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『風立ちぬ』(堀辰雄)

―すぐ立ち上って行こうとするお前を、私は、いまの一瞬の何物をも失うまいとするかのように無理に引き留めて、私のそばから離さないでいた。お前は私のするがままにさせていた。
風立ちぬ、いざ生きめやも。    ―(本文より)

「風立ちぬ。いざ生きめやも」は、その一句だけでとても意志の強い言葉です。生きることや前を向くことへ気持ちが運ばれて、小説の内容を知らなくても自然と身体に力が湧き起こります。
レッスンでは、この有名な一句を含む冒頭を朗読し、『風立ちぬ』の世界に触れてみます。

最終章が軽井沢で書かれたということもあってか、風景描写がとても美しく、思わず口に出したくなります。

>縁だけ茜色を帯びた入道雲
>不意に、何処からともなく風が立った。
>日の光が数知れず枝をさしかわしている低い灌木の隙間


上に挙げた引用と同じ景色を自分も確かにみたことがあるはずだと思うのですが、言葉で眺めて初めて自分の見たものが美しかったのだと気づきました。朗読をしていてよかったと思うのは、こういう時です。私は知っている、既に持っている、この感覚を、この景色を。記憶の中にあるそれらを言葉でなぞり、自分の内にあるものの価値を再認識できる時です。
言葉にすることで人は記憶ができるというのをどこかで読んだことがあるのですが、認識するということもまた、言葉の助けが大きいのだと思います。
正直なところ、若い時にこの小説を読んでもあまりピンときませんでした。でも、記憶の中にたくさんの景色を蓄えた今、堀辰雄の文章が何気ないシーンに彩を添えてくれます。

9月のブンガクコースは、『風立ちぬ』(堀辰雄)です。
スケジュール

秋の気配を感じながら、ご一緒に風の流れる文章を朗読してみませんか。

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