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男と女シリーズ

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〇〇な男と〇〇な女たちの世にも奇妙な物語
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記事一覧

【短編】マスクの女(2200字)

顔の上半分にしかファンデーションを塗らなくなってから、もうかれこれ1年が経つ。前代未聞の疫病が世界中に蔓延し感染防止のため、マスクなしでは外出できなくなったのだ。ファンデーションは減らなくなったが、その代替えとしてわたしの女としての何かが着実に減っているような気もするが、目をつぶっている。耳も塞ぎたいくらいだ。常にマスクをしているせいで、肌は荒れ放題。極度の乾燥状態で粉を吹いているくせに鼻の頭だけは油分が多い。逆に、いきなり明日からマスクがいらない世の中になったら困ってしまう

【短編】キノコを持つ男(2000字)

両手に抱えるほど大きくなったキノコを医者に見せた。 「ほら、こんなに大きくなっちゃったんです」 ヌメヌメとして照り輝くそれは、なめこに似ているが、形はヒラタケのように不規則に広がっている。それでいて頂点の方はマッシュルームのようにぷくりと盛り上がって、それが少し可愛らしかった。 見たところぬめりがかなり強そうだが、触る手に不思議とその感覚はない。大きさほどの重みも感じられなかった。 「あぁ、ずいぶん大きいみたいですね」 「そうなんです。2週間前はポケットに入っていたの

【短編】遅れる男(3000字)

何故だか僕は、何かと出遅れてしまう男である。 時間にルーズというわけでもない。 僕自身は大変真面目な男だと自負しているし、責任感だってそれなりにある。 上司からもそれなりの評価は受けている…はずだ。 ただ……ここぞ、という時に限ってなんだ。 本当に些細なことではあるが、それに起因して大事な約束に遅れたりする。 例えば。 朝のゴミ出し。 忙しい朝、溜まりに溜まったゴミを今日片付けよう、という日に限って車のキーが見付からない。提出書類を部屋に忘れて慌てて戻る。 そんな些細な時

【短編】箱の男(2600字)

真っ暗だ………。 何も見えない。 本当の暗闇がそこにあった。 ただ、狭い……圧迫されるような感じだけがある。 ここは、どこだ…………? 俺は、気付くと暗くて狭い箱の中にいた。 ここはどこなんだ……? 俺は、考えを廻らせる……。 ここに来る前の記憶というものが、一切ないのだ。 なにも、わからない。 ただ、何か箱のようなものに詰められている。 そのことしか、わからない。 カタカタカタ…… 不規則な振動が、微かに男を揺さぶった。 耳を澄ませれば僅かながら、でも確かに外界の音

【短編】消耗する男【2900字】

カラカラカラカラカラカラカラカラ……。 ロールが勢いよく回転する音が聞こえる。 不二夫がトイレにこもると、その締めくくりには、決まってこんな音が続く。 カラカラカラカラカラカラカラカラ……。 春子はこの音を聞くたびに、イライラを募らせていた。 1度のトイレで一体何センチのトイレットペーパーを使うつもりなのだ。 不二夫がトイレから出ると、いつも空のロール芯が転がっている気がする。 もう少し、資源や家計のことを考える頭はないのか。いや、ようするにお前は馬鹿なのか。 春子は、