水のように流れる

河の流れは常に絶える事がなく、しかも流れ行く河の水は移り変って絶間がない。奔流に現われる飛沫は一瞬も止る事がなく、現れるや直に消えてしまって又新しく現れるのである。世の中の人々の運命や、人々の住家の移り変りの激しい事等は丁度河の流れにも譬えられ、又奔流に現われては消えさる飛沫の様に極めてはかないものである。

人間のこういう運命、朝に生れては夕に死して行かなくてはならない果敢ない運命、変転極りない運命、こういう事を深く考えて見ると全く、結んでは直に消え、消えては又結ぶ水流の泡沫の如きものではないかと思ったりする。奔流に結び且消ゆる飛沫の運命、それが詮ずる所人々の歩むべき運命なのである。

鴨長明『方丈記』佐藤春夫訳

この世のすべてのできごと。
自分の身に降りかかる、不幸と幸福。
もしそんなものが運命だったら、しようがないよな。
抗ったってどうする。抵抗して、反逆して、必死の望みをしても、意味がない。
はじめから運命は決まっていたのだ。

たった十年の人生だ。
水のように流れる。運命を受け入れる。
それだけしか、しようがない。

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