から導き出される「〜したい」という目標を書き出し、紐づけていく。そして、さらにそこから導き出される本質的なニーズを書き出す。

「ところで、UXデザイン連続セミナー2022では、KA法を使ってユーザー調査の分析をしたっけ」
「個人的には、KA法のほうが『どういう行動を根拠に』『どういう理由で』『どういうニーズがあると分析したか』文脈が丁寧に擦り合わせられた気がするな。その分時間はかかったけど」
「複数人でしっかり意思疎通しながら進めたいときはKA法でもいいのかも?」

「よ〜し、できた!」
「この分析結果をもとに、ユーザーモデリング体験構想をして…」
「そこからデザインね。がんばるぞ〜!」


数日後…


「そういえば、この間いっしょに冒険に行った子、今どうしてんのかなあ」

「シデンケンのみなさん、お久しぶりです!」
「この間はありがとうございました。今日はこれをみなさんにプレゼントしにきました!」

「こ…これは!!!!!????????!???」


アンジェリカの作ってきたデザインとは?
そして、そのデザインを作るためにはどのようなユーザーモデリング体験構想が行われたのか!?

後編に続く!



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