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夫と長男と次男

次男の面会にも行かず様子も聞かない夫は相変わらずだったが、私はそれをよしとした。
やれるだけをやると決めた自分の気持ちを貫き、夫にも優しく明るく過ごしていた。

手放せないものがたくさんある時はしんどい。
どうなってももういいや、成るようにしかならない、ただ物事が起こるだけと思えたらずいぶん楽な気がした。

ある時夫と外食をした。
食事が終わるころ夫が泣いた。

夫は泣かないので泣くと悲しい。つられて涙が出た。

鍋を食べに来て泣いてる。
私たち夫婦は本当に未熟だった。

夫は私に次男を押し付けたことの罪悪感もありながらも、自分の気持ちに折り合いをつけるのに長い時間がかかったんだと思う。
また気持ちを入れ替えて頑張ろうと決めたようだった。私たちは何度もくじけて何度もやり直した。

長期の少年院にいるとほとんどの子がそこで誕生日を迎える。次男の誕生日ももうすぐだった。

何も出来ないが誕生日には夫婦で面会に行こうと思った。
今までそんなことはしたことがないが、
『誕生日おめでとう!』みたいな文字が書かれたTシャツを着て行ったら次男が喜ぶかなと思った。

芸大に通う長男に相談するとデザインしてくれるということになった。

私は次男の名前や大きなおめでとうの文字やケーキの絵を想像し仕上がりを楽しみにしていた。

出来上がったTシャツはモノクロでhappy birthdayの文字と大きなクラッカーが描かれていた。
クラッカーからはタバコやナイフやお酒、コインやカードや拳銃など、あらゆる悪そうなものが飛び出していた。

『罪を犯して塀の中にいても誕生日は全てから解放される日』
そんなイメージで作ったと長男は言った。

『俺もあいつもそんなに変わらんよ。
ただ父さんに見て欲しいだけなんよ。
父さんは何でも出来たし敵わんかった。
だけど絵だけは父さんが褒めてくれた。』

そんな事を思っていたと知った。

…次男の誕生日には夫がこのTシャツを着て面会に行った。次男は「カッコいいね。」と言った。

#少年院 #家族 #非行 #兄弟 #親子 #面会
#解放 #手離す

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