見出し画像

散文詩

書き始めるまでは書くことがあったような気がするけれど、いざ取り掛かると明瞭ではない。不思議なもので、そんなときは詩作でもしようかという心持ちになる。

というよりも、曖昧な感傷やふっと脳裏に浮かぶ場面へと興趣をそそられる。小説が長い懲役だとすれば、詩作は余暇の楽しみになる。筋書きや脈絡を追放すると、書きたいことだけを書いている。

発散する意欲はすべからく反動に所以する。太陽は大抵が静寂のモチーフに、月は唾棄すべき安易な狂気に、筋書きを追いやれない哀れな水子に、想像が容易では創造する余地もない。与える名前には周囲を巻き込む感傷ばかりが蔓延する。

暗いところには情動が暗躍し、陽炎の立つ細道には倦怠と虚無感を惹起する。言語化した形象は二次利用の汚名を拭えない。けれども、素直な表現は属性から免れない。蒸発する精液の強烈さをも筆跡は過去に残している。

抽選された才能と成果に付いた屍臭、黒でも白でも同じ柔軟剤、薔薇と太陽の芳香剤、立ち籠める人間の汗の味、新車の無臭に催す吐き気、陰嚢の裏に隠された刺激臭、精液と同じ花の芳しさ、同一性を認められない認識の愚かしさ。

カワルガワル奇をテラッタ。自尊心のタリナイ演者にヒツヨウな人形劇のキケツ。キノピオに根差した自尊心と、恥じ入らせない矜持の拍動、やがて身になる人間の形があった。尊厳に附随する攻撃はあれど、恥辱を因果にする犯罪は皆無だった。彼こそが唯一の理想的な人間だった。

宗教とは日を過ぐれば劣化し、教義は上っ面を浚われるだけで磨耗する。研磨しなければ保てない主意も、意趣を把握した一流の加工者でなければ趣味に落ちぶれる。達人の手になる鮮やかな刃傷もやがては蛆がわく。膿んだ傷痕もそして切り捨てる。隻腕もまた美しい不具となり、血の通う不能は代替する手腕を生む。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?